3-12 灰色の男と狂亀と、古の森と長老樹と in ancient times
東の空に『長老樹』と思わしき姿が見え始めてから、マッドチャリオットと移動すること丸3日間、俺はついに森の入口にたどり着いた。資料によれば、ここが目的地で間違いはないはずだ。俺の目の前の空には見上げても上が見えないくらいの巨木が1本。というか、こんなでかい樹が、ぼこぼことその辺に生えてたら、それはそれですごい世界だと思うぞ。
道中の移動にも特に問題も発生しなかった。まさにマッドチャリオット様々だ。わずかな指示で延々と走り続けてくれる、マッドチャリオットに乗って移動する旅はとても楽で快適だったからだ。未来の販売に向けて開発が進んでいる全自動運転自動車に乗る感覚もこんなイメージなんだろうか。もちろん、果実のご褒美は毎日あげていたから、ちゃんとギブアンドテイクなんだけどな。規制が無ければ、日本でも一家に一匹はほしいところだ。でも、実際に飼うのは無理だろうけどなぁ。番にしてやらないと可哀想だし、それにもし未知の巨大生物がいるのを見かけられて通報でもされたら、警察きそうだしな…。
さて、今日はもう数時間で日が暮れるから、森の中に入るのは明日からにしようと思う。特に初めて入る森で夜間に活動するのは危険だからな。まずは1日で行って帰ってくることができる距離での散策を2日か3日やったうえで、問題なければ本格的に調査する。森の中で食料確保ができるかどうかもわからないし、寝るための拠点もないからな。そんな状態で、広い森の中を彷徨うなんて無謀を通り越して自殺志願者としか思えない。しっかりと前準備することが重要だ。不慮の事故というものは起こるべくして起こるものだからな。
ということで、今日はもう野営の準備をしよう。明日からは森の調査だからな、よし今日は景気づけにカレーにしよう、そうしよう。森に入る前に、荷物を少しでも軽くしないといけないからな、俺がカレーを大好きで、ただカレーが食べたいって理由だけじゃないぞ?本当だぞ?
マッドチャリオットに地面を軽く掘ってもらい、その辺から拾ってきた形のよさそうな石を組んで簡易かまどを作る。かまどの上になべを乗せて、非常用ペットボトルから水を入れる。かまどの中には、森で集めてきた薪を入れて火をつけて、なべにカレーのレトルトパックを1つだけ入れて温める。なべのお湯が沸いたら、ついでにアルファ化されているパックご飯にお湯を適量いれて袋を閉じる。このアルファ化米のパックご飯は、これだけで20~30分後にはお米が炊けるという素晴らしい商品です。人間の知恵というものは偉大です。災害が起きたときとかに活躍する非常食の一種だな。
レトルトのカレーが温まったので、アルファ化米のパックご飯の袋の中に注ぎ入れる。ここまでわずか1時間ほど、野外どこでもカレーが食べられる時代とはいいものです。今日もカレーはうまいうまい。マッドチャリオットにも先日取っておいた果実を渡すと、ボリボリと音を立てて食べ始めた。うむ、カレーはいつもうまい。
お腹も膨れたから寝る準備をする。今日は寝袋を使わないで、かまどの前に座って寝る。一応シェラフを座布団代わりに下に敷いておく。マッドチャリオットは食休みなのか、2人にまったりとした時間が流れる。明日からは森の調査を頑張らないとな。
あ、そうそう、寝る前にやらないといけないことがあった。こういうことは、ちゃんとけじめとしてやっておかなければならない。
「今日まで付き合ってくれてありがとうな。お前のおかげで助かったよ。俺は明日から森に用事があるから、お前とは明日の朝でお別れだ。俺の持っている果実も今日で全部お前に渡すから、好きなだけ食べてくれ。もともと住んでいたところまで気を付けて帰るんだぞ?お前は強いから心配なんていらないかもしれないけどな」
俺は、ここまで付き合ってくれたマッドチャリオットに視線を合わせて、感謝の想いと明日の朝に別れることを伝えた。頭の角の根元をやさしくさすってやると、目を細めてブルブルと鳴いたかと思うと、長い舌を伸ばして俺の顔をぺトぺトと数回触ってきた。それが終わると満足したのか、その場で伏せて、あっという間に寝始めた。
こいつの舌で舐める行為にどんな意味があったのかはわからない。でもそれは、このマッドチャリオットのそれは、『お前のことは忘れない。また会おう。』って言っている気がしたんだ。俺のいいような思い込みかもしれないけどな。それに、これは俺の単なる勘だけど、こいつとはまた、いつかどこかで会えそうな気がするんだ。
さてそろそろ休もう。まぁ、寝ると言っても熟睡はできないから半覚醒状態でウトウトするだけだけどな。このへんは慣れが必要だったけど、剛さんとの山籠もり訓練で取得した。今考えても、あの人は頭おかしいんじゃないかと思うくらい、あの訓練は過酷だったな…。そんなことを考えていたら、睡魔が襲ってきて俺も明日に備えて寝ることにした。
「………ブルォォォォォォォォン、ブルォォォォォォォォン、ブルォォォォォォォォン」
明け方、俺は咆哮のような鳴き声で目が覚めた。それは、俺への別れのあいさつのつもりなのか、数回にわたって雄々しく鳴く、1匹のマッドチャリオットの咆哮だった。その咆哮はかなり遠くから聞こえ、目を開けて周りを見たときには、あいつの姿は近くにはもうどこにも見えなかった。それは野生に生きる獣らしい、さっぱりとした別れだった。
またどこかで会おうぜ、相棒。
さぁ、今日からまた一人だけど、頑張っていきますかね。




