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3-26 比類なき脳筋、武神流・剛、武神宗司②

 このまま力比べしていては、埒があかないと思ったのか、次に魔獣がとった行動は単純だった。一旦距離をとって、突進からの渾身の一撃。1トン以上の体重を乗せた全力の拳。魔獣の短い生涯の中で、これを受けて無事でいた生物はいない。


 さらには、魔獣は長く飛び出した爪を収納・・・・した。この攻撃にも最も適した身体となるために、己の全体重を拳の一点に集中するために。今まででも、そしてこれからも、魔獣の本能が教えてくれる最大の攻撃方法。


「ほう、もう力比べは飽きたか? しかし、そんなに離れてしまってどうするつもりだ? まさか、ここまできて逃げるつもりではないだろうな?」


 魔獣の紅い両眼が睨む先には、鬼気を発する宗司がいる。その威風堂々とした佇まいに、まるで忌々しい、とでも言わんばかりに魔獣の顔が醜く歪む。


「ゴアァァァア!!」


 魔獣は咆哮をあげると、一気に加速して宗司に迫る。魔獣の突進を見ても、宗司に目立った動きは見られない。ただ悠然と、その場に佇むのみ。

 魔獣が選択したのはアッパーだった。自分よりも身体の小さい宗司相手には、必然の選択だったと言える。魔獣の体躯と怪力を十二分に駆使した、全力の一撃。


 今までの苛立ちをすべて込めたかのような力強い一撃は、確実に宗司に当たり、わずかな抵抗を経て、宗司の身体を吹き飛ばした。まるで、遠投されたボールのように綺麗な放物線を描いて飛ぶ宗司。両者の体重差を考えたら、これは当然の帰結。人間が1tトラックに正面衝突されて、無事でいられるはずがない。


 予想通りの結果をもたらした己の攻撃に満足したのか、魔獣の顔にニタニタという気持ち悪い笑みが浮かぶ。宗司は20メートル程の距離を飛行し、顔から地面にランディングして、さらに5メートルほどスライド移動して動かなくなった。


「ガァァァアアアアア!!!」


 魔獣が今までで一番の咆哮をあげる。それはまるで、自分の勝利を確信してやまない雄たけび。瞬時に最大の攻撃を選択した自分の判断は間違っていなかった。

 魔獣の使命は己の敵を破壊すること。咆哮を終えると、倒れている敵にトドメを刺すべく、宗司に向かってゆっくりと歩きだした。

 

 しかし、宗司まで残り10メートルほどの距離になった時、なぜか魔獣は立ち止まった。確実に倒したはずの宗司から違和感を覚えたためだ。前に進みたいのに進めない、魔獣にとっては初めての経験だろう。意思に反して、魔獣の本能は宗司の生存を予感していた。


「……ふふふ、これは中々。この一撃では、今の舞には受けきれなかっただろうな。間一髪のところで止めることができてよかった。……もし舞が殴られでもしていたら、母さん・・・に俺が殺されるところだったしな」


 魔獣は目の前の光景が信じられなかった。普段であれば、あの攻撃が当たった時点で相手は潰れて肉塊になる、それで終わりのはずだった。今までの獣生でこんな経験はしたことがない。自分の最大の攻撃をまともに食らって、それこそ何でもなかったかのようなコメントをしながら、宗司は立ち上がったからだ。


「そんなに怯えなくてもいいではないか。今の攻撃はいい一撃だった。受けたのが俺でなかったのなら確実にあれで終わりだっただろう。それだけの一撃なのだから、誇っていいぞ」


 起き上がった宗司が魔獣に向かって歩いてくる。それを見た魔獣は無意識に後ずさりをした。死兵として生きる宿命の魔獣は恐怖を感じない。なのに、この本能を著しく刺激する感覚はなんだというのか。まるで背中を羽虫が這いまわるような不快感。魔獣が初めて感じる不気味な感覚、これが恐怖だとでもいうのか。


「では、そろそろこちらからも行かせてもらおうか。悪いが、俺にも少々予定があってな。これ以上、長々とお前の相手をしてやれん」


 穏やかな態度とは裏腹に、宗司は内心とても焦っていた。


(舞たちを先に行かせたのはいいのだが、まさか、あの狼にあんな速度が出るとは……早く追いかけないと、このままでは見失ってしまうぞ。舞のことも心配だが、母さんに怒られるのだけは絶対に避けなければ……)


 (それにこいつもこいつだ。さっきまであれだけ自信満々だったのに、なんで急に弱気になったんだ? 舞にはあれほどの敵対心を向けていたというのに、……舞を殴られたのを思い出したら、ムカムカしてきたな。可愛い舞への仕返しに殴り返しておくか)


 宗司は魔獣に向かって走り出すと、さっき食らった魔獣の攻撃を、そのままお返しでもするかのようなアッパー気味のボディブローを身体に叩きこむ。流石に、巨躯が宙を舞うことはなかったが、その効果は覿面だった。


 武神流・剛・激震。


 攻撃を身体の内部に伝達する初歩。人間相手であれば掌底などで行い、内臓を攻める技。使い手によって威力が左右され、真の脳筋(しょだい)ともなると、拳1つで土木作業(パイルバンカー)ができるほどにもなる。もちろん、宗司も似たりよったりな脳筋のため、これをまともに食らった際の威力は計り知れない。


 まさに魔獣の内臓を抉るような一撃。衝撃の逃げ場所がないからこそ、それは魔獣の身体の中を荒れ狂ったように駆け抜けた。実は、先ほど魔獣の攻撃で宙を舞った宗司は、衝撃を逃がすために接触する際に自分から後ろに飛んでいるし、それ以外にも肉体で防御する工夫をしていた。


 そんな防御するような知識のない魔獣は、宗司の拳をまともに受けて、あっけなく、それはもうあっけなく地面に膝をついた。

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