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4-26 いざ! 上陸! 青葉リゾートアイランド④

2017/10/13 固有名詞を修正

 船上の移動は、至って順調だった。


 唯一の懸念だった、初めて船に乗るリリも非常に落ち着いている。流れる景色を見ては、興奮して尻尾を回し、たまに訪れる渡り鳥を見ては、襲い掛からないものの、野生の血が騒ぐのかソワソワしていた。この様子であれば船の上を自由にさせても問題ないのかもしれない。


 他のメンバーも皆、船上のひと時を思い思いに過ごしていた。


 司はリリに初めて見る生物の説明をしていたし、橙花や蒼花は妙子に船の事を尋ねている様だった。もしかして買う気なのか……?


 澪は操船している玄次郎と一緒におり、暇な運転手の相手をしているようだった。優は相変わらず何かをもぐもぐと食べている。いつの間におやつを購入したのか。


 宗司はなぜか甲板で筋トレしていたのだが……この生物には筋肉以外の概念が存在しないのだろうか。


 船の移動は至って順調だった……ただ一人を除いて。


「う、うええええ……」


「エイミー、大丈夫ですか?」


「ちょっと……大丈夫じゃないかも……う、うええええ」


 未来ある女子の尊厳のため、細やかな描写は差し控えさせて頂くが、いわゆる船酔いというものに他ならない。皆で交代して看病することになったのだが、今担当しているのは舞である。看病といっても、背中をさすったり、水を渡したりとかしかすることはできない。船酔いは自分との戦いなのだ。


 まさか詠美自身も船酔いするなんて思ってもみなかったのだが、船が動き始めて5分後くらいにはかなり危ない領域に達した。昼食をとってすぐの船上移動だったというのも起因しているのかもしれない。


 ちなみに、意図的に三半規管も鍛えていた司たちと舞は全く問題なく。三半規管が異常に発達している宗司に至っては、未だかつて1度も船酔いしたことがない。澪は船に慣れすぎていて、優は食べることしか頭にない。玄次郎、妙子はこれ自体が生活の一部であり、船酔いなんてしてる場合じゃない。リリには船酔いという概念があるのかもわからない。


 辛うじて一般人に該当する詠美だけが、この不運な貧乏くじを引いた状態となってしまった。もはや、南無三というより他が無い。帰りは無事であることを祈るのみである。



「そろそろ吐くもの全部吐いたか? そしたら……橙花! 薬をくれ!」


 経験者からしたら、船酔いというか酔い系は、とりあえず胃の内容物をすべて吐き出すとかなり楽になる。本当は無理やり吐くのは身体的によろしくないのだが、長時間に亘って最悪の気分を満喫するよりはかなりマシである。そして後は、酔い止めの薬を飲んで、風の当たるところで安静にしていることだ。


「ありがとう……さっきよりはちょっと楽になった」




 詠美の容態もだいぶ落ち着いた頃、海上では次のイベントが発生の時を待っていた。


 高速で移動する船の横を、並走するようにいくつかの黒い魚影が迫りくる。


「みなさ~ん、船の右手をご覧ください~。今日は運がいいですよ~。あ、身を乗り出して海に落ちないようにお願いしま~す」


 澪の力の抜けそうなアナウンスと同時に、船が少しずつ速度を下げる。一行が続々と集まって見つめるその先には……。


「わ~」


 無意識に挙がったソレは、一体誰の歓声だったか。一番近くにいた司だけは、周りにバレないか一人ヒヤヒヤだったのだが。そんな杞憂は他所にして、


「イルカさんたちの登場で~す」


 露わになった愛らしいその姿を一目見て、一行の興味は最高潮の高まりを見せる。もったいぶって話した澪のアナウンスは、みんながそれぞれあげる感動の声でかき消された。



「キューキュー言ってますよ! 歓迎してくれてるんですかね? 可愛いです!」


「本当ですね~。水族館などでショーを見るのも良いのですけれど、こう言った場面で運よく遭遇するっていうのがまたニクイ演出ですね~」


「ふふふ、欲しければ私がひと潜りしてこようか!?」


「宗司……私でもイルカは食べようとは思わない。流石に、それは引く」


「やめんか! このバカ宗司兄が! あの姿を見て、なぜその発想が出てくる!?」


「いたっ! 舞、冗談だ、冗談に決まってるじゃないか? いくら私でも同じ哺乳類を興味だけで捕獲したりしないぞ? 本当だぞ?」


「リリ、あれがイルカだぞ? 魚みたいに見えるけど、海で泳ぐことに特化してるだけで、実は俺たちと同じ仲間なんだぞ? 可愛いよな~」


 リリは初めて見たイルカに興味津々で、尻尾がブンブンと旋回している。


「この辺でも、狙ってイルカに会えるのは稀なんだよ。日頃からのなんとやらというやつかね? あんたたちは運がいいねぇ」


「きっとそうじゃよ、婆と2人で乗ってても1回も会ったことないしな! イルカのほうにも姿を見せる人を選ぶ権利っちゅーもんがあるんだろうよ。流石お嬢たちじゃ!」


 …………また、最後にいらんことを言う玄次郎。


 そして、この後、それは現実となり、玄次郎の姿を見たものは誰もいなかった……。

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