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3-29 武神の少女の想定外

「っ!?」


 後ろで、リリが息を呑むのがわかりましたが、今はそれどころではありません。まずは、あの緑の獣に全力で一撃加えて、司さんから引きはがします。


 右の旋棍で渾身の一撃を見舞うと、緑の獣は司さんに乗せていた脚を離して、後ろに飛び退きました。私の一撃は空を切ることになりましたが、目的は達成したので問題ありません。


「リリ! 司さんを頼みます!」


 リリに一声かけて司さんを頼んでから、再度突撃をします。今度は左右の連撃で緑の獣に迫りますが、綺麗に回避されて一撃も当たる気配がしません。これは、……強い。なんとか当てる方法を模索しないと。


「っ!! 待て! 舞、俺は大丈夫だから、とりあえず落ち着け!」


「そうです! 舞さん、落ち着いてください!」


 私に気づいた司さんとリリから声がかけられましたが、それよりも早く、私は緑の獣に攻撃を仕掛けます。相変わらず回避され続けていますが、私のほうも相手の速い動きに目が慣れてきました。そろそろ一撃くらい当てれそうです。


 少しずつ私の旋棍がかすり始めた頃、緑の獣はついに攻撃に転じてきました。私の攻撃を回避すると、右の前脚で横薙ぎにしてきました。……くっ、速い。私はぎりぎりで伏せて回避したのですけど、今度は左の前脚がすでに私の頭上に迫っていました。


「待って! 待ってください! 舞さんをたないでください!! お父さん・・・・!!」


 ……ん? お父さん? まさか、……リリの!? この緑色の獣がですか!?


 リリの声を聞いた緑の獣(推定、リリの父親)は、振り下ろした前脚を私の頭上すれすれで綺麗に寸止めしてくれました。恐る恐る見上げると、まるで困ったやつだな、と言わんばかりに呆れた顔をした、……人間臭いと言いますか、とても野生の狼には見えない、何とも言えない表情をしている大きな緑色のが目に入りました。


 私、もしかして、大変な勘違いをしてしまいましたか……?


 緑の狼は、そのままゆっくりと前脚を私の頭に乗せて、ぽふぽふと数回叩きながら、


「娘、司を助けようとする、その心意気は尊いものだが、他人の忠告はよく聞くことだ」


 ……わ、私、ここ最近、全然いいところが無くないですか? ちょっと前に宗司兄にすら論破される始末ですし、今度はリリのお父さんにまで……。


「舞、その、何だ、ここにいるってことは、俺を助けにきてくれたんだよな? ありがとう」


 私は今、とても情けない顔をしていると思います。そんな私に、司さんが声をかけてくれました。……はぁ、落ち込んで反省するのは後でしましょう。まずは現状確認からですね。司さんも元気そうでよかったです。


「……そうなります、まずは詳しい話を聞きたいですね。お互いに情報交換しましょうか。それに、今の状況がとても謎でしたし……」


 私がそう言い終わる前に、リリが私の隣にいる緑の狼に突撃していきました。


「お父さん……。お父さん、お父さん、おとうさん!! うわーん、よかったぁ、うわーん」


 いつも元気で笑顔なリリの、その顔がくしゃくしゃになったところは初めて見ました。そうですよね、久しぶりに家族に会えたのですから、嬉しいですよね。……私は、そのお父さんを危うく殴ってしまいそうになりましたが……ごめんなさいごめんなさい。


 司さんとの話の途中でしたが、リリが落ち着くまで背中を撫でることにしました。ここまでの道のりで一番頑張ってきたのはリリですから。お疲れさまでした。お父さんと再会できてよかったですね……私ももらい泣きしてしまいそうです。


 ある程度の時間が経って、リリが落ち着いてきました。そこで、私は緑の狼、リリのお父さんに話しかけました。


「あの、先ほどは大変失礼しました。勘違いして襲い掛かってしまって申し訳ありません。私は舞と言います。司さんの知り合いで、リリとはお友達をさせてもらっています」


「お互いに何ともなかったことだし、それはもういい。司からは少し話を聞いている。司が怪我・・をして帰れなくなったから心配して見に来たんだろう? それと、私の娘が世話になっているようで、ありがとう。私の番、リリの母親も今は外に出ているが、そのうち戻ってくるだろうから、改めて二人で礼を言わせてくれ。私の一族は数が少ないから、娘には寂しい思いをさせていたところだったんだ。これからもぜひ仲良くしてやってくれ」


「ええ、もちろんです。リリとはこれからもずっとお友達ですよ。……って、怪我? 司さん、どういうことですか?今、怪我しているんですか?」


 怪我ってどういうことですか? 司さんの見た目は何ともなさそうですが、怪我してるんですか? リリも落ち着いてきたのか、こちらの話をしっかり聞いていて、怪我という単語を聞いた瞬間に心配そうな顔になりました。


 私とリリに同時に視線を向けられた司さんは、ウソが見つかった子供のように、ダラダラと冷や汗を流しそうな顔をして視線を横に逃がしました。これは、図星ですね。顔に大きく『まずい』って書いてあります。


「一体どういうことですか? 詳しくご説明頂けるんですよね?」


 私とリリに詰め寄られて、司さんはしどろもどろになりながら、自分に起こったことを説明し始めました。

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