254:役者ぶり
三左衛門が戻ったことを気配で察知した流は、前方を見ながら問いかける。
「三左衛門、どうだった俺の『役者』ぶりは?」
「ハッハッハ! そうですな~及第点ですな!!」
「え~? あれでかよ……俺かなり頑張ったよな美琴?」
「そうですよ三左衛門! 流様は一生懸命『弱いふり』をしたんですからね?」
「そうですなぁ~、あそこで一撃もらう演技があれば、なお良かったですな!!」
流達が言う演技とは、三左衛門たちの仕込みと配置が完了するまで、「敵に押されて」くれと言うものだった。
どうやら死人どもは、必ずと言っていいほど悪あがきをするので、本来は全て滅するのが作法らしい。
しかしエスポワールが鍵鈴の事まで知っているとなると、背後の組織をあぶり出したい。
そこで三左衛門らはその元を断つため、あえて逃しどこへ逃げるかを突き止める事にしたのだった。
もちろんその時にメリサは救出するつもりでいたが、メリサの裏切りによりそれも叶わず今に至るわけだが……。
そんな訳で、エスポワールは本気で倒そうと思ったが、使用人たちには手加減をしていたと言うわけだ。
流もはじめは遊んでいたが、人を超えた動きと不規則な動きで、結構ピンチだったのは秘密だったりする。
「それでちゃんと仕込めたのか? その付箋ってのを?」
「問題ありませんぞ大殿! それがしが死人めの眉間に一撃入れた時に仕込み、才蔵めがあの領域に仕込んだ忍術で、無事発動を確認したとのことですな!!」
「ならばその痕跡を追えば……メリサを取り戻せるな?」
「あの死人と同じ場所にいれば、それも叶いましょうや」
あの時のメリサの表情と、涙の意味。そして最後に口の動きで伝えてきた「ありがとう」の思い。
それが何を意味するのかは、まだ流には分からない。だが一つだけはっきりとしている事がある。
それは――。
「――何があっても、今度は必ず取り戻す! 絶対にだ!!」
そう流が決意を強く口に出したところで、一階の入り口の前に到着する。ここまでは斥候役のカラスが案内してくれた。
ちなみにこのカラスだが、美琴が機嫌の悪い時に誤って呪い殺したらしい……哀れである。
「さて大殿、一度我らは悲恋の中へと戻りまする!! 今後ともよしなに!!」
「ありがとう三左衛門。これからも世話になるよ、またよろしくな」
「はっ!! では戻るぞ者共! 向日葵は……起きんかあああ!!」
「ひぇぇぇ!? さ、三左衛門様!? あいたぁ~、頭殴らないでくださいよぅ」
武士の一人に背負われていた向日葵の頭に、拳を落とす三左衛門。
まったく容赦の欠片もない男である。そんなハートフル(?)なやりとりをしながら、次々と亡霊たちは悲恋の中へと消えていく。
すると明らかに、今までとは違い悲恋の力が湧いてくるのを実感できた。
「こんなに違うものなのか? しかもこれって……」
「気が付きました? 驚きますよね。これが悲恋の力の一つであるんですけど、中の家臣が戦いの経験を積んでレベルアップすることで、さらなる妖力の強化になるんだよ」
「そうなのか……」
それは頼もしい事だが、悲恋のパワーダウンを考えると使いどころが難しく思う。
多分だがフルパワーの悲恋なら、針孔三寸でエスポワールを倒せたはずだからだ。
だが今回は特に三左衛門達を召喚した事が、功をなした事を流は知らなかった。
やがて一階の入り口から外へ出ると、そこには予想外の光景が広がる。
まずは塔の瓦礫や装置が、ふっとばされて外へと撒き散らかされており、さらには外を守っていた犬のような大型の獣が、氷漬けになってあちこちに転がっていた。
そして――。
「お館様お怪我はございませんか?」
「おお!? キルト達じゃないか! よくココが分かったな?」
「はい、〆様より頂戴しました骨董品で、ある程度の状態は把握しています」
「そっか。それでここへは何をしに?」
「はい、まずお館様がここへ向かわれると報告がありましたので、片方を攻略すると考え、その逆を探ることにしました」
「ぉ、おう。流石だな」
「それでアルレアン子爵の屋敷を捜索しまたが、かなり真っ黒でしたね。まずはこれをどうぞ」
キルトが差し出したのは、羊皮紙で出来た魔法の封印が込められていた書類であった。
それを解除して読めるようにすでに処理してあり、キルトたちの有能さがさり気なく分かるものだった。
「何だこれは? …………ッ!? こいつは……」
キルトが隣の屋敷から見つけたもの、それはアルマーク商会との密約書であり、この土地の譲渡書でもあった。
そして、事が成就した暁には、自分をトエトリーの領主にする事を成約すると書かれていた。
「ここの重要さは水源だけじゃ無さそうだ……、それを狙ってたって事か……」
メリサの誘拐事件から始まった一連の事柄。その全容が徐々にだが明らかになっていくのだった。




