4-16 夏の定番、ぼくのなつやすみけいかく④
「あははは、危うく置いて行かれるのかと思ったよー! 澪も人が悪いなぁ!」
あっけらかんとそう言うのは詠美である。どうやら無事に合流できたようだ。
「約束の時間になっても、舞の家にこない人が悪いんですよー。しかもまさかまだ寝ていたなんて……バカなんじゃないですかー? 置いて行かれても文句は言えないのですよー」
「だってだって、昨日まで部活で疲れてたんだよー、ごめん……」
武神家から車で出発して行きがけに詠美の家へ寄った。インターホンを押すと、驚いたことに家から出てきた詠美はまだパジャマ姿だったのだ。目撃したもの達は口を揃えて言うだろう……今時、薄いピンク色の地にデフォルメされた可愛いくまさんの柄という天然記念物級のパジャマがまだ存在したのか、と。
「ははは、詠美ちゃんは相変わらずだな。高校でもバスケを頑張っているのかい? 確か小学校からやってたよね? バスケットボール」
「ええ、宗司さん。これでも一応レギュラーメンバーなんですよ? すごいでしょう?」
「すごいねぇ、私は武神流以外さっぱりだから感心するよ」
「宗司兄は本当に何もスポーツ関係はできませんからね。武神の家系は運動神経悪くはないはずなんですけど。まぁ、私も陸上と水泳以外できませんから人のことは言えませんが……」
「ははは、私も走るのだけは得意だぞぉ。42,195キロでも余裕だ! 体力には自信がある」
武神流の、宗司と舞は肉体的なスペックはかなり高い。運動神経も抜群に高い。しかし、かなり脳筋気味に生きているために学校の体育でも種目によって成績に明暗が分かれる。陸上でただ走る、跳ぶ、投げるの競技や水泳などはパワーと体力にモノを言わせて成績上位だが、テニスやサッカーなどテクニカルに技術を必要とする球技などはからっきしだった。どうしても無意識に力が前面にでて、細かいコントロールができないのだ。
「私は食べるのには自信がある。むしろ既にフードファイターを自負。この旅行では、封印されていた真の姿を解放する。嗚呼、待ち焦がれていたエビカニホタテ。目くるめく魚介の世界よ。嗚呼、肉汁滴るバーベキュー。私は肉の魅了に抗うことはできない……ガッデム。ここからは私の戦争。戦場では弱肉強食。弱者よ、私の前にひれ伏すが良い」
「優……あなたはなぜそれで太らないのですか……。ろくに運動もしていないというのに。食べたものは一体どこへ行くのですか? これほど理不尽なことがあっていいのですか……」
「すべての食材は、等しく私の黒い胃袋に飲まれよ。なにも苦しむことはない、お前たちの生きた証は、私の体内で永劫彷徨い続けるのだ。ふははは。我が血肉となれることを光栄に思うがいいわ」
優がまたわけのわからないことを言い出した。彼女には彼女なりの哲学があるのだろうが、優のことをわかっている人ならともかくとして、知り合い以外が聞いていたら妄想中のただのアブナイ人である。天下の往来では是非とも気を付けてもらいたい。
「優ちゃんは相変わらずだな! よかろう。私とどちらが上かを決めようではないか! 私もそう簡単には負けんぞ! 2人で食材を食いつくす勢いだ! これは楽しみになってきたぞ!」
「やめんか! このバカ者が! 人様の家で恥をかかせるな!」
「いたっ! 舞よ、そうポコポコと兄の頭を叩くのはよくない。こういうのはノリが大切ではないのか? 優ちゃんだってそう思うだろう? 私にだって常識というものがあるのだから、もちろん本気ではやらんぞ? 本当だぞ?」
「やかましいわ! もうちょっと自重という言葉を勉強してこい!」
「相変わらず、全員揃うとにぎやかですねー。これはますます楽しくなってきましたよー」
「これが我らの常識よ。世間の評価など道端にでも捨てておけ」
そんなこんなで予定していたメンバーが揃い、各自が車に乗り込んで移動を開始した。舞、宗司、詠美、澪、優、司、リリ、橙花、蒼花の計8人と1匹での移動である。車内のテンションは、このメンバーだけあって平穏のへの字もない。
「司様、どうぞ、冷やしたお茶ですよ。外は暑いですからこまめに水分補給してください」
「ありがとう、うん、おいしいな。リリ、楽しいのはわかるけど、高速道路では危ないから窓に張り付いちゃだめだぞー」
「3人揃ってお出かけするのはいつぶりくらいでしょうか? とても楽しみですね」
「そうだなー。数年前に爺たちと一緒に旅行した以来かな?」
いつもと違う速さで走る車、目まぐるしく流れる景色にリリは興味津々である。目をキラキラさせて外を見ているし、尻尾も左右にブンブンと振られている。興奮しすぎて司の声も聞こえていないのかもしれない。
果たして、このメンバーで進む珍道中はどこへ向かうというのだろうか? もう、行く先々でトラブルの気配しかしないのがとても残念なところ。それはともかく、司に訪れたまとまった休暇である。是非ともこの機会に心と身体を休めてほしいものだ。




