208:変身の極意?
流の発言に美琴以外は首を傾げて、まじまじと流を見つめる。
「えっと……見た目は古廻様のままですが?」
「フム。どこも異常は無いように見えますが」
「せやな~。怪我すらしとらへんよ」
「えええ!? そんな馬鹿な……って夢の世界だったのかあれは……?」
そこに美琴が言いにくそうに、ぽつりぽつりと話し出す。
「あのぅ、その……。実は、ね。流様がさっき会った、傾奇者の変な人がいたよね?」
「傾奇者の変な男……あ!! あのクソ手帳の事か!? それがどうしたんだ?」
「実はそのぅ。あの男が言うには『右手の人差し指を額に当て、変人!』と叫べば妖人となるそうです……」
「…………はい?」
流は美琴が何を言っているのかが分からなかったが、とりあえずやってみる事にする。
「えぇっと……こうか? 『変んんん~~人!』トゥッ!」
「いや、そこまではしなくても……」
妙なノリで最後はジャンプして変人する流に困惑する四人。すると流の体に変化が始まる。
髪は異様に明るい白髪に黒のメッシュが入り、爪が少し伸び、腕に記号のような物が浮かび上がり、最後に瞳が薄い赤紫色に変化していた。
「なんやと!? こ、古廻はん、そら一体……」
「フム……まさか本当だったとは」
「古廻様!? どうして……」
「まぁなんだ、俺にもさっぱり分からん。美琴を完全に手中に収めたらこうなった。時空神と『理』って奴らの手によってな」
それで三人もハッと思い至る。
「それです! 『理』が関係しているのは分かりますが、時空神とはどこで関係が出来たのですか?」
「それは美琴……いや、悲恋美琴が創造された事による関係らしいぞ。美琴の父である典膳に聞いたのだが――」
流はその話を三人に聞かせる事にする。すると思いがけ無い事に三人が気付きだす。
「その話が真実なら、僕らの記憶も改変されてますなぁ」
「フム。思い起こせば美琴の記憶がダブってあるものがありますな。例えば昔、古廻の者が美琴を我らに預けに来たと言う記憶と、時の古廻の当主様が持って来た記憶の二つがありますな」
「確かにあるわね……。私達クラスにそんな事が出来るなんて、やはり時空神かそれと同等の神の仕業でしょうね」
「そうなると色々まずいのか?」
「いえ、多分ですが私達のこの記憶はいずれ統合されて、一つの記憶になるかと思います」
「せやな。時間軸が同じくなる様に、いじられてる感じがするんですわ」
「フム。整合性を無理やり合わせる感じですな」
神の所業とは理不尽な物と一同は結論付けて呆れるも、まずは現実の問題である流の体について話す。
「古廻様、今お寒いですか?」
「いやそれがさ、こんな場所なのに全く寒くない。むしろ快適な程だ」
「やっぱそうでっか……。古廻はん、あんさんはもう確実に人間じゃおまへん。僕らと同じ側に来てしまいました」
「フム……古廻様……」
三人は辛そうにしているが、流としては別に大した事では無かったし、むしろ望む事でもあった。
「馬鹿だなぁ、俺は気に入っているからいいさ。なんでも寿命も無いに等しいらしいし、お前達とずっといれるしな」
「それは嬉しゅうございますが……」
「フム。我らと同じと言う事は、それはもう長い時を歩むと言う事。つまりは感情が死ぬ可能性がありますな」
「長く生きるっちゅう事は意外と酷な事なんでっせ? ま、僕らがいる限りは古廻はんに退屈はさせませんよって、期待してください。お前達もあんじょうせんかい! 古廻はんが心配する事を言うなや!」
「申し訳ございません。つい……」
「フム。申し訳も無く……」
「それにお前達二人も似たような事を俺にして生き返らせようとしたんだろう?」
「まぁ似てはいまっけど、今よりはかなり格下ですねん。寿命も百数十年って所ですよって」
「なるほどね、まぁお前達も気にするなよ。大体まともな人生経験すら無いんだから、それを消化した頃にまた考えるさ。三人には感謝しかないよ、本当にありがとうな!」
三人はホッとした顔になり、頭を静かに下げ感謝の意を伝えて来る。
流としては三兄妹が自分を「主のように慕ってくれる」ので、そのロールを楽しんでいるのだが、実際は仲間として見ていた。
だから流の感謝へと頭を下げて答える三兄妹達を見ていると、本当にいい仲間と出会えて良かったと思うのだった。
その後雑談を少ししてから、流が新たに獲得した力について考える。
「それにしても妖人ですか。また珍しい存在になりましたね」
「そうなのか?」
「はい。妖の人と書いて妖人と言いますが、その『あやかし』と人との間にも子供は生まれますが、基本はどちらかに偏ります。稀に両方の特性を持った子供が出来る事がありますが、それが妖人ですね」
「せやね。そして妖人ってのはとても強い事が多いですねん。元々妖と人が交わる事が少ないですよって子供が生まれまへんし、さらにそこからの希少種でっから」
「なるほどね、それを時空神か『理』が、真の悲恋美琴を手に入れたボーナスとして無理やり押し付けたって感じか」
「フム。そうなりますな」
流を始め、全員が理と言う存在と、時空神の傲慢に呆れと困惑を覚えるのだった。




