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4-3 干支神家と武神家の人々②

 舞は俺の身体の調子を事前に確認しに来ただけだったようだ。そのまま屋敷で雑談しながら、軽い食事をして約束の時間になったから、兎神に武神の道場まで車で送ってもらう。舞の話を聞いた後だと非常に気が進まないが仕方がない……。


「はっはっはー! 司よ! よく来たな! 今日という日を楽しみにしていたぞ」


 武神家の門の前には、既に宗司さんが今か今かと待ち構えていた。いつも通りの仁王立ちである。この人、いつもここにいる気がするのはいかがなものか? きっと気のせいだろうけど。


「……こっちに来なさい」


 そして、無言で舞が宗司さんを引きづって奥に消えていった……。まるでドナドナされていく羊のようだった。こわっ。


 勝手に人の家に入るわけにもいかず、置き去りにされた俺は仕方なく、その辺にいる門下の一人を捕まえて、武神家の人に来たことを伝えてもらった。名も知らない門下の人、手間をかけさせてすまぬ……。


 そのまま門の前で待つことしばし。


 俺のもとに着物を着た一人の女性がやってきた。どこか優しい顔立ちをした大人の女性だった。なのに、感じられる印象は妖艶・・の一言。漆黒の長い髪に左目の泣きボクロが特徴的。舞をすごく落ち着いた雰囲気にして、あと10年くらい歳を重ねたらこうなりそうな感じ……ということは舞の家族の誰かか? 


 でも何だろう、穏やかな雰囲気なのに、この背中がゾクッとする感じは……。すっごい失礼な話、なんか肉食獣が草食動物にでも擬態しているような感じがするんだけど。気のせいかな?


「こんにちは、干支神司と言います。本日は宗司さんとお約束があって参りました」


「はい、伺っております。こちらこそごめんなさいね。宗司も舞ちゃんも、司さんをこんなところにほったらかしにして……ご案内しますので、こちらへどうぞ」


「ありがとうございます。……あの、失礼ですが、舞さんのお姉さんでしょうか?」


 俺がそう伝えると、女性は一瞬停止したかと思ったら、にこりと笑って、


「あら、そういえばご挨拶がまだでしたね。申し訳ありません。舞ので、武神たけがみりんと申します。よろしくお願いしますね。司さん」


 やけに茶目っ気たっぷりの流し目で、そう言った。


 ……!? は? 母? 母と言いましたか? この人が舞のお母さん!? 若っ!?


「ささ、こちらへどうぞ」


 内心びっくりして固まっている俺を他所に、舞のお母さん、凛さんは先導して家の中へ案内してくれた。



 凛さんに道場まで案内してもらったけど、さっきの衝撃的な会話のせいでどこをどう歩いてきたのか全く覚えていなかった。今度も誰かに案内してもらわないといけないな……。


「こちらが道場ですので、どうぞ」


 道場の開き戸を開けて、2人とも唖然。道場の正面には、


「宗司兄、いいですか? 世間一般の常識というものがあります。なぜ、あなたという人はそうなのですか。もう少し、私の気苦労も汲んでもらいたいです。そもそも……」


「いやいや、そうは言ってもな。舞よ、私は今日という日をどれだけ待っていたk……」


「黙りなさい。宗司兄のせいで、司さんの前で、どれだけ私が恥ずかしい思いをしたと思っているのですか?」


 正面には、正座した宗司さんと、その宗司さんに説教している舞。道場の奥には、またか、と言わんばかりの表情をして2人を見ている、舞たちの父親の厳さん。


 いつもと変わらない風景、変わらない日常に、突如として爆弾が投下された。


「あなたたちは……、司さんをほったらかしにして、一体何をやっていますか」


 ひぃぃぃ、冷たい! 寒い! 極寒です! 凛さんの声が絶対零度の如く冷えています。やっぱり俺の最初の直感は正しかったよ……。こえぇぇぇぇ。


 そして、凛さんの声を聞いた2人は、ピシッと、リモコンの停止ボタンを押されたかのように固まった。それはもう、見ていて冗談かと思うくらい、わざとらしい芸風の芸人のようだった。


 俺は、あの当事者には絶対になりたくないな……。ほら、道場内の門下の人も、サーっと音も立てずに隅のほうに逃げていっている。まさに蜘蛛の子散らす、を体現しているようだった。この道場では危険感知能力は大事だな……アレに巻き込まれるとか洒落にもならんぞ。


「もう一度、言いますよ? あなたたちは、ご自分が招いた客人を放っておいて、ここで一体、何を、しているんですか?」


 そうおっしゃる凛さんは、確かにそれ相応の貫録を感じる……流石、この2人の母親だけはある。というか、逆にこれくらい強くないと、この2人の制御は難しい気もするな。ちゃんと制御できないと無法地帯になりそうだし……。


「お、お母様、これにはわけがあるのです。宗司兄が……」


 いち早く再起動した舞が、しどろもどろになりながらも言い訳をし始めた。宗司さんは相変わらず固まったままだ。いや、顔は真っ青で、だらだらと汗をかいているけど。


 あ、これ、あかんパターンやで。大抵の場合、こういう状況下で言い訳をすると碌なことにはならない。俺も身をもって体験しているから絶対だ。こういう時は、ひたすら謝って相手の熱が冷めるまで耐え忍ぶ心が必要だ。宗司さんはそれがわかっているのか、さっきから一言も発言していない。……ただ単に恐怖で動けないだけかもしれないのだが。


「この期に及んで言い訳するとは……。これは、2人とは、少しお話し・・・、が必要なようですね」


 ひぃぃ。俺の位置からは凛さんの表情は見えないけど、宗司さんの今にも気絶しそうな青い顔を見るだけで、この後に待ち受ける恐ろしさが解るというものよ……。南無……。

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