3-21 武神の少女は紫の乙女のもふもふを楽しむ mofu mofu fantasy
リリと一緒に『彼の地』へ渡り、草原を移動し始めて5日が経ちました。リリの運動能力はとても高く、私を乗せたまま、かなりの進行速度で移動しています。リリの走る速度はランニング程度の状態で丁度電車くらいのスピードでしょうか? 時速80キロはありそうです。リリが無理しないように数時間走って1時間休憩、数時間走って1時間休憩を繰り返していますが、もう目的地への半分以上の距離は稼げたと思います。私のお尻の負傷以外はとても順調ですね。時間が経てば経つほどに日々焦る気持ちは募りますが、一日に移動する時間はきっちりと決めただけにして、残りの時間は食事や休憩や睡眠に費やさないといけません。リリは度々まだ走れると主張してきますけど、それはダメです。あなたは根が頑張り屋さんなのですから、私がストッパーにならないと限界を超えて無理をするでしょうし。前にも、私の家に来るときに無理しすぎて着いた途端に倒れた前科がありますから。私の言うことはちゃんと聞く約束をしておいてよかったです。
「リリ、あそこに丁度よさそうな森がありますから、今日はもう野営の準備をしましょう。もうすぐ日も暮れますし」
「はーい、わかりました」
森の手前でリリから降りると、私はリリのおやつの果実と薪を拾いに森の中に入ります。それにしても、この辺はどこでも食料が豊富に取れますね。草食動物はちらほらと道中で見かけましたけれど、この草原の広さの割には数が少ないように感じます。一番驚いたのは肉食動物を一切見かけないということですね。これは生態系としてちょっとおかしいのではないでしょうか? まぁ、私が一人で考えても答えなんて出ませんけど。
おっと、考え事をしていたら果実のなっている樹を見逃すところでした。けっこう高い位置に実をつけているので普通に歩いていると気づかずに通り過ぎてしまいそうになります。樹に登って果実を5個取って、ついでに拾い集めた薪を紐で縛って担いで戻ります。
野営する場所ではリリが深さ20センチくらいの広めの穴をせっせと掘ってくれていました。掘り終わった穴に薪を敷いて、周りを石で組めば簡易かまどの出来上がりです。うーん、小さい頃から家族と山籠もりしていた経験が役に立つ日が来るとは、なかなか複雑な気分です。サバイバル女子って需要あるんでしょうかね? ……まぁ、怖いのであまり考えないようにしましょう。
それにしても、そろそろお風呂が恋しくなってきましたね。こういったサバイバルしているとき、私たち女子にとって一番の死活問題になるのはお風呂とお花摘み、この2つです。お風呂は河を渡るときに濡れタオルで身体を拭くくらいしかできませんし、お花摘みも適当なところで済ませるということもできません。男性が少しだけ羨ましいです。
日が暮れてきたので夕食を作りましょうか。日中は果実や固形栄養食だけで過ごしていますが、余裕のある時くらいは1日1食作って、まともなものを食べないと力が出ませんからね。といっても、材料的にも燃料的にも時間的にも手の込んだものは作れません。今日はお湯を入れるだけの鶏ガラスープにビーフジャーキーとお米を入れてオジヤモドキを作りました。リリの分はもちろん水分を多めにしてかなり薄味にしたものです。人間と同じものだと塩分過多になりますからね。デザートはさっき取ってきた果実をたべましょう。それにしても何でこんなに硬い外皮の果実しかないんでしょうか……。いまのところ、私の旋棍は専らくるみ割り人形状態です。まぁ、本来の目的で使わないことに越したことはないのですが。
「ささ、リリ、できましたよ。まだ少し熱いですから気を付けて食べてくださいね」
「わーい、舞さん、ありがとうございます。司さんのご飯もおいしかったですけど、舞さんのご飯もおいしいです! ……司さんはご無事でしょうか、私、とても心配です」
「きっと大丈夫です、それにリリが頑張ってくれてますから、おそらくもうすぐ目的地の森に着くはずですよ。もう遠目には見えてますしね」
そう、昨日の途中辺りから東の空にうっすらと巨大な影が見えるようになりました。リリが確認して、あれが大樹様で間違いないとのこと。この距離でも見えるなんてどれだけ大きいのですか……。司さん、もうすぐ着きますから、無事でいてくださいね。もし、ケガなんてしていたら、きっとリリに泣かれますよ? もちろん、私は説教ですけどね。
この日もリリに寄り添って暖を取ります。リリがこの形態になったことでモフモフ度が大幅に増したので、傍にいてくれるだけで暖かく寝ることができます。しかもリリの毛は上質な毛布のようにフワフワモフモフの肌触りをしているので、触るのが気持ちよくて癖になりそうです。司さんが頻繁に撫でていた気持ちが少しだけわかりました。あまり触りすぎると、リリにとってはくすぐったいようですが。それでは、おやすみなさい。
朝までは特に何事もなく、ゆっくりと休むことができました。2人で軽めの朝食をとってから移動を開始して、ついに大樹様の麓の森にあと一歩というところまでたどり着きました。
そこで、私たちは遭遇したのです。黒くて大きなゴリラみたいなフォルムの身体に、手には30センチくらいの鋭利な爪が、口には見栄えの悪い乱杭歯が、そして血を彷彿とさせる真紅の瞳を持つ、この世界で初めて見る、大型の肉食獣に。その真っ赤な両眼は私たちを一目見た瞬間から捉えて離さず、全身から迸るような敵対心を感じます。
……これはとても穏便に通してくれるような存在ではありませんね。




