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218:静かな怒り~二人の美女

 〆はそのまま動かなくなり、本当にどこか遠くを見ている目になる。

 それが少し怖かったが、流は再生しつつある壱に意識をむける。まだ時間をかかるであろう復活を早めるために、散らばっている壱の残骸をそばにあった、ホウキとチリ取りであつめる。



「ったく、〆のやつ。少しは加減をしろよなぁ……ほら、壱よ。早く復活しろ」


 あちこちに散らばる壱を丁寧に集めていると、セバスが解凍されたように突如元に戻る。


「……っ!? し、失礼しました御館様。 あまりの出来事に呆けていました」

「まぁ驚くか。しかしセバスがここまで狼狽するとはねぇ……貴重な物を見れたわ」

「それは私めのセリフにございますよ」


 そうセバスは言いながらも、壱の残骸を丁寧に集めだす。

 二人の努力もあり、予想より早い時間で壱は復活する。


「バッ、ハァアアアッ!? ――よ、黄泉が見えおったわ……異超門をくぐり抜けた先での攻撃はマジで洒落にならん。下手すると滅せられるかもしれん……」


 壱は折り鶴の羽を器用に肩を抱えるようにすると、二回ほど〝ブルリッ〟と震えた。


「まぁなんだ壱よ。復活おめでとう! そして何が大変だって言うんだよ?」

「そ、それですがな!! えらいこっちゃで古廻はん! さっき商業ギルドから連絡が入ったんでっけど、あの娘『メリサ』が(さら)われました!!」

「……それは、真実か?」

「はいな。間違いあらへんとの事です」


 その話を聞いた瞬間、流は静かだが激しく、猛々しい怒りが妖気となって噴出する。


「もうそこまで妖力を自在に操れるんでっか……」

「それで?」

「失礼しました。まず犯人と思われる奴らの正体は判明しとります。ジ・レ説明せい」


 壱がそう言うと、いつの間にか綿菓子を片手にジ・レが現れた。


「御館様ご機嫌……は麗しくございません、ね。微妙な表現なのをお許しを。結果から申しますと、敵首魁は『王都・商業ギルド本部』の手のものと判明しています」

「アルマーク商会か?」

「はい、その手のものがメリサ嬢を拉致したとの報告でございます」


 アルマーク商会……その名は最近聞き覚えのある雑魚だった。しかし雑魚となめた結果がこれである。

 流は微妙に尖った爪で、思わず右手の親指付け根付近に傷をつけるほど力む。


「油断、しちまったな……」

「ホンマにすんまへん。僕らがアホな兄妹喧嘩をしとったばかりに……」

「いや、それは俺の未熟さが全ての原因だ」


 その言葉に壱と執事たちは目を伏せ頭を下げる。


「だが、今は違う……そうだな、壱よ?」

「はいな。美こっちゃんを自在に操れるようになった、古廻はんの力はかなり上がってるのは間違いおまへん」

「セバス……。ジ・レ……。俺は奴らには負けないな?」

「当然で御座います」

「人の身で御館様に鉾を突きつけた、『(むくろ)』をくれてやりましょう。あ、微妙な表現でした」


 流はそれらを一瞥すると、おもむろに振り返りこう告げる。


「……策を示せ、俺の()にして(つるぎ)よ」


 先程までは白い菖蒲(しょうぶ)の華がとてもよく映える、美しい紫色の大島紬を着ていたが、いつの間にか赤色の紅葉が美しい加賀友禅に身を包む絶世の美女が居た。

 その女は〝クスリ〟と嬉しそうに微笑むと、静かにこう告げる。


「敵は……愚かにも古廻様へ宣戦布告をしました。本来ならば即刻、このおろかな国を滅ぼすのが必然……。なれど、古廻様はそれをお望みでない」


 流はそれに答えず、一つ頷く事で返事とする。


「なれば月並みな表現ですが、矮小な存在が生まれてきた事を『じっくり』と後悔させるのが慈悲かと思われます」

「普段なら『オイオイ』と言うところ……だが、今回は別だ。あいつは……メリサも俺の身内の一人だ。それに手を出した事を後悔させてやれ」


 ごく自然にそう命令すると、〆と壱、そして執事たちは胸に手をあて一瞬のずれもなく頭を下げ「承知しました」と答える。

 〆はジ・レからもらった、現在の状況が記載されている報告書を軽く読み、少し考えた後に口を開く。 



「では今回の策をお答えいたします。まずは――」


 その後、簡単なミーティングをし、異世界から人員を呼び寄せ作戦準備に取り掛かる。

 同時に異界骨董屋さんへ来た最大の目的である輸送量だが、どうやら最大量は大体だが一トンであると言うことが分かった。 


「――承知いたしました古廻様。ではそのようにいたします」

「頼んだ〆よ。それと参。メリサが拉致られてから、異世界ではどの程度時間が経過したんだ?」

「フム。今戻ると大体五日ほどかと」

「そんなに!? いったい商業・冒険者ギルドは何をしていた!!」

「メリサ嬢が(さら)われたのはすぐ分かったらしいで、そこにあの冒険者ギルドの受付の娘がおったらしいのですわ」


 流は一瞬考えるが、すぐに答えにたどりつく。


「エルシアか!! なぜあの二人が……なぜか何時も仲が悪いのに」

「それは古廻はんのせいちゃいまっか? まぁ、理由は分かりまへんが、一緒におった所を攫われたみたいですわ」


 あちらへ戻ったら、まずはエルシアへと事情を聞きに向かうと決め、今後の準備にとりかかる。

 そんな様子をいつの間にか悲恋から抜け出た美琴は、じっと見つめていた。


「美琴、ちょっといいかしら?」

「……はい。来る頃と思っていましたから」

「ハァ~その様子だと、貴女……知っていたのね?」


 〆は美琴へそう言うと、流の後ろ姿を見つめる。美琴もチラリと〆を見てから同じ様に見つめ、そしてポツリと話し出すのだった。

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