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4-2 干支神家と武神家の人々①

 リリが俺の部屋に来て、1分後には兎神が来客を伝えにきた。


「司様、舞様がいらっしゃいましたので、応接室にお通ししました。今日はお会いになるお約束をされていましたか?」


「いや、今日の午後に道場に行く予定だっただけだな。特に会う約束はしていない」


「そうですよね。私のスケジュールにもそうなっておりました。てっきり、司様が個人的に連絡を取られたのかと思いましたが違うのですか……」


「まぁ、会ってみればわかるかな? リリも行くか?」


「はーい! 行きます!」


 やっていた仕事がひと段落したので片付けると、リリを連れて応接室に向かった。兎神には軽い軽食と飲み物を人数分出してくれるように言っておいた。もちろんリリにもだ。



 応接室の扉をノックして、リリと一緒に中に入る。ここ最近は、来客がない日は屋敷の扉のほとんどが解放状態だ。理由はリリが移動するからなんだけど、ノックする習慣を忘れそうで怖い。


「こんにちは、司さん。リリもこんにちは。うん、リリは今日も元気そうですね」


 部屋に入ると、私服の舞が俺とリリに気づいて声をかけてきた。本日の舞の恰好は、ブラウスにパラッツォパンツといういで立ち。色も季節(今は6月だ)に合わせてパステルカラーを採用しているようで、涼しげな様子でなかなか可愛い。しかし、相変わらず、機動力に趣を置いた兵装だ。今まで一度もスカートとか履いているのを見たことがない。


「舞さん、こんにちはです」


 リリは久しぶりに会うのが嬉しいのか、舞の膝の上にぴょんと飛び乗って丸くなった。


「いらっしゃい。今日はどうしたんだ? 午後は武神の道場に行く予定だったんだけど」


「いえ、特にこれといって用もないのですけれど、今日からうちの道場にいらっしゃるようなので、怪我の具合はどうかな? と思いまして」


「わざわざありがとう。身体はもう問題ない。蒼花は全治一か月って言ってたけど、3週間くらいで完治したかな。ここ最近忙しかったから、筋トレくらいしか運動はできてないけど、まぁ大丈夫だろう」


「それを聞いて安心しました。なにせ、宗司兄が上機嫌で、手ぐすね引いて家で待っているので、身体が本調子でなかったらどうしようかと……」


「へ、へぇ……」


 宗司さん……なんかすごく嫌なことを聞いてしまった気がする。宗司さんってナチュラルに無茶なことを言うんだよな……。子供の頃に少し教えてもらった時にも、全身筋肉痛で動けなくなることが何回もあったし。なんか猛烈に行きたくなくなってしまったぞ。どうしよう……。


 俺が心の中で必死に葛藤していると、ノックをする音がした。真っ先に反応したリリの耳の動きが、彼女の現在の気持ちを如実に表しているようだった。どうやら橙花が飲み物と軽食を持ってやってきたようだ。


「入っていいぞ」


「失礼します。食事と飲み物をお持ちしました」


 橙花が応接室に入ってくる。リリの尻尾は緩やかに左右していて、匂いで何かがもうわかったのだろう。無意識に尻尾が反応している。


「初夏ということで涼しげな品を用意させて頂きました。卵とレタスとハムのサンドイッチと冷茶、デザートは水大福です。リリちゃんはリンゴですよ」


 橙花が人数分のサンドイッチとお茶、そしてデザートを机に並べていく。リリには、カットしたリンゴのようだ。リンゴのリを発音したくらいから、舞の膝から机に乗り上げそうになっている……。


「あら? このお茶とても爽やかですね。緑茶なのに甘みが強くて、渋みや苦みが少ないです。とても飲みやすくて、冷茶にはぴったりですね。お茶の葉の違いでしょうか?」


「これは、橙花さんの特製のお茶です! とってもおいしいです!」


 舞がお茶に一口つけたところで疑問を口にした。リリもおいしそうにがぶがぶと飲んでいるようだ。確かに、そう言われれば飲みやすい気がする。苦くないしな。それにしても、リリってお茶飲んでも平気なんだろうか?


「舞様は、お分かりになりますか? これは入れ方にコツがありまして。一度沸騰させた水を湯冷ましして、冷蔵庫でキンキンに冷やした後、茶葉を入れて低温抽出しています。24時間くらいしたら茶葉を濾して取り出します。この時、茶葉を絞ったりせずにできる限り最後の一滴まで自然に抽出すると良いですね。そうすると苦みが少なく、甘みが際立つ、このような味のお茶に仕上がります。それに、低温抽出はカフェインが抽出しにくいですので夜にお飲みになっても問題ありませんし、……おっと、ついつい説明が長くなってしまいました」


「いえ、ありがとうございます。とても参考になりました。私の家はお茶をよく飲むので試してみたいと思います。とても美味しいですし、これからの季節にはぴったりです」


 舞はニコニコと橙花の説明を聞いていた。何かお茶を通して通じるものがあるのだろう。俺には全く分からないが。


「舞様は中々見どころがおありになりますね。リリちゃんにも味の違いが解るというのに……司様は興味がないのか、違いに全く気付いてくれませんし、はぁ」


 そこ、これ見よがしにわざとらしくため息をつかないでくれませんかね? そりゃ、わざわざ手間暇かけて作ってくれているのには、俺だって感謝しているんですよ?


「……橙花、いつもありがとう。とても美味しいよ?」


「なんでそこで、最後が疑問形なんですか……。さて、私はそろそろ退散しますので、ごゆっくりどうぞ」


 配膳と説明を終えた橙花が応接室から出て行った。

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