3-8 灰色の男は謎世界で一夜を明かす one night carnival
俺に初めて襲い掛かってきたヤツ以外にも辺り一帯にはたくさんの掃除屋がいた。流石はGの眷属だ、俺が遭遇した数は明らかに30匹より数が多かったぞ。どうやらあのあたりの荒野一帯はヤツらの縄張りのようなものだったらしい。正直なところ、何のために存在しているかわからない生物だからな、通るときには思いっきり邪魔だし。あの荒野がヤツらの仕業だとしたら?放置するのと駆除するのとどっちがいいのだろうか?暇なときにでも要研究だな。
その邪魔者を避けつつ、逃げつつ、追いかけ回されつつ、早4時間あまりが経過した。ヤツらのせいで、かなり複雑に迂回することになったけど、概ね計画通りに東に向かっているはずだ。そろそろ水場が見えてもいい頃合だと思う。
「さすがに、そろそろ安全なところで休憩でもしないときつくなってきたな…」
鬼が複数いて圧倒的に不利な4時間耐久マラソン鬼ごっこは堪えるものがある、とか考え始めた頃、視界の先の赤茶色の景色に青色が混ざり始めた。ふう、ようやく今日の目的地に着いたようだ。これで、しばらく掃除屋の顔を見なくて済むかと思うと清々するぜ。ヤツらは泳げないから、絶対に水辺には近づかないらしい。
資料には『オアシス』と書かれていたが、俺の目の前にあるのはでかい河だった。川幅は何メートルくらいあるだろうか、目算だと正確じゃないけど、100メートルはありそうだった。荷物がなければ、泳いで渡れなくもないくらいか?水の流れは結構、急だが。一体如何したものか。左見て、右見て、ん?河沿いにもうちょっと南に行ったところに何か見えるぞ。
南にしばらく進んだ先に見えてきたもの、それは夥しい数の木が、石材や木材でできた構造物に絡みついて一体になっているもの。複雑怪奇に絡みついた枝の数が、その構造物のここに在りし年月を物語っている。まさに樹上の家そのものだった。しかも、水上樹の上に建てられているから下には大きな河。ものすごい立地の物件だった。これもし鉄砲水みたいな洪水が来たときはどうなるんだ?今の今まで壊れてないんだから大丈夫なんだろうけど。
「これは、またすごいところに家を建てたなぁ。まぁ水の傍に建てるのは基本中の基本だけれども水の上とは…。この発想は普通しないから、素直にすごい」
水上樹を伝って入口から中に入る。といっても、入口にドアなどはないから建物の両サイドに開いている穴から出入りする仕様になっている。建物の中に入ると、床や壁に複数の石が敷き詰められていて、物凄くしっかりと作られていた。窓と思われる場所から水上樹の枝が入り込んできているのはご愛敬だ。
今日はここがキャンプ予定地となる。部屋の隅に荷物を降ろして、荷物から鍋を取り出す。窓のように一部がくりぬかれている場所のすぐ下には、石で囲われた流し台みたいな構造になっていて、さらにその隅には排水溝のつもりなのか一部分だけ穴が開いている。
「なるほど、なるほど。ここで水を調達しろということか」
流し台の上に鍋を置いて、その真上の窓から丁度入ってきている水上樹の枝を少し切り裂く。ものの数秒もしないうちに、枝の切れ込みから水が染み出してきて、鍋の中に落ちていく。思ったよりも流れ出てくる水の量が多い、これなら5分もしないうちに鍋が満たされそうだ。これなら確かに、ここに住んでいれば飲み水には事欠く心配もない。この世界の環境だと、河の水が尽きない限り、安全かつ半永久的に水が入手できる水上樹の存在は貴重だ。日本みたいに常にどこにでもコンビニがあったり、その辺にある水道から水が自由に飲めたりするわけじゃないからな。
「資料で読んで、あらかじめ知ってたわけだけど、本当に不思議な生態の木だな」
鍋にたまった水をコップですくって飲み、今まで走ってきて失った水分を補給する。身体が思ってた以上に乾いて水分を欲していたためか、水がすごくおいしく感じる。十分に水分補給したら、次は鍋を流し台の隅にどかして、枝から直接水をタオルに染み込ませて絞り、身体の汗を拭きとる。風呂に入れないのは非常に残念だが、致し方あるまい。こういう環境でこそ、余裕のある時に身体はできる限り清潔に保っておきたい。身体を拭き終わったら、鍋をもとの位置に戻して水を溜めておく。
今日の正午くらいに岩戸を出発していて、ここまで来るのに5時間くらい経つからもうすぐ日が暮れるはずだ。今から食料の調達は難しいから、今日の夕食は固形栄養食のみとなる。まぁ、想定していた通りではある。
ああ、リリはちゃんと夕ご飯を食べているのだろうか…まぁ橙花に身の回りの世話を任せてきたから、その辺は大丈夫だとは思うのだけど、実際にリリがちゃんと食べているのを自分が見ていないと不安でしょうがない。これが親心というやつなのだろうか?
夕暮れになって辺りもだいぶ暗くなってきた。日本と違い、建物の照明や電灯がない場所というのは闇に飲まれるのがとても早い。それこそ夕暮れになったかと思ったら、一気に真っ暗闇だ。
荷物に括り付けておいてあったソーラー電源のLEDカンテラライトを取り出しておく。これは日中にソーラー充電で夜カンテラとして使えるキャンプ用品である、さらにソーラー充電できなくても手動ハンドルを回せば充電できる。今は使う必要はないがスマホの充電にも使え、ラジオも聞ける(ここではラジオの電波は来ていないから無用の長物)。LEDで消費電力が少なく、照明として長時間使える。さらに日本製だから頑丈で壊れにくい上に防水という至れり尽くせりな優れものだ。これでなんと1個5000円もしない。なんか通販ショッピングみたいな説明になってしまったが、一言で言えばとても便利、以上、説明終わり。
食事も取ったし、暗くなってやることもないのでもう寝よう。明日は日が昇ったら起きてすぐにやることがあるからな。早めに休んでおこうかと思う。早速、どっかの軍でも採用されている超頑丈なシェラフに潜りこむ。ちなみにこの寝袋もマイナス30度の環境でも凍死せずに使用可能なほどの便利グッズだ。自分で試したことはないがな。さて、おやすみなさい。
あぁ、まだ1日目なのにもうホームシックになった気がする。早く帰って、リリに会いたい…。




