3-33 干支神はファンタジーな一族を家に迎える②
話が決まってから、ウルの一族の行動は早かった。ヴォルフが遠吠えで森に点在する一族すべてに召集をかけると、ものの数時間で全員が集まった。といっても、ヴォルフたち家族を数に入れてもわずかに8頭という少なさである。
初めは何事かと思って、遠吠えもお互いに反響し合ったりしてだいぶ混乱していたが、いざ集まって話をした後はスムーズに移住が決定。ほかの狼? たちもヴォルフと同じ考えで、大樹様のところへ行くのは大賛成。むしろ、なぜ大樹様が枯れたのか、大樹様は私たちを見捨てられたのか、と途方に暮れており、今回の件でその理由がわかったため、みな一様に安心している様子だった。
それにしても、8頭の内、7頭が緑系統色の毛並みをしている。リリだけが唯一、薄い紫色の毛並みをしていた。リリは一目でわかるが、ヴォルフやルーヴを含む個体は、ほとんど見た目で差がないため、識別は困難を極めそうだ。多少の濃淡はあるが、ほぼ同色と言っても間違いはなく、身体の大きさもそんなに差がない。若干、ルーヴを含めた3頭が僅かに小さいかな? と感じる程度で、ほぼ誤差レベルである。
次に食糧問題。リリ達が地球に来た場合、兎神たち同様に食べ物が特殊なケースが発生する可能性が考えられる。そこで、司はウルの森にある果実や木の実を複数種類、できるだけ多くを持ち帰ることにした。橙花に渡して地下のプラントエリアで栽培を試みる計画だ。
司は、リリは地球の食料で2か月くらいは問題なく生活できていたから、そんなに量を必要としないはずだと考えている。最悪、食料に困ったら何匹かを連れて、この世界に遠征するという選択肢もある。
「これでリリの一族はいいとして、宗司さん? なんでここにマッドチャリオットがいるんですか? しかもこいつは、俺も世話になったやつじゃないですか。ここに来るときに、こいつに乗ってきてましたよね?」
我関せずの態度で、少し離れたところに2頭で仲良く並んで伏せて休んでいるマッドチャリオットを横目に見つつ、司は宗司に問いかける。司が別れたときは確かに1頭だったはず……いつのまに番を見つけたのか。
「ん? 俺はこいつの名前は知らんぞ? 舞を追いかけて走っていたら、道中で行き会ってな。なんか直感でピンと来たから、話しかけてみたら、なぜかついてきたぞ。どうせならということで、乗せてもらったというわけだ。わははは」
司は2頭のマッドチャリオットに近づくと、そのうちの身体の大きいほうの個体が司に気づいて起き上がった。やはり司が仲良くなった個体と同一のようだ。
「ブルォ」
挨拶のつもりなのか、ひと鳴きすると、長い舌を伸ばして司の顔に何回か触れた。その後、何かを伝えたいのか、ブルブルと鳴いたが、司には理解できる言葉ではないためクエスチョンマークだった。
「司さん、この子、司さんと一緒に行きたいって言ってますよ? 隣にいる番の子も一緒に行っていいか? って。それに、司さんと一緒にいると、おいしい食べ物が食べれそうだから……ふふふ、もう草原の草はおいしくないから嫌だって」
いつの間にか、リリが隣にいて、マッドチャリオットの言葉? を説明し始めた。食欲全開の理由だったが、まぁ動物らしいと言えば、らしいだろう。
「言葉……わかるのか?」
「正確にはわかりません。なんとなくですけれど、こう、イメージみたいなのが伝わってくる感じでしょうか? でも、この子が言っている内容とそんなに違わないと思います」
説明しているリリ本狼も首を傾げている。
「いいか? 俺は、この世界の人間じゃない。これから、故郷に帰るんだ。一緒についてきたいって言っても、お前たちの住む環境が変わってしまうことで、体調も悪くなることもあるかもしれない。それでもいいのか? もちろん、ここに帰ってこれなくなるわけじゃないが……」
「ブルォ」
司の会話を遮るようにひと鳴きすると、番の隣でまた伏せて休み始めた。外見のゴツさと身体の大きさを度外視すると確かに草食動物の行動そのものである。
「いいって言ってます」
リリの翻訳を聞いた司は苦笑するも、この2頭のマッドチャリオットを受け入れることにした。ウルの一族が8頭も移住するなら、プラス2頭したところで、もはや誤差の範囲である。
それにしても、兎神たちがいないところで、割と重要事項が決定したわけだが、本当に大丈夫なのだろうか……事実、近い将来に、この件で彼らは日本政府と様々な調整をすることになる。お留守番組3人の今後の苦労が忍ばれる。南無~。
そして一行は、それぞれの目的を胸に、新たな生活の場への帰路についた。彼の地、ウルの森で手に入れた、たくさんのお土産を持って。
司のたった一人から始まった今回の旅。
それが今や司、舞、宗司の3人。ヴォルフ、ルーヴ、リリを含めたウルの一族8匹。マッドチャリオット2頭の大所帯になっていた。縁とは本当に不思議なものである。
岩戸の鳥居を潜り、干支神の屋敷の地下、司たちの故郷である地球に降り立つ。素材不明の扉を開けると、留守番組の3人が揃い踏みの歓迎で出迎えた。一体いつからここで待っていたのだろう……謎は尽きない。
それはともかくとして、
「「「司様、皆さま、おかえりなさいませ」」」
こうして司の第一回目の遠征は、途中様々なトラブルに見舞われつつも、いくつかの成果を成し遂げ、最終的に全員無事で帰還の時を迎えることとなったのである。
「兎神、橙花、蒼花……ただいま!」




