231:マヌケの定義
流達は三階へと到着していた。しかし内部は話の通り迷路のようになっており、隠し部屋からは警備ゴーレムが突如出てくるのが鬱陶しい。
「クソッ! 次から次へと襲ってくる!」
『見えないのに襲ってくるなんて、やっぱりサーモセンサーが付いているんですね』
「ああ、間違いない! っと、ワン太郎氷の壁を!!」
「わかったワン!!」
上半身人形の警備ゴーレム十機が半方位するように展開すると、右手の筒状のモノからエネルギー弾を撃ち出す。
どうやら魔法らしく、撃つ時は左手の盾の魔法陣が光っていた。
向かってくるエネルギー弾を、ワン太郎は氷の壁を床から構築して防ぐ。威力は大したこと無いようだが、連射出来るようで、氷の壁がみるみると削られていく。
「あの盾が発動装置か何かなのか? ならばッ!!」
流は崩れ落ちる寸前の氷の壁を足場に、一気に上方へと飛び上がる。
そして妖力を込めた美琴を、左側に思いっきり引き絞るように構え――。
「ジジイ流・薙払術! 巨木斬!!」
巨木斬を体をひねりながら、横に弧を描くように荒々しい無骨な斬撃を放つ。
警備ゴーレムはそれを認識すると、一斉に盾を構えると盾が白く光だす。どうやら防御姿勢のようだ、が。
巨木斬は警備ゴーレムの盾にぶち当たる、一機なら問題なく斬れるはずだったが、魔法の力とは恐るべきもの。十機の防御専用、魔法の盾に守られた本体は壊れることなく斬撃を押し返そうとした――が。
「美琴の力を舐めるなロボども!」
魔法の盾が徐々にくぼみ始めたかと思うと、そこから〝ゴッ〟と鈍い音がした刹那、盾が真っ二つになり、その後ろの本体まで吹き飛んだ。
『ふふん、ムカデじゃないなら余裕ですよ、よゆ~』
「だな。ふぅ~……しかし簡易ダンジョンとは言え、敵は多いしっと、またこれかよ」
突如壁から矢が飛んでくるのを美琴で払い、ワン太郎は何事もないように避ける。
「あるじ~、ダンジョンって面倒なんだワンよ。ここは良い練習場みたいなもんだワン」
「そうなのか? たしかにさほど入り組んでるわけでもなさそうだし……っと、またおいでなすったか」
『……なにか変なのいません?』
「本当だ……、何だあれは?」
四機の警備ゴーレムの中に、おかしな人形が混じっている。例えるならピエロのような容姿というのが、一番あてはまるだろう。
短剣をジャグリングし、片足で〝ピョコピヨコ〟と飛び跳ねながら向かってくる。
その背後には階段の入り口があり、どうやら階層ボスのようだ。
「今度はピエロかよ。ワン太郎、俺たちはピエロをやるからまた警備ロボを頼む!」
「分かったワンよ~」
ワン太郎が先行して走り出すと、警備ゴーレム達は一斉に魔法を撃ち出す。
それを危なげなく躱しながら、ワン太郎は警備ゴーレムを引き連れて広い場所へと誘導する。
ピエロ型のゴーレムもそれに続くと思われたが、ワン太郎を一瞥した後に流へと向かってくる。
「チッ、コイツもやっぱり俺を認識出来るのか。ワン太郎を追っていったら、背後から真っ二つにしてやろうと思ってたのに」
『流様……もう言い様が悪人みたくなってるよ?』
「違いない――来るぞ!!」
ピエロ型ゴーレムは、ジャグリングしながら短剣を素早い速さで投擲してくる。それを美琴で払おうとした刹那。
「なッ!?」
短剣が二つに分かれ、心臓と頭めがけて飛んでくる。それを急遽、妖力で具現化した小手でガードするが……。
「ッぅ……こいつも魔法ってやつか」
『な、流様!? 頬に傷が!!』
小手でガードをしたものの、魔法で強化された短剣は〝ぬるり〟と小手を滑るように動き、流の頬をかすめ飛ぶ。
「大丈夫、かすっただけだ。あぁ、俺魔法嫌いになりそう」
『来ます!!』
ピエロ型ゴーレムは初手で手応えを感じたのか、手に持つナイフを連投してくる。それを無理に打ち払おうとせず、流は足さばきで躱しナイフの軌道を覚える。
「うぉっと!? あぶねぇ、分裂をしながら攻撃されるって厄介だな! ならお返しだ」
流は背後へ飛ぶようにバックステップで移動すると、そこから走りながらピエロ型ゴーレムへ向けて業を繰り出す。
「分裂できる業はお前だけのものじゃないぞ? ジジイ流・参式! 七連斬!!」
迫る魔法ナイフを参式で拡散させた斬撃で相殺し、突っ込みながら上半身と下半身を胴のあたりから横に薙ぎ払う。
「終わりだ! セアアアアアッ!」
『ひぃッ、怖ッ!?』
「まぢかよ……」
見ると真っ二つになったピエロ型ゴーレムの上半身は、斬られた部分から手を生やして足のように動き出す。
さらに下半身はネック・スプリングのような動きで立ちあがり、駆け出してくる。
どうやらムカデ型ゴーレムとは違い、どちらも独立した動きで動けるようで、双方が不規則的な動きで流をはさみこむと攻撃を仕掛けてくる。
上半身はその手の魔法ナイフで先程と同じ様に。そして下半身は上半身が無くなった分軽くなったのか、その足に魔法ナイフを生やして蹴り技で襲ってきた。
「ずるいだろ! それ! うわっ!?」
『泣き言を言っても待ってはくれませんよ! ッ、後ろ!? 左斜め上から蹴り!!」
美琴の警告で左腕に具現化した小手で足技をガードしつつ、右手の美琴で上半身の魔法ナイフを打ち払う。
体制を整えるために、一度距離を取りつつ観察眼を発動する。
「助かったぞ美琴。さて、どうしたものか……」
『ん、あれは……流様!』
「どうした? って、どうやらマヌケが見つかったようだな」
『あら、背前の合わせ鏡はご自分を映す事もできるのですか?』
「ちがいない、どうやらそうらしい」
観察眼で見ると、上半身と下半身に二つ魔核を発見する。つまり、その間をご丁寧に斬り割いた結果、まぬけにも今の状況になったのを確認すると、どっと疲れが出た気分になるのだった。




