3-28 ウルの森の先に待ち受けていたモノ
魔獣を宗司兄に任せて、リリと森に入ること1日。ゴールも近くなってきたので、私たちはかなりの強行軍で進んでいます。
あのあと、宗司兄は魔獣と1対1して勝てたでしょうか? いえ、これは愚問ですね。私にすら手こずっていたような魔獣に、あの脳筋ゴリラが負けるところは想像もできません。……というか、アレに勝てるものなら勝ってくれたほうが、むしろ地球の平穏ためになりそうです。
宗司兄は、著名な物理学者ですらサジを投げたくらいの非常識の塊ですからね。一体どうやったら素手で岩が割れるのですか。以前、宗司兄に尋ねたことがあるのですが、お腹にヴォンと力を集中して気合とともにハッと拳を振りぬけば岩くらいは割れるとのこと。……脳筋の説明は、まったく意味が分かりません。
聞くところによると、ご先祖様の武勇伝も大概だったそうですが、宗司兄もぜんぜん負けていないと思います。私からしてみればすぐ隣に歩く非常識がいるのですから、日々頭痛の種が絶えないのが悩みです。
まぁ、それでも私の兄なことには違いないのですが……。
さて、リリが言うには、ここが故郷のウルの森で間違いがないとのこと。心なしか走っているリリの足取りが軽いと感じるのは私の気のせいではないでしょう。きっと、久しぶりに故郷の森に帰ってこれて嬉しいのでしょうね。
「舞さん、もうすぐで大樹様に着きます。あと、大樹様の近くに司さんの匂いもあるので、きっと無事なはずです。よかったです……」
「そうですか、それはよかった……。それではこの休憩が終わったら、一気にそこまで行ってしまいましょうか。そのためにもしっかりと休んで、食事も少し取りましょうね」
魔獣との一戦の後、しばらくの間、痺れていた右腕もすっかり回復しました。防御した時にかなり強く打たれたので心配したのですが、打撲等の外傷にはならなくて安心しました。森に入った直後とかは、リリに振り落とされないようにしがみ付くのに精一杯でしたし。
リリには最後のナッツ袋とその辺で取った果実を渡しましたが、果実のほうは初めて食べると。あれ? ここってリリの故郷の森じゃありませんでしたっけ? 聞くと、樹の上には登らないので生っているのを知らなかったとのこと。柿と桃を足して2で割ったくらいの味でしょうか?実は硬め、甘みはそこそこ、不思議な味ですけど、割とおいしいです。しかし、種が大きくて邪魔ですね……。
荷物の中から2リットルのペットボトルを取り出して、リリと一緒に分け合いながら飲んで水分補給をします。これで残りは2リットルしかありませんから、早急に水をどこかで確保しないと不味いです。一応果実を食べれば水分は取れますが、糖分と一緒に摂取すると、どうしても喉が渇きますから、水は必ず欲しくなります。あと、何よりもお米が炊けなくなるのがとても辛いです。死活問題です。人類存亡の危機です。ノストラダムスの大予言です。
リリと二人でカロリーを摂取して、さらに20分ほど仮眠をとれたので体力を十分に回復することができました。これでこの先の移動も大丈夫でしょう。
この形態のリリは、寝ていても匂いや音を敏感に感知できるみたいで、寝込みを襲われるようなことは今まで一度もありませんでした。まぁ、この世界にきてから襲われたのは例の魔獣1回だけなんですけどね。
もしもの時のために私も見習わないといけません。私の寝込みを襲うような不埒な輩を撃滅しないといけませんからね……何か問題でも? でも、こういった習性は技術として身に着くものなのでしょうか? 今度、練習してみましょうか。
「十分に休憩も取れましたね。さぁ、リリそろそろ行きましょうか。ここからは目的地まで休憩なしになりますが大丈夫ですか?」
「はい! 舞さん大丈夫です! 早く司さんのところへ行きましょう!」
見るからに走りたそうにウズウズしていますね……。リリは日頃から頑張りすぎる傾向があります。私が姉として、しっかりとブレーキになって体調管理しておかないと、どこかで限界がきてバタンキューになりかねません。
「では、行きましょうか。リリ、よろしくお願いします」
「はい!しっかり掴まっていてくださいね!」
リリに乗るのもずいぶんと慣れましたが、流石にこの森の中を木にぶつからないように時速40キロくらいで駆け抜けるのは、なかなかすごいアトラクションですよ……。私はもう遊園地の絶叫マシンじゃ何も感じなくなっていそうで怖いです……。
リリに乗ってしばらく移動すること2時間ほど、今まで薄暗かった森の先が僅かに明るくなっています。ついに森の果てが、目的地が見えてきたのでしょうか?
「舞さん! 森を抜けます!」
リリの声掛けと共に、今までずっと周りにあった樹がなくなり、地面に土がむき出しの広場に出ました。ついに、着きましたか。さて、司さんはどこでしょうか?
リリから降りて広場の先、大樹様の麓に向かうと、そこにはうつ伏せになって倒れている司さんと、その倒れている司さんの身体を、大きな脚で踏みしめている緑色の大きな獣が目に入りました。
私は、その光景を見た瞬間に、頭の中が真っ白になって、何も考えずに、旋棍を構えて緑色の獣に突撃しました。
司さんに乗せている、その、脚を、どけなさいっ!




