4-13 夏の定番、ぼくのなつやすみけいかく①
3人娘の突然の来訪から3日経ち、司は手帳を見ながら唸っていた。
「日程は決まった。さて、行くメンツをどうするか……うーん」
昨日、澪から連絡があり、舞たちと一緒に行く旅行の予定が決まったのだ。場所は青葉家が所有する別荘で、プライベートビーチ付き。移動を除いて1週間ほど現地に滞在することになった。日用品と個人の必需品以外は持ってこなくてよいとのこと。あ、要水着の模様。
そこで問題になるのがメンバーである。
司自身が行くのはもちろんとして、あと誰を連れていくのか。万能なのは兎神なのだが、そうすると毎回毎回留守番の橙花と蒼花。1週間ほど不在にするのだが、その間のウルの一族やプラントたちの世話はどうするのか。いっそのこと全員で行ってしまうか。いや、マッドチャリオットたちを今の段階で外に出すのはマズイ。仕事は……現実逃避などなど。
「司さん、何を考えてらっしゃるんですか?」
司が一人机の前でうんうんと考えていると、いつの間にかリリがトコトコと部屋にやってきていた。予定を考え込んでいてリリの気配に気づかなかったようだ。
司が椅子ごと身体を少しずらして膝をポンポンと叩くと、リリがぴょいんとジャンプして飛び乗ってきた。最近のリリは、この場所がお気に入りである。
「今度、舞たちと旅行に行くことになってな。予定をどうしようか考えていたんだ」
「りょこう? って何ですか? どこかに行くんですか?」
見上げるリリの顔にハテナマークが浮かぶ。旅行という、単語の概念がないのだろう。本来、縄張りから長距離を移動することのない狼なのだから当たり前でもある。
「舞たちと遠くに遊びに行くんだ。海のあるところかな。1週間くらいで帰ってくるけどな」
「そうなんですか……またお家でお留守番していますね……」
司の言葉を聞いたリリが急にシュンとしてしまった。同時に耳がへにょんと垂れさがる。また司が外出して1週間くらいいなくなる。前は1か月程、リリは家でお留守番だった。それは仕事だったからしょうがないと我慢もした。でも、待っている間は、司は元気だろうか? 怪我をしてないだろうか? と気が気ではなかった。
「……リリ、海を見たくないか?」
その寂しそうな顔を見て、司は一瞬で決断した。リリも一緒に連れていこうと。ヴォルフたちに話をして、越えなければならない問題がいくつかあるけど、リリが笑顔で過ごしてくれたほうがいい、司はそんな気持ちだった。子供は子供らしく自由に伸び伸びと、こんなに小さい頃から我慢することを覚えてほしくなかった。
「うみ? ちょっと前に見た、水がいっぱいあるところですか?」
「この前見たやつよりも、ちょっと違うけど、大きな水で泳いだりもできるところだよ」
「いきたい……いきたいです。でも……」
少し元気が戻ってきたけど、まだ何かに葛藤しているようだ。
「まずはヴォルフたちと話しに行こう。それから決めればいいさ」
リリがコクリと頷くのを確認してから、ヴォルフたちに会いにプラントエリアに向かうのだった。
「……というわけで、旅行に行くのだけれど、ヴォルフたちはどうする? もちろんついてくるなら手配するし、留守番するなら不自由ないようにしておくよ」
かなり端折ったけれど、リリに説明した内容をヴォルフたちに伝える。
「ふむ。見知らぬ地には興味はあるが、私たちは大樹様の元を離れるわけにはいかない。迷惑でなければ、リリだけを連れていってやってくれ。私たちはここで留守番とやらをしているとしよう。不在期間についてだが、そこまで世話をしてもらうのも悪いから、交代で狩りにでも出ようと思うが良いか?」
「リリ、司さんの言うことをよく聞いて迷惑をおかけしないようにするのですよ? 司さんに頂いた貴重な機会です。未知をしっかりと学んで見聞を広めてきなさい。それはあなたの将来に役に立つでしょうから。あと、大樹様にご挨拶を忘れないようにね」
「お父さん、お母さん……ありがとう。大樹様もぜひ行ってきなさいと言ってくれましたから、しっかりと勉強してきます」
ヴォルフとルーヴは非常に協力的だった。そして、流石リリの親だけあって、リリの不安や心配などもしっかりと認識していて最適な答えを導き出した。
リリが考えていたこと。司について行きたい、でも迷惑になるかな? 見知らぬ地を冒険したい、だけどウルの一族として大樹様の傍にいなければいけない、お父さんとお母さんはどう考えるだろうか、そんな色々な思いがあった。
「リリは賢いから心配はしてないよ。ヴォルフたちは狩りに行くってどこへ? 外はまだ出れないぞ?」
「あちらの世界に狩りに行けばいいではないか。私たちは本来あっちの生き物だ。あちらで生活するのに何も問題はない。勘を取り戻すのに丁度いい機会だ」
「わかった。でも、気をつけろよ? もし怪我とかでもしたら、リリが心配するからな」
「もちろん、わかっている。無理はしないさ。リリ、私たちのことは気にせずに、楽しんでくるといい」
「はい。お父さんもお母さんも気を付けて」
こうして、ヴォルフたちの許可も貰い、リリが旅行に同行することが決定した。リリにとっての初めての夏休みとなる。目いっぱい楽しんでもらいたいものである。




