3-19 武神の少女は騎乗する、これが本当の…… the wolf rider
一瞬、敵襲かと思って身構えましたが、すぐに気配でそれがリリだとわかりました。
しかし、今、私の目の前には推定3メートルくらいの、薄い紫色の毛並みの立派な狼がいるのです。今までに何度も見て、自分の知っているリリとは全く似ても似つきません。さっきまで私の腕の中にすっぽりと納まる子犬サイズだったのですから。これは一体どういうことですか!? あの可愛らしい子犬のようなリリはどこにいったのですか!?
「あの……リリ? なのですよね?」
「??」
目標推定リリの対象物は、何を言っているのかわからないといった感じで首をかしげました。この動作だけを見ると、リリそのものなんですけど、いえ、実際にところどころ愛嬌があって可愛らしさは残っているのですけれど、あまりにも外見が変わっていて私の心が認めることを拒絶しそうです。
「舞さん、どうかされたんですか?」
目標推定リリの対象物は、リリの声で私に話しかけてきました。どうやらリリで間違いはないようです。しかし、まったく自分の眼が信じられません。一体何がどうなったら、子犬が大きい狼になるのでしょうか。それとも私が気づかなかっただけで、元からこのサイズだった? いえいえいえ、そんなわけがありませんよ。私が考えてても、らちがあきませんので、本狼に聞いてみましょう……。
「あの、リリ、その姿は、どうしたんですか? 私が知っている外見ではない気がするのですが、私の気のせいでしょうか。リリがなんというか狼? のように見えるのです」
リリは、ああなるほど、と納得したような顔をしてから話し始めました。
「私、もともとはこっちの大きいほうが本当の姿なのです。でも、寒い日が続いてご飯をあまり食べれない季節になったりすると、お父さんとお母さんと家族みんなで小さくなって食べる量を減らして過ごすのです。司さんのお家にお世話になっていたときは、お腹いっぱいにご飯を頂いていたのですけど、どうしても大きいほうになれなかったのです。なぜでしょうか? でも、さっきウニョンってした赤い木を潜ったら大きくなれる気がしたので、こっちになってみました」
……たけがみまいは、こんらん、している!
っと、冗談はさておき、にわかには信じがたいですが、現実の目の前に事実があるのですから認めざるをえません。リリは自分の意思で大きくなったり小さくなったりできると、冬になって食べる物が少ない季節は家族みんなで小さくなってエネルギー消費を減らすと、地球に居たときは十分なエネルギー補給があっても大きくなれなかったと、さっき朱い鳥居を潜ったときに私ももやっとした何かを感じましたが、リリにもなんらかの作用があると。この内容、司さんは知っているのでしょうか? いえ、きっと知らないでしょうね。会った時に、これがリリだと気づいてくれるといいのですけど……。
「……そうなんですか、わかりました。確かに子犬の状態だと不測の事態になった時に不便ですからね。でも、その状態がつらくなったら遠慮なく言うのですよ?」
「はーい」
うん、反応はいつもの元気なリリですね。この現象の意味は全然わかりませんが、とりあえずそういうことだと納得しておきましょう。私は科学の専門家ではありませんし、難しいことは司さんに丸なg……げふんげふん、相談すればいいでしょうからね。
「それでは、気を取り直して行きましょうか」
「舞さん、舞さん、せっかく大きくなれたのですから、私の背中に乗ってください。こっちの姿でなら、小さい時よりもずっとずっと速く走れるのです」
リリの背中に乗る……つまりは乗馬的なアレということですよね? 私、自慢じゃありませんが、乗馬経験も自動二輪車の操縦・タンデム経験も一切ありません。そして遊園地とかの絶叫マシン系もまったく乗ったことがありません。結論としては……未知の体験への恐怖しかないわけでして。これは、一体どうしたらいいでしょう?
突然固まった私を見て、リリはどうしたの? 乗らないの? 的な無邪気な顔で見つめてきます。くっ、私はお姉さんなのですから、ここで妹分であるリリに格好悪くて情けない姿など見せるわけにはいきません。……舞、覚悟を決めるのです。すうはあ、すうはあ、よし。
「わ、わかりました。で、でも、お、お手柔らかにお願いしますね? リリ」
覚悟を決めたはずなのに、緊張のあまり、どもってしまいましたぁぁぁぁっぁあ。
私は緊張と羞恥をごまかすために、いそいそとリリに登ってみます。とりあえず、馬みたいに跨ってみたのですけれど、これでいいんでしょうかね? 乗馬ですら鐙と鞍がないと、馬が全力で走ったときに乗り手が振り落とされるって聞きますし、この身体のリリはどれくらいの速度で走れるのかが見当もつきません。ううう……恐怖しかありませんよ……。
「舞さん、しっかり掴まっていてくださいね! それじゃいっきまーす!」
「ちょ、ちょっと、リリ、まだ心の準備g……きゃあああああああ」
私が言い終わるその前に、とりあえずしっかり両脚に力を込めて振り落とされないようにしようと思った次の瞬間に、リリが華麗にロケットスタートをして、すごい勢いで加速しました。わああ、速い速い速い。落ちる落ちる落ちる。怖い怖い怖い怖い。なにこれええええええ。さっき、私、お手柔らかにって言ったのにいいいいい。
司さん……私は無事に、あなたのところまでたどり着けるか、正直不安です……。




