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142:羽衣は慈愛と冷酷を纏いて

 爆発的に鞘に溜め込んだ妖力を、流は鞘だけを後ろへ飛ばす事により、妖力を一気に美琴へと集約する。

 瞬間、鞘に圧縮されていた大量の妖気は、美琴へと濃密に絡みつく。


 流は超速で美琴を持ち、右膝を立てながら斜め上へと刀身を振り抜く。

 周りに(まと)っていたものを、刃に集約した膨大な妖力は、刀身の鋭さを極限まで研ぎ澄ませる事で、刃先から火花を飛び散らせる。

 その羽のように軽くなった美琴は、有り余る(たぎ)らせた妖力を解放し、刀身から抜け出すように「あの天女を召喚」する。

 

 刀文に描かれていた天女は、刀身から抜け出し成人の大人の娘ほどの「元の大きさ」へと戻る。

 その妖艶にして艶やかな天女は紫の衣を身に纏い、自身が斬撃となりて、オークキングの右手の伝説級の鉄壁たる〝黒岩の籠手〟へと自愛溢れる天女の顔で優しく触れる。


「何だそれはあああ!? くっ、幻影で謀るなどと! ブルアアアアアアア!!」


 突然目の前に現れた絶世の美女に、流石のオークキングも一瞬たじろぐが、そこは歴戦の武人である。すぐに気持ちを立て直し、流への拳圧を更に込める――が。


「黒岩の籠手にヒビだと!? ば、馬鹿なッ!!!!!!」


 さらに天女は黒岩の籠手を優しく撫でた瞬間、無数のヒビが一点から蜘蛛の巣状に広がり「黒岩の籠手を粉々に破壊」する。


 黒岩の籠手は伝説級のアイテムで、おいそれと破壊する事は出来ない硬度があった。

 その性能は「硬度増大・魔防増大・刺突無効・殴打減少・斬撃無効」と言うぶっ壊れ性能だった、が。それはあくまでも「伝説レベル」の話。


 何度も何度も、流が「同じ場所を寸分違わず攻撃した」事と、四式によるインパクト機械のような振動が加わり、微細なヒビが入っていた。


 そこを「蟻の一穴」よろしく、美琴の一穴で絶対的な防御にヒビを入れ、ダメ押しに天女がその強大な防御を誇るダムを決壊させ、さらに――!!


「ブルグオオオオッ!?」


 慈しみの天女は上方へと飛翔すると、その勢いを緩めず流の剣筋に合わせ下方へと強襲する。

 しかし先程とは違い自愛の表情が消え失せ、虫でも見るような冷酷な表情になった天女は、何時の間にか持っている大鎌で、むき出しになったオークキングの右腕を苦も無く切断した。


 王と言う存在の腕だけあって、その見事な筋肉の鎧を纏った腕は、血飛沫(ちしぶき)を撒き散らし空中を乱舞する。


 一体何があったのか? 呆然と眺めるオークキングは、あまりの事に、ゆっくりと自分の右腕が空中を舞っている姿を見て、状況を理解する。

 数瞬の間の後、その現実に思わずオークキングは憤怒の怒気を流へと叩きつける。

 

「ブルアアアアアアアアアア!! 何だこれはあああああああ!!」

「ぐがああああああああああああ!!!!!?」


 その怒気は正に凶器そのものであった、それをまともに受けた流は盛大に吹き飛び、倉庫に積んである箱へと激突する。


 完全に修めていない状態の「陸翔燕斬(りしょうえんざん)」を放ったばかりの流は、疲労困憊(ひろうこんばい)で立つ事すらおっくうだった。

 そこにこの攻撃で、まともに腕すら動かす事が無理な状態なれど、美琴はしっかりとその手に握っている。


「ブルアアア……余の腕を斬り落とすとは! 許さぬ!!」


 憤怒に燃えるその目は真っ赤に濁り、流へと迫るその姿は正に「死そのもの」であった。

 その死が急速に迫るのを、その目にしっかりと見つつも、指一つ動かせないどうしようもない状況に思わずニヤケてしまう。


「ハハ……。人生五十年か……。あ、俺まだ半分も生きてねーわ。あ~あ、もっと骨董を愛でたかったなぁ……皆わりぃ、先に逝くわ……。美琴、最後だから言うけど愛してるぞ」

『……知っています。もうすぐです、だから諦めないで』

「そっか…………あ~ついに幻聴まで聞こえて来たか。はは……」


 迫るオークキングの地響きが直前まで来る、そして流の形すら残さないような勢いで王笏(おうしゃく)が振り落とされる刹那――。


「ふんッぬうううううううう!!」

「ヌウウウウウウウウウウム!!」


 突如現れた巨漢二人。


 一人は漆黒の鎧を着こみ、手には先端が斧のような形状の大剣で王笏を受け止めている。

 その顔は無精ひげが妙にマッチしている、チョイ悪オヤジと言っていい風体の、妙齢の婦人が好きそうな漢。


 もう一人は、ピンクに光る拳で王笏を殴り止めていた。


 その人物は、上半身がまるで鎧のような筋肉で包まれた肉体美を誇り、ワインレッドのホットパンツから伸びる、黒いストロング・ムタンガサスペンダーが乳周りを際どくセービングし、黒の蝶ネクタイとシルクハットを紳士然に装着する領域者(ヘンタイ)が居た。


「アハン♪ 遅くなってごめんなさいボーイ、でも何とか間に合ったようね?」

「ナガレ、こっぴどくヤラレタな。だが良くやった、流石『巨滅の英雄++』は伊達じゃない」

「ヴァルファルドさん……。ジェニファーちゃんも……一体、どう……して」


 ジェニファーはその問いに、流の頭上を一瞥してから楽し気に話し出す。


「それはねん――」

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