3-10 灰色の男は謎の草原を疾走す run at full speed
このお話で通算50話目になりました。
「うひゃー、こいつはすごい。速い!速い!」
柄にもなく、小さな子供に戻ったような気分ではしゃいでしまった。でも、それも仕方ないと思う。風をきって走るのがこんなに楽しいことだったとは思わなかった。馬で果てのない草原を疾走するイメージ。ジェットコースターとはまた違う、とても開放的な疾走感だ。
「お前、すごいなぁ。助かるよ」
「ブルォ、ブルォォォォォォォォォォン」
疾走しているそいつの背中の甲羅をコツンと軽く1回だけ叩いて声をかけると、そいつは走りながら嬉しそうに咆哮をあげた。ずいぶんと人懐っこいやつだ。こいつを選んだのは直感だったのだが、先人と同じく、かなり良いやつと友達になれたようだ。こいつを探し当てるのと餌付けするのに割と時間がかかったけど、それをチャラにして余りあるだけの価値が、確かにこいつにはあった。先人の知恵とは偉大だ。
その速度たるや、体感で時速30キロくらいか?もはや自動車並みだった。俺の体重が70キロくらいプラス俺の荷物が30キロ強、合わせて100キロの荷物を背中に積んでいるにもかかわらず、その走る速度はずっと落ちないのである。驚異的な身体能力な上に、一日に食べる食事の量も身体の割に圧倒的に少ない。皆さま、お分かりいただけるであろうか、車よりも大きい、まるで戦車のような巨体の生き物がスイカくらいの大きさの果実1日10個もあれば20時間以上は継続して走れるのである。しかも舗装もされていない草原を、悪路も関係なく、凸凹なんてなんのその、湿原があったとしても俺を背中に乗せたまま泳いで渡る。さらには、普段はのんびりで大人しいが、もともと草食動物だから危険は敏感に感知して避けてくれる。水陸両用で高エネルギー効率、センサー機能も高性能。もう、現代のオフロード自動車もびっくりするような性能である。
俺は今、マッドチャリオットと呼ばれている生き物の背中に乗って草原を東へ東へと進んでいる。草原を駆け抜け、途中にあった河を泳いで渡り、湿原を軽々と走破する。湿原ではでかいアナコンダみたいなのが出てきたけど、こいつが軽く踏みつぶして進んでいったから何の障害にもならなかった。俺一人で移動していたら何日かかるかわからない道のりも、こいつと一緒ならあっという間に移動することができる。本当にすごいやつだ。
「おっと、あそこに丁度よさそうな果実がなってるな。そろそろ休憩しようか。ゆっくり止まってくれ」
俺はこいつの硬い甲羅の端をコンコンコンと短く3回叩く。
「ブルォ」
そうすると俺の乗っていたマッドチャリオットは、まるで了解、とでもいうかのように短い鳴き声を上げて、すぐに走ってる速度を緩め始めた。うん、学習能力も高い。車は急には止まれないっと、みんなも当然知ってるよな?
ちなみに、これが俺とこいつで走る練習をして決めた『止まれ』の合図だ。ちなみに甲羅の右端を2回、左端を2回コツンコツンとゆっくり叩くのは『叩いた方向へ走れ』で、コツンと1回だけ叩くと『まっすぐ前に走れ』だ。こいつは耳もいいから、俺が甲羅を叩く小さい音でも、その音がどこから何回聞こえたかは聞き逃さない。そして一度覚えたことはしっかりと守ってくれる。頼もしいやつだ。
まぁ、最初にこいつと『止まれ』の練習をしたときは、こいつが俺を乗せたまま急停止したことで、俺は慣性の法則にしたがって前方向にロケットのようにふき飛ばされたわけだが…。1回目に失敗した後は、ちゃんと学習して2回目に『止まれ』をしたときは、ゆっくり止まってくれるようになったけどな。勉強するということは大事だな。今回は、俺の身体が実験で犠牲にはなったが。でも、みんなは危ないから試しちゃだめだぞ?
ゆっくりと停止したマッドチャリオットの背中に荷物を残して飛び降りると、先ほど目をつけていたヤシの実みたいな果実がなっている木にスルスルと登っていく。木の9合目くらいまで登り、実を7個ほど取って真下の地面に落としてから木を下る。落とした7個の実のうち、1つだけをチタン入りブーツのかかと落としで硬い外皮を砕く。中にはジューシーそうな果肉がこれでもかと詰まっていた。念のため、味見をしてみたが予想通りうまい。残りの6個も拾ってマッドチャリオットのいるところに戻る。おやつも取れたし、さぁ休憩にしよう。
俺がヤシの実みたいな果実を抱えて戻ると、マッドチャリオットはブルブルと喉を鳴らせて迎えてくれた。抱えてきた6個を彼の前に置くと、嬉しそうにボリボリと丸かじりをし始めた。よくそんな硬い外皮ごと丸かじりできると思うよ。とんでもない顎力だね。俺もさっき外皮を砕いた1個の中身を食べる。うーん、おいしい。味と触感はライチに近い、瑞々しさはブドウに近いのかな?見た目と大きさはヤシの実みたいだけど。ここまで、マッドチャリオットと一緒に来たおかげで目的までの道のりをだいぶ短縮できているはずだ。これなら数日後には目的の場所にたどり着いて調査ができそうだ。順調順調。
この世界に来る前に、リリに何気なくタイジュ様って何なのって聞いてみたら、
『大樹様ですか?大樹様は、私の住んでいたウルの森の中心にあって、私たちウルの森の民を見守ってくれている神様なのです。私なんかじゃ天辺が見えないくらい、大きな大きなご立派な樹なんですよ?』
って言ってた。うん、なるほどね。あれがもしリリが言う大樹様ならば、根元にある森からリリが見上げたってまったく天辺が見えないわけだわ。
今の位置から見て、東の空にうっすらと縦に影が見えるんだよね。たぶん、あの影の根元が『長老樹』と先人たちが呼んでいた場所で、おそらくリリが言う大樹様。つまりは、今回の目的地のはずだ。それにしても、あそこに見える影は1本の木のはずなんだけど、どれだけでかいのかと思うよね。まさしく天を衝くかの如き高さというやつかな、あんなのまるで遠くから見た富○山じゃん。




