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222:野次馬はどこにでもいる

「ナガレ!? よく戻ってくれた!!」


 ナガレの姿を確認した瞬間、椅子を後ろへ倒すほど勢いよく立ち上がり、その来訪を歓迎する。


「バーツさん……すみません。俺がスパイスなんぞに手を出したばかりにメリサが……」

「いや、お前が商売をすれば、どんな品になろうが確実に今回の状況になっていたはずだ。お前はそれだけの魅力ある品を売るのだからな。それに心配するな。奴らも商人だから、切り札をドブに捨てるマネはしない」


 そう言うものかと納得するが、やはり自分を許せない気持ちには違いなかった。

 丁度その時だった。ドアがノックされ、一人の人物の来訪を職員が告げる。


「ギルドマスター、お客様ですが……どうしましょうか?」

「いつも言っておるだろう。ナガレがいる時は他の客はキャンセルか、待たせておけと」

「実はそのお客様が――」


 そう職員が言い終わる前に、陰から一人の娘が飛び出してくる。

 

「ナガレさん!!」

「エルシア!? どうしてここへ?」


 見ればフードを脱いだエルシアが、涙を浮かべてナガレへと抱きつく。

 それを受け止めると、エルシアはついに泣き出してしまう。


「大丈夫だ、だからおちつけ、な?」

「ひっん……クスン……すみません、取り乱しました」

「すまないナガレ。止めたんだが走りだしてしまってな」

「ッ!? ヴァルファルドさんまで! 一体どうしたんだ?」

「まぁなんだ……。立ち話もなんだろうから、みんな座りなさい」


 バーツは状況を察すると、職員にお茶の用意をさせてから話し始める。

 

「それで一体何事かね? ヴァルファルド殿までお出ましとは、驚いたぞ」

「すみませんねバーツさん。実は今この娘をジェニファーより預かっているんですよ。それでナガレが戻ったとの報告が来て、ここへ来たという訳です」

「と、言うと例の襲われた娘と言うのは……?」


 その言葉にエルシアはコクリと頷くと、流へ向けて話し出す。


「ナガレさん、そしてギルドマスターすみませんでした。私をかばってあの子……メリサが身を挺して守ってくれたんです」

「それはもういい、お前も一歩間違えば死んでたかもしれんのだからな」


 バーツはそう言うと、エルシアの肩へ手を置き二回軽く叩いて無事を喜ぶ。


「そうだぞ、それにメリサは無事だったんだろう? そうジェニファーちゃんから聞いたぞ?」

「はい、突然何か割れる音がして……」

「なら大丈夫だ。あれはたかがナイフ程度ではやぶれないからな」

「やはり何かの魔具……いや、ナガレがもっとると言うのだから、()と同じモノか?」

「まぁそんなところです。それにしても発音が上手になりましたねバーツさん」

「あ、ああ。お前からいつも聞いていたせいかもな」


 思わず普通に刀と言ってしまい、バーツは少しあせる。なにせこの世界ではカタナなのだから。


「それでエルシア、その時のことを教えてくれないか? まだジェニファーちゃんからしか聞いて無くてな」

「はい……。あれは私とメリサが、ここの近くの公園でたまたま会った時でした――」



 ◇◇◇



「あ! アナタは商業ギルドの人!?」

「え? そういうアナタは冒険者ギルドの人!?」


 一瞬にして険悪な雰囲気が、ランチで賑わう公園に影を落とす。


「私はエルシアって言うんです! 商業ギルドの人はなんでここにいるんですか!」

「私はメリサって言うのよ! 失礼な冒険者ギルドの人ね! お昼をここで食べようと思っただけよ!」

「そうですか、わざわざ遠いところでランチとは、冒険者ギルドの人はお暇なんですね」

「うるさいですよ。私は丁度こっちへ用事があったから来ただけですよ、商業ギルド人」


 お互い名前すら呼ばず、相変わらずの様子だった。それを見ていた周りも面倒な奴らが来たなぁと、ランチをしながらワクワクして見ている。異世界にも野次馬はいるものだ。


「はぁ~もういいです。せっかくのランチが台無しですよ」

「ランチってアナタ、それ串焼きだけじゃないですか……体に悪いですよ?」

「っ!? いいんです! これはナガレさんから貰ったのと同じ味の屋台を探してここまで来たんですから!」

「ナガレ様……ですか……」


 メリサが溜息まじりに、流の事を思い出すようにポツリと名を呼ぶ。

 それを見たエルシアも自分と同じなんだと思い、ついこの話をふってしまう。


「その様子では、ナガレさんは商業ギルドにも来ていないようですね? 冒険者ギルドにもまったく来なくて、最近寂しいんですよ……だからせめて思い出の味をと、ここまで来たんです」

「ナガレ様の味……ですか……」

「ちょっと、卑猥な言い方やめてもらえます? もうっ! そんな顔しないでくださいよ。ハイ!!」


 エルシアは手に持っていた串焼きの肉束から、三本メリサへと渡す。それを見たメリサは一瞬いみが分からなかったが、素直に串焼きを手に取ると、おもむろに一番上の力豚の頬肉をかみしめる。


「お、美味しい!? これはいったい……」

「でしょ~? これはナガレさんが『わ・た・し・に』プレゼントしてくれた、とっても凄い串焼きなんですよ」


 そうエルシアは勝ち誇るように、タレの滴る肉束を、バラの花束のように見せる。

 だがそのエルシアの思いは見事に打ち砕かれる。そう、メリサが指輪を頬を染め撫でていたからだった。


「クッ!? ま、まさかそれって……」

「え? あ!? べ、別にアナタには関係ないでしょ!」

「もぅ、なに頬を染めているんですか! 丸わかりじゃないですか……ふぇぇ~いいなぁ」

「だ、だからそんなんじゃないんです! ナガレ様がお留守な間だけお預かりしてるだけなんですからね!!」


 その言葉を発した瞬間〝ざわり〟と空気が変わった気がしたが、素人の二人には分からない。そしてそのまま話を続けるのだった。

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