4-6 武神宗司という男の生い立ち②
22時に予約しようとしたら即公開してしまいました(;゜Д゜)もうこのままで
宗司の正当な罵倒を受けて、さらに頭に血が上ったのか。元門下は、刃物を構えて走り出した。宗司とは違う方向へ向けて、そう道場の隅にいる舞に向かって。舞は幼く、恐怖で動けない。これには宗司も予想だにしておらず、舞と元門下の間に身体を滑り込ませるのが精いっぱいの行動だった。
刃物が宗司のお腹に刺さる。同時に白い道着に紅い花が咲いた。
「ぐぅ……」
「いやぁあああああ、おにいちゃん!」
宗司のうめき声を聞いた舞が叫び声をあげると同時に宗司の顔が苦痛に染まった。
宗司に一撃入れたことと、宗司の表情を見て、元門下の顔がニヤリと気味悪く歪んだ。元門下は刃物を宗司から抜くとさらに切りつけようと振りかぶった。
それを見た宗司が取れた行動は、舞をかばって覆いかぶさるだけだった。元門下は容赦なく刃物で宗司の背中に切りつける。
「おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃん!」
宗司がうめき声をあげるたびに、舞が叫ぶ。この時すでに宗司の道着は白よりも紅い面積のほうが多くなっていた。誰がどう見てもかなり危ない状況だ。しかし、そんな危険な状況にあっても、宗司は舞をかばうことを止めなかった。
「何事だ!」
舞の叫び声を聞いて、巌が道場になだれ込んできた。
「おとうさん、おにいちゃんが!」
声で誰が来たのかを覚った舞が父親の巌に伝える。宗司は小刻みに震えており、もう返事が出来る状況ではなかったのだ。
巌は2人が置かれている状況を見た瞬間に、舞が声を出し始めたかどうかくらいのタイミングで動き出し、元門下の脇腹目掛けて、相手が死なない程度の蹴りを放った。当たった瞬間に、脚にゴキゴキと衝撃が伝わってきたが、そんなことを気にしている余裕はなかった。
巌は宗司と舞に駆け寄ると、すぐに2人の状態を確認した。
舞は大丈夫そうだ。
宗司のほうは……状態が危ない。すぐに自分の帯と道着も使い、できる限りの止血をして宗司を抱きかかえて道場を後にした。舞もすぐにそれについて出て行った。
一方、巌に蹴りを食らった元門下は10メートルほど横に吹っ飛んで壁に激突し、意識を失っていた。ちなみにこのモブ、この状態で忘れられて1時間程放置されるのだが、その間に逃げだせるはずもなかった。意識がないうちに警察と共に病院へ移動して、しばらく入院したところで目が覚めることになる。全治3か月の重傷。巌の蹴りで肋骨を複数本骨折し、複数の内臓を損傷し、壁に激突して肩を脱臼し、数え切れないくらいの打撲をしていた。
宗司が目を覚ましたのは3日後だった。かなりの血を失っており、相当危険な状態だったが、武神家の強靭な遺伝子のおかげで、なんとか一命をとりとめることができたのだ。
朦朧とした意識の中、宗司が自分に起こったことを思い出そうとした頃、母親の凛と舞が病室に飛び込んできた。2人とも目にクマができており、全然寝ていないのが丸わかりの顔をしていた。
凛は宗司に抱き着き、よかったよかったと何度も呟いた。舞は無事な宗司の姿を見たらワンワン泣き始めて収拾がつかない様子だった。
宗司は2人の行動にしばらくキョトンとしていたが、舞を守って刺されたことを思い出すと、怪我をしていなさそうな舞を見て安堵のため息をついた。自分はどうやら舞を守りきれたようだ、と。
ただ、その代償は大きかった。意識が戻ってからというもの、宗司の下半身に力が入らないのだ。12歳という幼さにも拘らず、宗司は自分自身に起こったことを正しく理解できていた。下半身不随という、この後に待ち受ける過酷な運命を。
この時、宗司は何を想ったのか。
舞を助けることができてよかった。でも、自分がもっと強ければ、舞を危険にさらすことも、怯えさせることもなかった。自分がもっと強ければ、怪我をすることもなかった。自分がもっと真剣に稽古をしていれば、自分がもっと命がけで父から学んでいれば、自分が……。
後々からあふれ出る後悔の念。しかし、その中に相手への恨み辛みはなかった。ただただ自分が未熟だったのが悔しい。その一点だった。宗司は生まれて初めて心の底から悔しいと思った。
怪我もよくなり、車いすで退院した宗司を家で待っていたのは、父親の巌だった。道場に呼ばれ、車いすで向かった宗司を迎えたのは、珍しく無表情で上座に座っている父親。
「父さん」
「……宗司、足が……動かんそうだな?」
「すいません。道場を継げない身体になってしまいました。跡取りは舞でお願いします」
「違う! 違うぞ、宗司。お前はまだ子供なのだ。なぜそんなことを言う? そんなことを今お前が考える必要はない。自分を殺すな。自分を押し込めるな。お前はよくやった。もっと自分を褒めてやれ。お前は正しいことをした。なぜ、そんなお前が謝る必要があるのだ?」
巌は宗司を力強く抱きしめた。
「舞を守ってくれてありがとう。私がもっと早くお前たちを助けてやれれば……すまない。本当にすまない……すまない……」
父、巌が泣いたのを宗司が見たのは、後にも先にも、この1回だけだった。
宗司が退院した次の日の早朝。
巌は自らでは歩けない宗司を背に、最低限の荷物をまとめて担いで、2人で静かに武神家を後にした。書き置きもせず、言づけもせず、向かった先は、2人にしかわからない。




