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229:沢山生えたよ

 警備ゴーレムは、まるで人と錯覚するように、人間臭くうなだれ活動停止する。

 それを見た流は〝ホッ〟とする。ここで警報でも鳴らされたら面倒な事になるのだから。


「よし、上部へ上る階段を探すぞ」

「多分向こうの角を右に曲がれば、階段がありそうだワン」


 ワン太郎は短い右足をその方向へと指す。気配を察知すると、確かにその方向から生き物じゃない何かの気配がする。


「……だな。この背前の合せ鏡は、一度見破られたら終わりな使い切り骨董品だから、さっきやったようにワン太郎が囮になってくれ」

「了解なんだワン!」


 他の部屋や通路に迷うこともなく、ワン太郎が先導する通路を進むこと数分、目的の角を曲がった先にはこの水塔の由来とも言える光景が眼前に広がっていた。


「コイツは凄いな……」


 そう思わず呟くほどの光景、それは巨大な滝……いや、水の柱が頭上から落ちていたのだから。

 さらにその周りには、ゴンドラのような水を運ぶモノが動いており、どうなっているのか不明なギミックで水を運んでいる。


「なるほどね、水源と呼ばれるだけの事はある。しかし何処から水を上げているんだ?」

『本当に不思議ですねぇ。ゴンドラが独立して上下に動いているのは、見ていて飽きないよ』

「あるじ、アレを見て~」


 ワン太郎は気負いなく間の抜けた声で流の注意を促す。見ればその訳がすぐに分かった。


「へぇ……ダンジョンには付き物の階層ボスって言ったところか?」


 見れば面白い構造のゴーレムが、階段を塞ぐように壁に張り付いていた。

 これまでと違い人と車両のような外見ではなく、一番近い外見は「ムカデ」であった。

 つまり多足類昆虫とも言える外観で、その足は刃のように鋭い先端が特徴的なフォルムが凶悪といえる。

 しかもその頭には、複数の突起が付いており、どう見ても攻撃に使いそうだと思われるモノと、クワガタ虫のような鋭利なアゴが付いている。


『うぅ……私ね、ああいうの嫌いなんだよ。背筋がざわざわしちゃう……』

「幽霊が背筋をざわつかせるな。それより、あれは斬れるな?」

『フッ……愚問! この美琴を誰と思っている?』

「お前、いい性格になったよ。そこで俺の真似をするな!」


 どうやらいい性格な自覚があるらしい流は、ワン太郎へと指示を出してムカデ型ゴーレムへと攻撃を始める。

 

 ワン太郎は迷い犬のように、ウロウロと歩きながらゴーレムの前へと来る。さすがのゴーレムも、その異常さに気がついたのか〝ゾゾゾ〟と足を波打たせながら動き出すが、どうやらまだ敵とは認識していないようだ。

 そのままワン太郎を追うように、全長八メートルほどの体を動かし壁から離れた瞬間、流は斬り込む!


「敵に横を見せるとはマヌケな奴め! ジジイ流・弐式! 三連斬!!」


 自分からそうなるように仕向けたが、マヌケ呼ばわりする流。だがその行動は迅速かつ高速にゴーレムへと向けて、真横から「溜め込み型」の弐式を使う。

 その溜め込まれた妖力を、三連斬へと注ぎ込み一気に三等分へと斬り割く……が。


『キャアアアア!! なにそれ怖いッ!!』


 美琴が絶叫をあげた。その理由は……。


「うっそだろ!! なんで分裂してんだよ!?」


 その言葉通り、ムカデ型ゴーレムは流が斬った部分である場所から分裂し、三体になって円陣を組むように回転し始める。それと同時に警報が塔内に発令された。


「チィッ!? しくじったか……。ワン太郎! ムカデを凍らせてくれ!!」

「了解だワン!」


 ワン太郎は周囲の空間を歪ませると、長さ一メートル、直径五センチほどの槍を六本撃ち出す。

 一体に付き二本の氷の槍は、見事にムカデに突き刺さるが次の瞬間――。


『キャアアアア!? もうお家かえるぅぅ』

「叫ぶな、俺が叫びたいわ……」

「えぇぇ……。どうするワン……」


 氷の槍を撃ち込んだ場所から氷始めた瞬間、そこをパージしてさらに二倍に分裂したムカデは、六体になってしまう。その大きさ約一メートルちょいほどのムカデだ。

 やがてムカデは左右に体をしならせながら、ワン太郎へと向かいながら途中で枝分かれするように流へも向かってくる。


「やっぱりコイツら、サーモセンサーみたいの装備してるのか!?」

「あるじ~! ど、どうするワン!?」


 撃ったり斬ったりすれば分裂するムカデゴーレム。その対応に苦慮していると、背後からサーチライトのような魔具を点灯させた警備ゴーレムが迫る。


「ワン太郎! こっちは俺が引き受けるから、お前は警備ロボをヤレ!!」

「わかったワン!」

『わ、私もワンちゃんと一緒に……』

「馬鹿! お前いないと俺が死ぬわ!!」


 もぅグダグダな展開だが、ゴーレムたちは待ってはくれない。だってロボだから。

 ワン太郎が背後へと走り去ったのを尻目に、流は美琴を抜刀する。その刃にチラリを自分を映してみるが、やはり何も見えない。〝背前の合せ鏡〟の効果はまだ健在のようだった。


 流はその事に「チッ」と吐き捨てると、迫るムカデ型ゴーレムへと「覚悟」を決めて斬撃を放つ。


「もうどうにでもなりやがれ!! ジジイ流・参式! 七連斬!!」


 妖力を自在に操れるようになった流は、三連と四連をつなげて七連にする。しかも参式は威力は半分になるが「拡散型」で、倍の十四連にまで昇華させたものに、妖力を込め斬撃を飛ばす。

 妖力が詰め込まれた通常以上の威力となった連斬は、ムカデ型ゴーレムへ向けて殺到する。

 

「どうだ! やったか!?」


 禁句を思わず口にする……が。

 禁句効果は絶大なようで、ムカデ型ゴーレムには効果が無かった。いや、正確には効果はあったが、粉々になるかと思ったら「元の巨大なムカデ」に戻ったのだった。


「な、なんだと!? どうして元に戻れる!」

『ヒィィ……な、流さまぁ~早くやっつけて!』

「そうは言ってもおまえ……どうやって?」


 ムカデ型ゴーレムはとぐろを巻くと、そのままグルリと筒の形になり、縦に回転しながら襲ってくる!

 

「クッソ! 美琴妖力を俺に合わせろ! ジジイ流・初段! 青竹割り!!」


 ジジイ流などと言ってはいるが、実のところ「ただ真っ直ぐ打ち下ろしただけ」の剣戟である。が、その「真っ直ぐ」に斬ると言うことは簡単なようで難しく、それ故に基礎として血のにじむ素振りの後、ようやく会得したものである。


 その真っ直ぐで、なんのフェイントも無い面白みのない斬撃は、ムカデ型ゴーレムの〝ど真ん中〟を斬り裂き、真っ二つにする。


「……あぁ~、そゆことね」


 ムカデ型ゴーレムがまた二つに分かれ、今度は長さが同じだが細めの体になり縦回転でまた襲ってくるのだった。

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