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219:嵐影・タイプS型

「確信……いえ、過去に時空神から見せられた記憶で、『もしかして』と言う程度なんだけどね、〆さんと同じ事を思っているかも」

「そうですか……。貴女もそんな感じですか……」

「うん……」


 二人はそんな話をしながら、流が作業している姿を見つめる。

 まるでおとぎ話を見ているような瞳で、胸の鼓動が高鳴るように、ジっと……。


「〆! ちょっと来てくれ」

「はい、ただいま……。では美琴、古廻様を頼みましたよ」

「うん。任せておいてください」


 どちらともなく目で頷きあうと、〆は流の元へと歩いていく。

 その様子を美琴は静かに一寸見つめると、やがて霞のように消え去ったのだった。

 

 準備が整い、流は店内中央にある囲炉裏前に来ると、五老に話しかける。


「五老! 今回も世話になった。また頼むぜ?」

『フン、ひよっこが。一端(いっぱし)の口を利くようになったな』

『然り然り』

『ねぇアンタ。その、無事に戻ってきなさいよ? べ、別に心配なんかしてないんだから、勘違いしないでよね!!』

『み、みんな。もっと素直になろうよ? えっと、気をつけてね?』

『フハハッ! ここ数百年で一番面白えヤツだってのは間違いない。だから俺をもっとたのしませろよ?』


 相変わらず五老のいる場所は見えない。が、そこの居ると思って、何もない空間へと話す。


「まかせておけって、絶対楽しませてやるからさ? んじゃ『この道具達』を借りていくぞ?」


 そう流が言うと、五老は楽しげに笑いながら許可を出したのだった。

 幽霊屋敷へと戻るとすでに日は傾きかけており、時刻は夕暮れへと転がるように滑り込む。

 足早に正面ホールへ向かった流れは、玄関の前に立つと音もなく扉が開く。

 そこにはすでにメイド達や、執事たち。そして夜朔らが勢揃いしていた。

 

「……マ」

「嵐影はSタイプの装備か? カッコイイじゃないか」


 嵐影・タイプS型と呼称されるこの装備は、速度重視に「異怪骨董やさんの骨董品」を使った物を、改造して嵐影へと装備させた物だ。

 それは「力馬の蹄鉄」と言われるモノだったが、嵐影の足は四本指であり、以外にも〝ぷにっ〟としたその足には装備する事は不可能だった。


 そこで壱と、急遽呼ばれた破壊坊でこの骨董品を改造した。その時、力馬の蹄鉄に憑いていた付喪神の抵抗は凄まじかったが、〆が〝やさしく〟接してあげると、「あんまりだあああああ!!」と言いながら泣き声をあげたという。


 その様子を見たワン太郎は、涙をながし何度も、何度も、うなずいていたという……。


 やがて出来がったのが、「嵐の鉤爪(かぎづめ)」と言うモノになった。

 嵐影の体毛色にあった青く輝くこの嵐の鉤爪は、前後両足のスネ部分に装備する小手のような形状だ。

 効果は速度を「最大二倍」まで出せる。しかし使用者の体の都合は関係なくと言う条件つきだ。つまり、体が壊れてもその速度までは無理矢理にでも出せると言うものだ。


 さらに嬉しい誤算だったが、この嵐の鉤爪の名の由来である「鉤爪」が派生していた事だ。

 なんとこの鉤爪は、「嵐影の意思で出し入れ可能な収納式」となっており、攻撃力も大幅に向上していると言うおまけ付きだった。


「いいなぁ~。ワレも欲しいんだワン。あるじ~ワレにも何か欲しいワン!」

「何を言っている? ワン太郎とは言え、お前は〝元〟氷狐王なんだから、それなりに強いからいいんだよ。贅沢は敵だぞ?」

「やだやだやだやだ! 欲しいんだワン!」


 ワン太郎は短い足をパタパタさせて駄々をこねる。


「ったく、この忙しい時に……ほれ。これあげるから、おとなしくしろ」


 流れはアイテムバッグから、さっき貰ったばかりのアツアツの「イカ焼き」をワン太郎へと差し出す。


「ぅ、もうそれはいらないワン……」

「なんだよ、お前が好きだってマーライオンの置物から聞いたから貰ってきたのに」

「食べすぎは体によくないんだワンよ……」


 そういうと、ワン太郎は遠い目で遥か彼方を見据える。よく分からないが、おとなしくなったので嵐影の頭へと乗せ、流も嵐影へと騎乗する。


「じゃあ行ってくる!」

「古廻はん、気いつけて」

「フム。敵は搦手(からめて)から攻めるのが得意のようですからな」

「……それと、油断にはくれぐれもご注意を」


 〆はそう言いながら、恥ずかしそうに頬を染めていた。


「なんや? またけったいな妄想でもしとるのか?」

「フム。まったく、この忙しい時に気味の悪い……」

「う、うるさいですね! 私だってそういう時があるんです!」

「? まぁ、よく分からんが、行ってくる。大丈夫油断はしないさ、これ以上はな……」


 その言葉に全員がうなずくと、正門が開放する。実にいい演出だと流は思いつつ、嵐影に出発を告げる。


「「「行ってらっしゃいませ、ご主人様」」」

「ああ、行ってくる!」


 そう流は全員を見て言うと、嵐影を冒険者ギルドへと走らせたのだった。

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