154:修業は快適ですね
翌朝、流は実に不思議な夢を見た。
それが何だったのかは思い出せない。しかし「其処に在った」何かを思い出すが、それが何かが思い出せない。
「う~ん……。なんて酷い目ざめの朝だ……。何だろうこのモヤモヤは……」
「おはよ~さんです~。古廻はんお目覚めでっか?」
「……さらに不愉快になった」
「酷ッ!? って一体何があったんでっか?」
「いや俺にも分からないんだよ、何だか大事な物を無くした感じなんだが、それが思い出せない」
「はぁ、そらまた難儀な事でんなぁ。まぁ夢の話でっしゃろ? その内思い出すかもしれへんから、あまり深く考えない方がいいでっせ?」
「だな……。さてと、気持ちを切り替えて行こうか。みんなは?」
「全員地下十階でお待ちしていますよって、着替えたら行きましょか」
「分かった、ちょっと待っていてくれ」
流は何時もの和装の改造スーツじゃなく、今日は黒い着物を着用する。
それは雷蔵との剣の訓練をする時に、必ずそう言う格好をさせられたからか、着物と褌を着ないと精神的に落ち着かないと言う事もあった。
「ほ~。似合っとりますなぁ。男前が上がりましたで!」
「ふふん。だろう? 修行の時はこれを着ないと落ち着かないんだよな。そう言えば嵐影はどうしてる?」
「へぇ、それなんでっけど、先日のデカ豚に殴られて瀕死になったんでっしゃろ? それで嵐影も修行したいって相談されましてん」
「馬鹿だなぁ、そんな事しなくても十分だってのに……。それに豚王に殴られたら普通なら爆散ものらしいぞ? それを俺を守ってくれただけ感謝だと言うのにな」
「まあそう言う事で、僕としても嵐影の気持ちを大事にしたいと思って、参に頼んで昇降機の拡張と、修業場を作ったんですわ」
「そうか、悪いな。手間をかけさせて」
「いえいえ、アイツも大事な仲間でっから。では行きましょかぁ」
流は美琴を腰に佩くと、気合を入れる。
「美琴、今日から頼むぞ?」
『…………!』
昨日と違って、何時もと同じ美琴に安心する流。
窓から見えるトエトリーの景色は当分見納めだと思いながら、流は地下十階層へと向かった。
ミレに十階層まで送ってもらい、いよいよ修行が始まる。
「到着しました……。ご主人様……頑張って」
「おう! ありがとうミレ」
ミレは頬を染めると、そのまま消えてしまう。
昇降機から出ると相も変わらず、異常な空間が広がっている。
「さてと、暑いな……」
遠くを見ると呑気にカモメらしき鳥が楽し気に空中散歩しており、まるで南国のリゾート地と言われても納得するような狂った空間は、日差しがサンサンと降り注ぎ、ぼーっとしてたら倒れそうな暑さだった。
よく見れば嵐影が、波に楽し気に戯れるようにして浮いている。きっとあれが修業(?)なのだろう。そんな姿を見ると嵐影の真剣さが伝わって来る。
「古廻様ぁ~。お待ちしていましたよ~」
遠くから〆が走って来るが、今日は紺を基調とし、金糸をふんだんに使用した、西陣織の豪華な着物を着ている。
暑くは無いのかと思うのだったが、〆なので問題ないと思いなおす。
「よ~待たせたな」
「いえいえ、まずはお食事をご用意しましたので、あちらの休憩所へ」
見ると先日バーベキューを行ったそばに、水上コテージが作られており、どこかの南国リゾート地のようになっていた。
その豹変したビーチサイドにドン引きしながら、流は思わず独り言ちる。
「今更だが、何でもありなのね……」
「お喜こび頂けて良かったです♪ ささ、まいりましょう」
水上コテージの敷地内は「快適な温度」だった。
相変わらずサンサンと太陽の光が降りそそぐが、なぜか快適そのものだった。
「ここ外なんだよな? 最早意味が分からない」
「フム。おはようございます古廻様。まぁちょっとした暑さ対策ですよ。さ、右のコテージがダイニングルームになっておりますので」
中に入ると籐製品で作られた家具や、バリ島で見かけるような調度品と観葉植物が趣味良く配置されており、実に心地いい空間だった。
「俺、修行に来たんだけど……」
「うふふ、そこは大丈夫でございすよ。さ、お食事をお楽しみくださいまし」
釈然としないままトロピカルジュースと、ほどよいサシの入った絶品の海峡サーモンのサンドを堪能する。
そんなリゾート気分になりかけた頃、鬼の夫婦がやって来る。
「おう! ガキんちょ。今回は大変だったらしいがね? よく生きちょった!」
「アタシも旦那も心配したよ。無事で良かったね」
「ありがとうよ。正直ダメかと思ったけど、美琴のお陰で助かった」
「そうらしいのう、そいでだ。早速だがその業を見せて欲しいがよ」
「ん……別にいいがまだ未習得の拙い業で、披露するのは恥ずかしいな」
「何を言っているんだい、修業なんだからそれを直すのがアタシらの役目さね」
「あ~そうだよな。じゃあ見てくれ。で、どこでやるんだ?」
「まずは練習場の四阿へ行こうかね」
そう言うと、二人はさっさと出て行く。
「じゃあ行って来る」
「頑張ってくださいね!」
「フム。応援していますぞ!」
「頑張ってや~!」
三人の応援を受けて四阿へ向かう途中、嵐影が浜辺で転がっているのを見かける。
どうやら砂山にトンネルを作り、カニと戯れている修行(?)をしているようだった。
良く見るとスイカを片手に持ち、カモメと一緒に食べているようだ。噛みつきの訓練だろうか?
流は思わずその過酷さを想像すると、ゾクリとしたものが背中につたう。
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