3-14 灰色の男の救難信号、紫の乙女は予感する foresee what will happen
今、私は司さんのお部屋の窓から外の景色を見ています。司さんも同じお空の下でお仕事を頑張っているのでしょうか。一緒に居られないのは寂しいですが、お仕事なのでしょうがないのです。司さんには司さんの、リリにはリリのやるべきことがありますから。今回のお仕事の内容は話してくれませんでしたけど、司さんはとても優しい人です、きっとみんなのために頑張ってくれているのでしょう。
それにしても、今、お屋敷の外は雨が降っていて、たまにピカってして、ゴロゴロと音が鳴っているのは一体なんなのでしょうか。急にそんな風になるから、それを見るたびに身体がビクッと反応してしまいます。ここ数日はずっとお外では雨が降っていますが、ピカっとしてゴロゴロするアレは今日初めてなりました。とっても嫌な予感がする今日この頃です。
「さて、そろそろ大樹様のご様子を見に行かないと」
私は首を振って、頭の中から嫌な予感を振り払います。窓縁からぴょんと部屋の床にジャンプして降りると、日課になっている大樹様のご様子をお伺いに来ます。司さんのお部屋やほかのお部屋のドアはいつも閉まっているのですが、司さんがいない時には私が自由に出入りできるようにと、橙花さんたちがお部屋のドアを解放してくれています。なので、私は一人で司さんのお部屋を出て、トコトコと廊下を歩き、橙花さんを探しにいきます。橙花さんはお食事の担当なので、まずは食堂横の厨房へ向かいましょう。
お屋敷の中を自由に移動することはできますが、大樹様がいらっしゃる地下に行くためにはエレベーター?というものに乗らなくては行けません。あれはよくわからないのです。司さんがいればご一緒してくれるのですが、今はご不在なので橙花さんに頼むようにしています。いつか一人でも行けるようになりたいものです。
考えながら歩いているうちに厨房に到着しました。中からは橙花さんの気配を感じますので、いらっしゃるようです。早速、頼んでみましょう。
「橙花さーん、すみませんが、今日も大樹様のところへ連れて行ってくださーい」
「はい、日課ですね。リリちゃん、わかりました。でも、今少し手が離せないので、ちょっとだけ待ってくださいね」
「はーい、わかりました」
橙花さんはどうやらお仕事の最中だったようです。どうやら、何かお肉のお料理を作っていたようですね。今日の厨房からはお肉のいい匂いがしますから。朝ごはんはもう食べ終わっていますが、このいい匂いを嗅いでいると、ついついお腹が空いてきちゃいそうです。ダメダメ、我慢しないと。
お肉を食べたい欲求に立ち向かうこと10分くらい、橙花さんが厨房から出てきました。どうやらお料理がひと段落したようです。
「ふふふ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ。あれは晩御飯に出しますからね。もちろん、リリちゃんの分もありますよ」
お肉の欲求と格闘する私を見て、橙花さんが苦笑しながら言ってくれました。どうやら私の分のお肉もあるようです。嬉しいです。食後のリンゴもついていたら、尚嬉しいです。晩御飯が今から楽しみになりました。
橙花さんにエレベーター?を操作してもらって地下へ行き、大樹様のご様子を伺う。うん、今日も調子が良いようです。葉っぱがツヤツヤしていてとても元気そうです。水も日光も土の栄養も十分で、何も不満はないとのこと。私の眼から見ても、苗木がすくすくと育っているのが見て取れます。
大樹様に私の両親のことを聞いてみましたが、ウルの森で元気に過ごしているそうです。安心しました。そんな、大樹様が謝るようなことではありません。大樹様のお世話をすることが、私の、私たちウルの森の民の使命ですから。でも、いつかまたお父さんとお母さんに会いたいです。私は大樹様の使命を元気でやっていますから、安心してくださいって伝えたいです。
「プラちゃんたちもおはよー、調子はどうですか?」
大樹様とのお話が終わったら、今度はプラちゃんたちに話しかけます。プラちゃんたちは枝をクネクネと動かして私に挨拶を返してくれました。うん、今日も元気そうです。昨日はお肉を食べたから元気いっぱい?それはよかったです。お肉はおいしいですからね。えっ?これはプラちゃんたちの『命の実』じゃないですか。私にくれる?いいんですか?この前、司さんにもあげたから、私にも?ありがとうです。せっかくだから、その場で頂くことにします。シャクシャク、瑞々しくてとてもおいしいです。リンゴとはまた違ったおいしさがありますね。プラちゃんありがとうです。
大樹様のお伺いとプラちゃんたちとコミュニケーションをとって日課のお仕事も終了しました。今日はもう自由時間ですが、外は雨が降っているので特にやることもありませんから、司さんのお部屋に戻りましょう。
相変わらず雨が降っていて、たまにピカピカゴロゴロしているお外を眺めていたら、急に大樹様から意思が飛んできました。心なしか焦っているような思念を感じます。
『私の巫女よ、たった今リンクが途切れました。何か良くないことが起きた可能性があります。至急、確認してください』
朝、私が感じた嫌な予感の正体はこれのことだったのでしょうか。今も何か胸騒ぎがするのです。司さんが心配です。
大樹様がおっしゃられたリンクというのは、司さんが出発する際に渡したお守りのことです。実は、あのお守りには大樹様の葉っぱと私の紫色の毛が入っていて、大樹様が司さんの状態をある程度把握することができるのです。そのリンクが途切れたということは、司さんの身に普通では考えられないようなことが起こったはずなのです。
私は大樹様から聞いたことをすぐに兎神さんに報告に行きました。
「兎神さん、大樹様のリンクが今途切れたそうです!司さんに何かあったのかもしれません。どうしましょう、どうしましょう……」
兎神さんはとても難しい顔をして、私の説明を聞いていました。話を聞き終わった兎神さんはとても焦っているようでした。
「それは不味いですね。しかし、司様は彼の地におられます。我々3人には行くこともかないません。現地に行き、司様を追いかけるにしても、誰か中継できる協力者を探さなくては」
協力者と聞いて、すぐに舞さんの姿が思い浮かびました。それと同時に、私の身体はもうすでに走り出していました。舞さんに助けを頼まないと!司さんが危ないのかもしれないと思うと、私の中に急いで助けなくちゃ!という気持ちが溢れます。
「っ!リリ、お待ちなさいっ!」
私のはるか後方から兎神さんが何か言っているような気もしましたが、そんなことよりも一刻も早く舞さんのところに。お屋敷の中を走り抜け、玄関で丁度外から帰ってきた蒼花さんの横をすり抜け、弾丸のような速度で外に飛び出しました。雨が降っていて、地面がぬかるんでいますけど、今の私にはこれくらいは何も問題になりません。舞さんの家への道順も、司さんとお出かけした時に記憶しています。
車さんだけには少し注意が必要ですが、あとは、全力で走るだけ、です。




