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148:濡れるひとみ

 倉庫前はオークの死体をかたづける者達と、肉屋が噂を聞きつけ買い付けに来ており、それを運ぶ馬車や、散乱した荷物を処理するギルド職員であふれていた。

 それを見た流は、異世界人の(たくま)しさに驚く。

 

 倉庫の中へと続く通路も、オーク達が荒らしたせいと、オークキングとの戦いの余波で酷いありさまだった。

 その中をくぐるように進み、やっと目的の場所へとたどり着く。


「二人とも、お客さんを連れて来たぞ」

「あらん? ボーイはお家に帰ったのかと思ったわん」

「ナガレ、無理はするなよ?」

「ああ大丈夫だ。ジェニファーちゃんは知ってると思うが、こちらの方は商業ギルドのマスター、バーツさんだ」

「やあジェニファー、今回は世話になったな」

「いえいえ、物のついでよん」


 そしてバーツはヴァルファルドを見ると、丁寧に挨拶をする。


「そして……漆黒の英雄殿。よくぞトエトリーへおいで下さった、礼を申しますぞ」

「よしてくれ、その名は捨てた身だ。気楽にヴァルファルドと呼んでくれればいい」

「そう、ですか。ならヴァルファルド殿、これからもよろしく頼みます」

「こちらこそ、よろしく頼むよバーツさん」


 二人は固い握手を交わし、一つ頷き合う。


「アハン♪ いいわねぇ~漢どうしのスキンシップ……。ねぇボーイ、ミー達もしないかしらん?」

「つつしんで遠慮するよ。それより変化はあったのかい?」

「んも~! ボーイのイケズ! まぁ特には変化は無いわねん。ねぇギルマスぅ、これどうしたらいいかしらねん?」

「うむぅ、俺も判断に困るなこれは。壊すのが一番なのだろうが、調べたい事もあるからなぁ」

「それだ、その調査員は何時到着予定なんだ?」

「先程職員に使いを出させたが、時間まではまだ分からんのだよ」

「そうか……。腹が減ったなぁ」


 それを聞いた流は例のアレを出前する事にする。


「なら少し待っててくれよ、二人が食べた事も無い凄いの持って来るからさ」

「ほ~! ナガレが言うのだから間違いないのだろうな」

「あらま~。それは是非食べたいわん!」

「なら待っていてくれ、すぐに用意させるから一度屋敷へ帰ってから戻って来る」

「そうか、では待ってる」

「ナガレ! 俺の分も頼むよ」

「もちろんですよ、バーツさんもメリサの分も持って来ますよ鍋ごとね」

「「「おおお~」」」

「ならば外の冒険者達に言って、ここを少々片付けてもうらうとするか」

「そうですねギルドマスター。さすがにこの死体がある場所では……」

「だな、じゃあ俺は戻るとするよ。ではまた後で」


 そう言い残すと、壱を先行させて屋敷へと向かってもらう。

 帰るために嵐影を探すと、何やら人込みに埋もれていた。


「そうだ! そこでランエイさん(・・)は回転しながら、オークを木っ端みじんにしたんだ!」

「マジかよ、嘘くさいな」

「おい、そこ! 俺が例え嘘吐きでも、ランエイさん(・・)のこの瞳を見て見ろ! 純粋無垢なこの瞳をな! それが真実だと分かるだろう?」

「う。そう言われるとそんな気がする……」


 そんな感じで嵐影は、色々な冒険者や、憲兵隊達。そして周囲の住民から崇められていた。


「ら、嵐影……お前は一体何をしたんだ……?」


 呆然と見ている流に気が付いたのか、嵐影はモソモソと立ち上がると、そこに居る人達へ手を振って別れを告げる。


「お、おお。ランエイさんが手を振っているぞ」

「何と言う賢さ!」

「ラーマンって本当に言葉が分かるのねぇ」

「可愛いくて強いなんて、最高だぜ!」

「尊い……」


 最早何の事やらさっぱりの流であったが、嵐影が目の前に来て腰を下ろしたので背中へと乗る。


「誰だアイツは!?」

「ランエイさんの背中に乗るなんて不届きな!!」

「馬鹿、知らないのか? あの人こそ今回の騒動を納めた巨滅の英雄にして、ランエイさんのパートナーだぞ」

「「「おおお!!」」」

「流石ランエイさんが認めるだけはあるな!」


 もう嵐影が尊い存在になりすぎたようで、一部から非難的な視線で見られる流であった。


「嵐影、おまえ少し見ない間に凄い存在になってないか?」

「……マァ~」

「そりゃ驚くわなぁ、俺も驚いてる。っと、今はそれ所じゃないか。一度屋敷へ戻ってくれ」

「……マ」


 群衆の嵐影コールを受け、とても乗り心地が悪い思いをしながらも、流は幽霊屋敷へと戻るのだった。




「古廻様!! ご無事で! ど、どこも怪我してな……良かっ……ぅぅ……」


 幽霊屋敷に到着し嵐影を降りた瞬間、屋敷の扉が勢いよく開き、中から〆が飛び出して来たかと思うと、流へ抱き着き泣き崩れる。


「お、おい〆。どうしたんだ?」

「フム。お帰りなさいませ古廻様。今ほど先に帰った兄より今日の事を聞いて、生きた心地がしませんでしたよ。ふぅ……。しかしご無事で本当に良かった」

「あぁ、それで泣いているのか」


 〆は耳をペタリと不安そうに垂れさせ、体を小刻みに振るわせて泣いている。


「おいおい。俺はどこも何とも無いんだから、もう泣くなよ。綺麗な顔が台無しだぞ?」

「はぃ。お見苦しい所を見せてしまい、申し訳ございませんでした」

「いや、見苦しくなんか無いぞ? 俺を思ってのその涙、とても嬉しかった」

「こ、古廻様……」

「だから、もう、心配するな……」


 見つめ合う二人、〆は頬を染め先程まで泣いていたためか、眼に艶がありとても美しかった。

 そしてその表情は憂いを帯び、ひょっとするとこのまま消えてしまうのでは? と思う程、儚だが妖艶と混合する複雑な魅力がそこに存在した。

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