112:狂気の幽霊屋敷~真骨頂
「やあいらっしゃい。本日は楽しんで行ってください」
「うむ、ナガレ。今日は招いてもらって感謝する。楽しませてもらうぞ。ふふふ……楽しみだな本当に!」
「ナガレ様。本日はお招きいただきまして、ありがとうございます。楽しみすぎて一日があっと言う間でした」
「ようナガレ、今日もまたやっかいになるぜ。また美味い料理に期待してるぜ?」
「期待以上の物を用意したぞ? ま、楽しんでいってくれ。じゃあ皆こっちへ。場所は二階だから昇降機で登るからな」
流の後をついて行く三人。正面の巨大な台座には大きな白獅子と、白虎が雌雄を決するような剥製が置かれており、思わず三人は魅入ってしまう。
「前に来た時は無かったよな……」
「これは凄い迫力だ、まるで生きているかのようだな……」
「凄すぎてちょっと怖いくらいです……」
その時だった。突如目の前の二体が咆哮したかと思うと、置物の白獅子と白虎が動き出し、戦い始める。
「きゃああああああ!?」
「なんだと!?」
「おいおいおい! ナガレ、どーなっていやがるんだ!?」
驚く三人に流は笑って答える。
「大丈夫だ、あいつらは人形さ。ほら、こっちを全然気にしていないだろう?」
二頭は雌雄を決すべく戦いを続けるが、どこも怪我も無く台座の上で飛び上がったり、噛みついたり、爪で斬り割いたりと、多様な演出を見せてくれる。
「し、信じられん。これが演出と言うのか……」
「こいつあ驚いた……こんなの見た事ねーぜ……」
「な、ナガレ様。迫力ありすぎて腰がぬけそうです」
「さあさあ、そろそろ二階へ行きますよ」
「う、うむ」「はぇぇぇ」「驚いたぜ……」
驚きも冷めやらぬうちに、昇降機があるホールへと到着する。
メイドがドアを開け、中に四人が乗ったのを確認すると、四人を乗せたドアが閉まる。
すると操作盤の前が揺らめいたかと思うと、メイド服を着た若い娘が突如現れた。
その生気を失った真っ白な顔は、以外にも美しく、背中まで伸びた黒髪は実によく手入れをされているようだったが、何故か不気味に輝いている。
「……いらっしゃいませお客様。お二階で……よろしいでしょうか?」
「ヒィィィィィ!?」
「こ、この娘はゴーストなのか!?」
「おいおい、ナガレこいつもエキストラかよ!?」
「ははは、驚いたろう? ここに居たゴーストの一人だ。たまたま生き残って(?)な。それで話を聞くと、魔具のこの昇降機が気に入っているらしくてね。何もしないなら昇降機係として雇ってもいいと言ったら、二つ返事でこの通りさ」
その流の発言に凍り付く面々。
「豪胆にもほどがあるぞナガレ……」
「ナガレ様の心は鋼よりお強いんですね……」
「ぶっ飛んだ奴だとは思っていたが、ここまで来ると笑うしかねぇ……」
「まぁ害は全く無いので安心を。いつもありがとうなミレ」
ミレと呼ばれたゴーストの娘は、死者なのに頬を染める。
「頬を染めた……」
「生きてるみたいですね……」
「よく見ると可愛い子だな……」
ファンは別の意味で見とれていたが、昇降機は二階へと到着する。
「……到着しました……足元に注意してくだ……さい」
「「「足元?」」」
三人は思わず足元を見る。すると足元に手が三人の足を掴むように、沢山伸びていた。
さらにご丁寧に床が暗黒の大穴のように見えるようになっており、落ちたら二度と助からないだろうと言う視覚効果付だ。
「「「うわあああああああああ!?」」」
そんな三人を面白そうに眺める漢がいた。
「ははは。お前達、その辺にしないか」
「はいご主人様……。では失礼します……」
そう言うとミレと手も同時に消え失せ、床も元の大理石に戻る。
そして実にいい笑顔で、流は三人へと告げる。
「どうですかな、我が幽霊屋敷は?」
「「「心臓に悪すぎる!!!!」」」
「お気にいっていただけて何よりです。さて、冗談はここまでにしてダイニングルームへどうぞ」
「う、うむ……大丈夫なのか本当に……」
「不安が山のように積もっています……」
「ナガレ、頼むぜ本当によぅ……」
そんな三人は顔を青くして、ダイニングルームの前へと向かうのだった。
三人は今にも倒れそうな程憔悴していたが、やっとの事でダイニングルームの前へと着く。
綺麗に着飾った衣服は微妙に乱れ、その様子はまるで長時間戦った後の疲弊した兵士のような、魂が抜け落ちた顔だった。
「驚かないでくださいよ、ここからが本番ですからね?」
「ナ、ナガレ。まだ幽霊が出るのか!?」
「ナガレ様……もう私倒れても良いですか?」
「俺もぶっ倒れそうだぞナガレ……」
「ははは、それは見てのお楽しみと言う事で――頼む」
その瞬間、扉の両脇に置いてある巨大な鎧が動き出し、片方が高さ二メートル五十センチ・横一メートル半の扉を開く。
「ぬぉ!? 今度は鎧の化け物か!? な……ん、だと……」
「もう、駄目…………はぇ? こ、これは……」
「うわあ!? マジかよ……って、嘘だろ……」
三人の目の前に広がるのは驚愕の光景だった。
満点の星空に流星が瞬き、その美しさを余すことなく表現する、額縁のように整った空間がそこにあった。
見ればその薄暗い空間は外とは断絶されており、どうやらガラスのようであると思うが、自分達の知っているガラスとはかけ離れた美しき窓を見て、三人はその場で魅入ってしまう。




