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265:めぐる因縁

「それで〆、その憚り者と言うのは一体何者なんだ? ここで俺を殺そうとしたヤツと一緒なのだろう?」


 その問いに〆は壁の方を一瞥する。そのあと流へ「その通りです」と頷き、美しい顔を苦痛に歪ませるように続きを話す。


「あの者……口に出すのも憚られる忌むべき存在は……私の……姉です」

「なっ!? そ、それは本当の事なのか?」


 あまりの真実に流は言葉をつまらせ、その真偽を問う。驚愕した流の様子を見ていた壱と参も、〆同様の無念の表情で頷く。


「壱、参。お前達まで……なぜだ、なぜお前たちの姉や妹が古廻家を滅ぼそうとする?」

「それをお話する前に、少し昔の話をさせていただきます。あれは古廻家が過去に敢行(かんこう)した、大規模な異世界遠征を行う前に話しは遡ります――」



 ◇◇◇



 ――当時、鍵鈴家(けんれいけ)は人形と闘争状態だった。その人形との争いは熾烈を極め、互いの戦力を消耗しつつ一進一退の攻防だった。

 その最中、当時の異怪骨董やさんの主である「鍵鈴(けんれい)(ふう)()」は、一つの決断をする。それは〝神の一柱〟の戦への投入である。


「すまねぇ『(ふたば)』。俺が頼りねぇばかりに、お前に間者(かんじゃ)をさせる事になっちまった」

「おやめくださいまし封座様。弐は貴方様のためなら、如何様(いかよう)にでもなりましょう。それが人形の元へおもむき、情報を持ち帰るという事であれ喜んでいたしましょう」


 弐は実に可愛らしく微笑む。見た目は二十代前半ほどであり、髪は薄い紫色の背中まで伸ばしたストレートであった。

 その顔立ちは目鼻がスッキリしてる美人と言った感じの、〆とは対照的な心が安らぐ顔立ちである。

 もし町でこの娘に微笑まれたら、大抵の男は恋に落ちるほど心が温かくなるような、とても安らぐ笑顔であろう。


「重ねてすまねぇ。弐……その言葉に甘えるぜ」

「ええ、いつでも甘えてくださいましな。それでは行ってまいりますね」

 

 にこりと微笑む弐を見つめる封座は、無事の帰還と謝罪を込めた意味で頭を下げる。

 それを弐は一瞬驚いた顔で見つめると、封座の頭を三度撫で部屋を出ていく。

 長い廊下を歩く弐は、庭に一年中狂い咲く八重桜を見つけると、そこにある茶室へ入り茶を()てる。


「はぁ、やっぱりここから見る八重桜は良いものねぇ。そうは思わない〆?」


 八重桜の後ろからゆっくりと現れた〆は、少し厳しい表情だが気負いなく茶室へと入る。


「姉上聞きましたよ。人形のもとへと往かれるとか?」

「えぇ、そうなのよ〆ちゃん。お姉ちゃん、がんばってくるよ」

「……そうですか。貴女はこころ根がやさしい。ですからくれぐれも注意をしてくださいね?」

「大丈夫よ~本当に心配性ねぇ。こう見えても鍵鈴守護神に就いて、兄妹となっている時間は、あなたより長いんですからねぇ?」

「そうでしたね。私が加入する前からいるんでしたね。くれぐれも、『同調』しないようにお気をつけを」

「ふふふ……分かっていますって。はぁ~この眺めもしばらく見れないのねぇ」


 弐はそう言うと先日買い求めた大名物の、漆黒の聚楽焼(じゅらくやき)茶碗(ちゃわん)の縁を指でなぞる。その表情はどこかもの悲しげであり、抹茶が無くなるのを惜しむようにも見えた。

 やがて最後の一口を飲み干すと、弐はゆっくりと立ち上がる。


「じゃあ〆ちゃん、お姉ちゃんは行ってくるね」

「ご武運を」

「ふふふ……ありがとう」


 そう二人は最後に言葉を交わす。サラリと肩にかかる薄紫色の髪を左手で払い除け、ゆったりと廊下を歩いていく後ろすがたを〆はジット見つめる。

 その様子がどうしても気になり、心が落ち着かない〆であった。



 ◇◇◇



 それからしばらく時が過ぎ、弐は敵の懐に潜り込む事に成功をする。それからは弐のおかげで敵の情報が容易に入手できるようになり、鍵鈴の者たちは大いに喜ぶ。

 さらに時は進み、弐が敵地に潜入して二年の歳月を迎えようとしていた時だった。


 鍵鈴の者たちは、現在とある廃寺に集っていた。その目的は弐よりもたらされた情報による結果を出すためだ。

 

「御館様、準備は整いました。これより弐様よりの情報を元に突き止めた、敵本拠地へと総攻撃を開始します」

「ご苦労。ここまで実に長かった……。大盾家、鯱家の二家は滅び、残す封印の一族は我ら鍵鈴のみ。だがまだ滅ぶわけにはいかん、あの憎き人形を滅するまではな」


 封座は立ち上がり、一人の少年に静かに近づく。少年と言っても本当にまだ幼く、年は五歳になったばかりである。


「この父の背をしかと見届けよ。後は頼むぞ『千石』よ」

「ちちうえ……どうかごぶじで、もどってきてください! そしてまた剣をおしえてください!」

「うむ、母の言うことをしかと聞くのだぞ? そんな顔をするな、すぐに戻ってくる」

「あ゛い゛!! せんごくはなきませぬ!!」


 声を押し殺して泣く息子、千石の頭に優しく手を載せて数度撫でる。

 そんな二人を配下の者たちは静かに見守る。あるものは微笑ましく。あるものは残した家族を思い。あるものはこの二人の命を守ると誓う。

 そして二人の別れが無情にも訪れる。


「失礼します御館様。人形めに動きがあったとの報告が入りましてございます」

「……そうか。では皆の者、これより最終決戦を挑む!!」


 封座は颯爽と立ち上がると、廃寺の入り口に向け抜刀する。


「者共、時は来た!! 目指すは一点!! 敵首魁、『墜ちた座敷わらし人形』ただ一柱のみ!! 怨霊と遭えば一閃で! 妖魔と遭えば圧倒する斬撃で! 鬼神と遭えば練り上げた業で無慈悲に斬り伏せるのみ!!」

『『『オオオオオオ!!』』』

「全てはこの決戦に注げ!! 命を惜しんで拾うな、捨てに行け!! これより出陣する!!」


 湧き上がる気力を纏う鍵鈴の者たち。足にそれを纏い、人を超えた動きで廃寺を後にする。

 その後ろ姿を千石は、じっと見つめる。それが父との最後の別れとこの時は知らずに……。

 鍵鈴千石、この時より十五年後に刀照宮美琴と邂逅する。

 そして運命の歯車がここからゆっくりと、確実に動き出すのだった。

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