255:腐心の種
後ろから覗き込んでいた美琴が、その内容に眉をしかめながら話す。
「流様、地下で感じたでしょ? あの清浄すぎる空気と、水の輝きを」
「ああ……この体になった事で確実に分かった。あれは――聖域だ」
その話を聞いていたキルトは、さらに材料を提示する。
「私にはお二人のお話のお言葉が、本当の意味で分かりませんが、こちらの資料を御覧ください。内容は『トエトリー壊滅計画』と書いてあります。ただこの資料はアルレアンが独自に制作したものらしく、日記に近いものとなっています」
「なに!? 見せてくれ!」
そこには驚きの内容が書かれてあった。このトエトリーの中でも特別な場所であり、秘匿性が高く憲兵すら立ち入る事が許されない場所を拠点に、内部の「霊的守護を破壊」するのが目的だと言う。
霊的守護とは流には意味が分からなかったが、異常なまでの清浄なる空間を見た後ならそれも理解が出来る。
つまりここ、トエトリーはそういう加護の下に繁栄した街というより、都であると分かる。
「それであの小物、アルレアン子爵を抱き込んだのか」
「ただ少し疑問もあります。私達もアルレアンを抱き込もうと、何度か接触した過去があります。しかしアルレアンは聞く耳を持たないばかりか、殺盗団に関わる事を拒否しました」
「つまり、昔はまともだったと言うわけか?」
「はいその通りです。むろん大金を積みましたが、毎度門前払いされる始末でしたね」
その話を聞きながら流は考える。仮にもトエトリーの重要拠点を任せられる人物だった男で、しかも殺盗団の甘い誘惑すらはね退けた男。それがなぜ今になって突然墜ちたのか……。
「キルト、人を惑わす魔具や魔法はあるのか?」
「あるにはあります。が、ここまで豹変させれるかと言われると無理だと思います。せいぜい思い違いをさせる程度です」
「と、なると……。美琴に心当たりは?」
「んんん~っと……あ! そうだ、あるかな。邪法の一つで『腐心の種』と言う物があるよ」
「それはどんなのなんだ?」
「そうだね……一言で言えば人の本心を引き出すために、前面にある良心を腐らかせてしまうの。やがて良心が無くなった人物は、目的のためにどんなあくどい事も平気で行うようになるの。その結果、自分がどうなろうと後先考えずにね。ちなみにその種は邪気で作り出した物で、本当の植物の種じゃないんだよ」
二人の話を聞いてなるほどと思う。あの邪法使い、エスポワールが何かをしたのは間違いないだろう。
その事を考えながらキルトの資料を読みすすめる。
「うっそだろ……まさかあの豚王の一件も、エスポワールが関与してたのか!?」
「それはそうだよ流様。王都の商業ギルドからの荷物から出てきたんだからね」
「そ、それもそうだったな。しかし裏にこんな思惑が――」
――それはオークキングが暴れ、霊的加護が乱れる事に乗じ、水塔の地下に「呪鉾」を打ち込むと言うものだった。
それにより水源から徐々に汚染し、やがては街全体を侵食する呪いを施すつもりだったようだ。
さらに読みすすめると、今回の騒動の原因たる自分の事になる。
オークキングを追い払ったのは、ジェニファーとヴァルファルドが主体となり、そこに最近話題の巨滅の英雄が加わったと言うのが認識だったらしい。
その二人はすでに規格外であり、現時点は手を出すことはせずに静観するとのことだった。
だが、巨滅の英雄たる流に関しては未知の部分が多くあった。そこで排除の対象にするかを検討中に、元々問題にされていたスパイスの件が決定的となり排除が決定した。
そこで使い古しの方法だが、今でも効果絶大の「誘拐人質」となったわけだった。
「結局、全部、俺のせいか……」
「もぅ、またそう落ち込む! ほら、元気だして! キルトなんかびっくりして顔青くしているよ?」
ふと見ると、キルトを始め部下達が驚きの表情で流れを見ていた。いつも自信たっぷりなこの漢のあまりな姿に驚くのも無理はないだろう。
「い、いえ失礼しました。少し意外でしたので……」
「はは、まぁ色々あってな。心配かけてすまない。ま、なるようになるさ」
そう言うと流れは見かけは人間に戻る。すると今まであった圧迫する気配が消え、穏やかな空間になる。
「ここまで違うものなのですか……」
キルト達も流れの妖人の事は知っていたが、戦闘後の余韻がのこるような、圧縮された感じの重い妖気が霧散したことで、キルトやその部下たちも一息つくことが出来た。
「まぁ今のお前たちなら、問題なく接してくれるから助かるよ。他に何かあるか?」
「今のところはこの程度です。子供じみた日記でしたが、精度の高い情報はあったかと」
その言葉に流はうなずく。そしてキルト達に感謝の言葉を伝え、水塔を見上げる。
ロボのようなゴーレムとの戦いから始まり、最上階でのシュバルツとの戦い。さらにエスポワールとの死闘……そして。
「メリサ……」
ポツリと呟く流に美琴は胸の前に両手をあわせ、ギュっと握りしめる。
その背中がとても寂しく、まるで泣いている子供のように見えた。
美琴は流の気持ちを思うと、昔の自分を見ているようでせつなくなる。
敵とは言え、性根が悪い男じゃない人物にまで「死んでほしい」と言われ、助けようとした存在には「裏切られた」のだから。
そんな美琴の思いが伝わったのか流は静かに振り向くと、美琴をまっすぐ見つめる。
「美琴、そんなに心配するなよ。もう俺は平気だって……。でも、たまには数百歳のおねえさんに甘えてもいいかい?」
「もぅ……馬鹿な事言ってないで、黙って来てくださいな。私にあなたを閉ざす扉はありませんからね」
そういうと美琴はとても良い表情でほほえみかけるが、その一文に不穏な単語があったのを思い出し、流の頬をつねる。
思わず感じる頬の痛みに流は涙目になりながらも、この娘とあえて本当によかったと感謝するのだった。
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