3-9 とある先人の手記より、自称天才冒険家の独白 ぱーとつー
『○月○日曇り、探索60日目。この世界にたどり着いて凡そ2か月が経過した。草原での生活にも慣れてきた。もともと初めから、ここでの生活は苦ではなかったのだが。しばらく手記を書く期間が開いてしまったので、再び私の偉業を記そうと思う。この地で生活するうえで、衣食住について語らずにはいられない。これまでで最もきつかったのがやはりと言っては何だが食事の問題だった。当たり前のことだが、人間は最低限、水と食べ物を摂取しないと死んでしまう。水は水上樹から確保できるため問題はなかった。しかし、食べ物はそうはうまくいかなかった。最初に試したのは、あの土トカゲ(仮称)、その辺にたくさんいるし、すぐ捕まえれるからだ。しかし、どうやっても土トカゲ(仮称)は不味くて食えなかった。こいつの肉は家畜のエサにすら不向きかもしれない。こいつをおいしく食べることのできる勇者がいたら私は尊敬する。あ、そうそう、名前を改め『アーススイーパー、地面の掃除屋』と正式に名付けた。由来は地面の土以外の全てを、何でも、際限なく食べるからである。次に目を付けたのは『オアシス』付近を流れる河の生物。以前、海でヤシの実みたいにでかいヤシ貝を食したがうまかった。同じ理屈で水生生物なら食べれるのではないか?という安易な発想からトライを試みた。次の頁へ続く』
『前の頁の続き、これについてはそこそこよかった。ただ、どうしても満足する道具がないため、取る種類が偏ってしまうのが難点だった。ちなみに道具は自作した。自作と言っても、草原の奥に生えている表面がやたら硬い木を伐りだしてきて、即席の銛を作ったくらいだが。魚系は10匹狙って3匹くらいだろうか。水上樹が群生している場所は魚が住処にしている箇所が多い。あとは潜ってサザエのような巻貝とカエルが取れた。淡水系もだが、水生生物は寄生虫が怖いので、よく火を通してから食べるのが大事だ。調味料があまりないのでうまくも不味くもないが、魚も巻貝もカエルも普通に食べることができた。せめて、どこかで塩くらいは調達したいところだ。近いうちに塩湖か岩塩でも探そう。次に目を付けたのは、草原の草食動物の食肉なのだが、これはなんというか捕獲がかなり厳しい。というのも周りが一面の草原だけに身を隠す場がほとんどないのだ。ほとんどの草食動物は、わずかに近づこうとしただけでこちらを察知するし、さらに近づこうものならすぐに逃げる。しかも、逃げ足も速い。かといって近距離が無理なら、長距離から仕留められるかと言ったらそうでもない。この草原に生息する生物は皆、不必要に『戦闘能力』がある。前にも記述したが、鱗や皮膚が異常に発達していて硬く、遠くから銛を投げようものなら途中で減速して天然の防御装甲を突破できもしないからだ。次の頁へさらに続く』
『前の頁の続き、唯一亀のようなものだけ温厚で近づけるのだが、こいつがまたあほみたいに硬い。一度だけ、ナイフで突いてみたのだが、頑丈な鱗に阻まれてまったく刃が通らなかった。銛に至っては根元から折れた。鱗でこれなのだから、甲羅の部分の強度なんて試す気にもならない。これでは例え手持ちに銃があったとしてもろくに効果がなさそうだった。そして問題なのは普段は至って温厚だが、これが一度怒らせると暴れまわって手が付けられないことだ。まさに怒れる重戦車のようだった。実際に森に逃げこんだときに、あの銛にも使用した表面が硬い木を突進でなぎ倒して追いかけてきたくらいだ。結局、その日は日が暮れるまでひたすら鬼ごっこを興じてしまった。その後はもう二度と怒らせないことを心に誓った。この記述を見ている諸君も気を付けるようにしてほしい。やるならば覚悟を持ってやることだ、ちなみに命の保証はしない。私はこの亀を『マッドチャリオット』と呼ぶことにした、意味は呼んで字の如く狂乱戦車だ。普段温厚なものほど怒らせると恐ろしいという教訓がよくわかった。次の頁へさらに続く』
『前の頁の続き、草原での食肉の確保が難しそうなので方針を転換して、草原に点在する森で食料確保を試みた。ここでは何種類もの自生する木の実や果実が発見できた。しかも、1個あたり大きい上に味もすこぶる良いし、数も多い。ただ、やけに生っている木の背が高く、木の実や果実の外皮が硬い、草原の動物に食べつくされないための進化なのかどうなのか。ちなみに熟れると地面に落ちていくのだが、あまりに外皮が硬くて地面に突き刺さっているのをよく見かける。これ、下を歩いていて丁度落下してきたものが頭に当たったら、人間では死ぬのではないだろうか。草原に点在する森に入った際は、頭上を注意されたし。そういえば森では例の鳥や羊や亀型の動物をほとんど見かけないな。もしかしたら、これらの植物ことを知らないのかもしれない。その後、森で果実を収穫した帰り道で、以前怒らせたマッドチャリオットの個体を見つけた。近づこうとしたら、接近する私に気づいたのか、普段は温厚な彼らが低い唸り声をあげて威嚇してきた。私のことを覚えていたのか。次の頁へさらに続く』
『前の頁の続き、今度は仲直りのつもりで、果実を5個ほどお裾分けで近くに置いて離れてみた。最初は警戒していたのだが、しばらく匂いを嗅いだと思ったらすぐに食べ始めた。ちなみに私がこの果実を食べるときには、この実に頭ほどの岩をぶつけて硬い外皮を砕いてから中の柔らかい実だけを食べるのだが、彼は丸かじりだった。それはもう丸ごとボリボリと音を立てて丸かじりだった。恐るべき顎の力である。5個をボリボリと丸かじりして味わった後は、離れてみていた私をしばらく見つめたかと思ったら、彼のほうから近づいてきて、鼻先を私の身体に擦り付けてきた。これは彼なりのお礼のつもりなのだろうか。食べ物をお裾分けしたからか、この果実がとても気に入ったのかは定かではないが、どうやら無事に仲直りができたようだ。喧嘩別れのようにならなくて済んでよかったと思う。それからというもの、彼は私についてくるようになった。私が移動する際は背中の甲羅に載せてくれるようにもなった。私も彼の生態が観察できるし、彼も私から果実や木の実を分けてもらえる。最初の出会いは最悪だったが、今は友達のような関係になれてなんとなく嬉しい。その後の観察で思ったのだが、このマッドチャリオットという生き物は非常に便利だった。次の頁へさらに続く』
『前の頁の続き、仲良くなった個体に名前を付けてみた。彼の名前は『ガイ』。もともとは温厚な性格、ただし決して怒らせてはいけない。全身は硬い鱗に覆われていて、背中にこれまたとてつもなく硬い甲羅をもつ体長5メートルほどの見た目はでかいサイのような亀。主食は草原の草。好物は草原に点在する森に生えている木の実や果実のようだ。まぁ、個体差があるのかもしれないが、私が取ってきて彼に与えると非常に好んで食べてくれる。身体の大きさの割に食べる量はそうでもないのが不思議だ。果実だと私の頭くらいの大きさのものが5つほどで満腹になるらしい。身体の割におそろしく少食だ、変換効率が優れているのかもしれない。1日に食事は最低2回ほど。まぁ彼は私に合わせて3回ほど食べているが。そして一番驚くのが運動能力だった。なんと食事の時間を除き、私を背中に乗せたまま1日中でも走ることができるのだ。しかもその速度は馬より早い上に、1日中走っても疲れている様子もない。圧倒的な体力だった。さらに恐るべきは、その怪力。薪や建材として森から木を伐りだして、『オアシス』まで持っていきたいのだが、私一人では到底運ぼうとは思えない。だが、彼は貨物列車のごとく悠々と引きずって運ぶことができる。彼と仲良くなってよかった、とても助かる。お礼に果実を多めにあげよう。彼のおかげで『オアシス』に家が建てれそうだ』




