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3-32 干支神はファンタジーな一族を家に迎える①

3章エピローグ①です。

 派手に登場した宗司は、司の無事な姿を確認すると、うんうんと頷いて満足そうな顔をした。そして、舞の姿を確認したかと思ったら、いきなり暴走した。


「妹よ! 無事で何よりだ! 兄は嬉しいぞぉ」


「宗司兄! 暑苦しい! あと、今は近づくな! 離れろ!」


「はははは、兄は、妹が少し汗臭い・・・・・くらいでは嫌いにならないぞぉ。私と感動の再会をしようではないか! さあ、この胸に滾る熱い想いをぶつけ合おう!」


 ピシィィィ……。


 今、確かに、世界が凍る音が聞こえた。

 周りの気温が急速に下がったような、そんな錯覚さえ感じられる。

 それはもう氷河期まっしぐらな勢いである。

 そして、同時に何かが壊れる音も聞こえた気がする……。


 司とリリは、2人揃って一瞬で、舞と宗司から距離を取った。お互いに示し合わせたかのような、完全にシンクロした行動だったのが印象的だ。いつの間にか、舞からは鬼気が放たれ始めていて、それに怯んだからではない……はず。きっと、たぶん、おそらく。


「デリカシーの欠片もない男は……、死ね!」


「ぎゃー!!!!」


 再起動した舞から容赦のない、殺す気の攻撃が宗司に叩きこまれていく……。今日、今、この場所だけは、とても平和な日常の光景だった。




「さて、この後はどうするのだ? いつまでもここで、こうしているわけにはいかないだろう? (キリッ)」


 舞にボコボコに殴られて、顔を蜂に刺されたパンダのようにしながら、締まらない真顔で真面目なことを宗司が聞く。もともと、精悍な顔つきをしている宗司がこのセリフを言えていれば、割と様になって格好いいかもしれないのに、非常に残念な男である。


「宗司さん、ありがとうございました。俺が不甲斐ないせいで迷惑かけて……こんなところまで来て頂いて。舞もだけど、武神のみんなには感謝しています」


「……司、みなまで言うな。困ったときはお互いさまだ。それに、私は私の都合で、ここに来ただけだ。お前は私の弟みたいなもんだろう? 弟を助けない兄がどこの世界にいる? 私からすればこの程度のこと、迷惑にすら値しないぞ」


 この男、普段から暑苦しいが、男気はあるので、こういうことを平気で口にできるのがすごいところである。家族のピンチに颯爽と現れて助けにくる兄。事実、この世界で舞も宗司にかなり助けられている。

普通ならば割と感動的なセリフとシーンなのだが、いかんせん、現在の宗司の顔面状態が良くない。セリフの内容がド真面目なだけに、顔とのギャップがありすぎて、もはやコント以外の何物でもない。虫刺されパンダ顔でなければ……悔やまれる。


「宗司さんはすごいんですね! 流石は舞さんのお兄さんです! そんけーします!」


 リリがキラキラした眼差しで宗司を見つめる。リリにはそういった機微はわからないため、純粋に宗司が素晴らしいことをして、素晴らしい発言をしたという印象だけが残る。


 でかくて、豪快で、アクロバティックで、裏表がなく、人当たりが良くて、面倒見もいい。そう、宗司は子供にはウケがいいのだ。決して普段から何も考えていなくて、子供と同じ目線で遊んでくれるから、というわけではない。断じて、絶対に。


「そうだろう、そうだろう。そうか……君が、リリ君か。うんうん、いい子だ。舞とこれからも仲良くしてやってくれ。ああ見えて、意外と面倒見がいいところもあるんだ。君みたいな子が近くにいてくれれば、舞も成長できる・・・・・だろうね。よろしく頼むよ」


「はい! もちろんです!」


 微妙に宗司の意図が見え隠れする会話だったが、純粋なリリはそんなことには気づかない。リリの中では、舞のお兄さん公認になった、という事実だけがあればいいのだ。


「前に、司とも相談したのだが、私たちとしては、この森を離れようと思う」


 リリの両親、ヴォルフとルーヴが、そう切り出した。

故郷の森を離れる。野生の生物にとってこの決断がどれだけ重大なことか。人間だとしても、住み慣れたところを離れるのにはかなりの躊躇が伴うだろう。


「お父さんとお母さんはウルの森から出ていくの? どこかに行っちゃうの?」


 リリは、自分が両親において行かれると思ったのか、とても悲しそうな顔をした。


「リリ、そうではない。私たち、ウルの一族は大樹様の守り人。大樹様がいる・・・・・・ところが、私たちの居場所だ。司から話を聞いたが、大樹様は世代交代・・・・をされたのだろう? それならば、この森の依代が枯れてしまった理由も納得するというもの」


「リリ、あなたは御役目を立派に果たしてくれていたのですね。私たちが傍にいてあげられなかった間に、こんなに成長してくれていたなんて……。これからはずっと一緒ですよ」


 ルーヴはとても嬉しそうに目を細めて、そう話し、リリの首元に自分の首を擦りつけた。リリはまだ話の内容を理解できていなかったが、どうやら置いて行かれるようではないということだけはわかって、とても安心したようだった。


「リリの両親、名前で呼ばせてもらうが、ヴォルフたちと話をして、ウルの一族のうち希望するものたちを干支神家で受け入れることにした。リリはうちの屋敷の地下に種を植えただろう? あれが次世代の大樹様で本体らしいんだ。ヴォルフたちは大樹様が枯れた意味がよくわかっていなかったけど、俺と情報交換してその理由がわかった。そこで、大樹様がうちの屋敷にいるんだから、ヴォルフたちも来ないか? と思ったんだ」


 司の話を聞いたリリは、また家族みんなで一緒に住めると理解して、その場でぴょいんぴょいんとジャンプし始めた。子犬状態の時についた癖は、この形態になっても変わらないようだ。しかし、それは周りでリリを見守っていた人たち全員を微笑ませる光景だった。


 リリ1匹の大冒険は終わりを迎え、これからは家族とともに歩む旅が始まるのだった。

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