3-7 とある先人の手記より、自称天才冒険家の独白 ぱーとわん
『○月○日晴れ、探索1日目。私は岩戸を離れ、彼の地に足を踏み入れた。驚いたことに岩戸の周囲は不毛の大地だった。周囲を散策した結果、岩戸より少なくとも4方3キロ以内は荒野であることが判明した。散策の途中、赤茶色の大地に擬態している新種の生物を発見。見た目は不細工なトカゲ。1時間程、遠目に観察していたが全く動こうとしない。まるで死んでいるかのようだった。さらに周囲を散策したところ、同じような生物が複数存在していることを確認した。そのどれもがいる場所から全く動かない。非常に興味深い。この対象を土トカゲと仮称しよう。明日はあの生物に近づいてみようと思う』
『○月○日曇り、探索2日目。土トカゲ(仮称)は昨日確認した位置から動いていないようだ。生物である以上、エサの確保は優先行動のはずだがどうしたことだろう、疑問は尽きない。もしかして生物の形をした植物なのか?とりあえず、近づいてみることにする。対象まで残り5メートル程の距離になった時、目玉がこちらを補足したかのようにぎょろりと動き、口がわずかに開いて中の牙が見えた。どうやら生物ではあるようだ。急に襲い掛かってきたのでやむをえず対処したら、つい倒してしまった。貴重な研究対象をもったいないことをした。反省。その場で解剖して身体の構造を確認したが、見た目通りに肉食獣だったようだ。特に脚と顎周りの筋肉の発達が著しい。ワニ程度の力は保有しているものと思われる。その後も、3匹ほど近づいてみた結果、半径5メートルほどに近づくと襲ってくる模様。また逆に10メートルほど離れるとあきらめる模様。このことから、嗅覚や聴覚での反応はしておらず、視覚限定で且つそれほど視力もよくないようだ。さらに肝心の脚力もさほど良くもない。これでは自然界で満足にエサを食べられるような生物ではないだろう。警戒心の高い草食動物などは近づきもしないだろうし、むしろこれに食べられるのはよほどのバカだけだろう』
『○月○日晴れ、探索3日目。この世界には雨は降らないのか?水の確保をどうしたものか。まぁ、まだ3日目か。それにしても不味い。不味すぎる。コイツは煮ても焼いても不味い。生は恐ろしくてトライすらする気もおきない。焼きあがった際の肉の匂いは普通なのだが、味は最悪だ。昨日うっかり仕留めた土トカゲ(仮称)をしょうがないから調理したが、これ単体では食えたものじゃない。煮ると苦い肉の味がスープにも出てきて2重に不味い、焼いてもダメで同じく独特の苦みが残る。唯一、カレー粉をガンガンに塗して焼けば、まぁカレーの風味で辛うじて食えなくもないレベルだ。これならまだその辺にいるワニを捕まえて食べたほうがうまい。脚と胴体の一部を味見してみたが同じ味で、他の部位は食べる気にもならなかった。しょうがないから、残りを最も近い土トカゲ(仮称)に投げ渡したら食べ始めた。あんなにまっずい肉を共食いするのか・・・。ゴミ掃除用に1匹いると便利そうだ。解剖した感じでは、毒袋みたいなのは見つからなかったし、肉自体にも毒はないみたいだから、この土トカゲ(仮称)の危険度は下級のレベル1とする。ただし、食用には不向きであることを付け加えておく』
『○月○日晴れ、探索4日目。今日も雨が降らない。手持ちの水の量が危なくなってきたので7日目までに雨が降らなければ一時的に帰還することも要検討。今日は南のほうへ行ってみようと思う。相変わらず、土トカゲ(仮称)が多い。なんでこんなにいるんだ。4時間ほど進んだところ荒野から砂地となった。さらに砂地を1時間ほど進むと、地球の海に酷似したものが確認できた。今日はこの砂浜を調査しようと思う。見たところ、波打ち際が前後しているので地球と同様に潮の満ち引きがあるのかもしれない。地球の海同様に青色をしているし、匂いも地球の海そのものと感じる。左右を見渡すが遥か地平線まで砂浜が続いていた。しばらく水に手を浸してみるが、特に炎症反応などの症状は見られない。指についた水分を少量舐めてみるが、普通に海水の味だった。これで時間が経過して私の体調に著しい変化がなければ有害ではなさそうだ。人間の生命維持に必要な塩分が確保できそうな海が確認できたことは素直に喜ばしい。今日はついでに少し砂浜を調べてみよう』
『○月○日晴れ、探索5日目。今日も雨は降らない。今のところ私の体調に変化は見られない、海水に急性的な有害成分は含まれていないようだ。昨日、砂を掘って入手した貝みたいなものを確認する。でかい。1つ当たり、私の拳2つ分くらいある。改めて見てみるが、でかい。2個も食べれれば1食になりそうだ。昨日からなべに海水を汲んで、いくつか放り込んでおいた。砂抜きはできているだろうか。まぁ多少は砂ごと食べてしまっても問題ないだろうとは思う。なべの海水を一回捨てて、なべを海水で洗い、もう一度海水を汲んで、その中に貝を放り込んで火にかける。砂場は火事の心配がないから気が楽だ。流石に生食は試す気にならない。10分ほど煮込むと貝の口が開いた。でかいだけで、中身は地球の貝と同じ見た目であることを確認した。味は、うん、貝だった。でかいから食べごたえがある。土トカゲ(仮称)を食べた後だからか、もの凄くおいしく感じるのがちょっと切ない。ヤツもなんとか食べれるようにならないものか』
『○月○日晴れ、探索6日目。今日も雨は降らない。昨日、貝を食べたが私の体調に変化は見られない。どうやら海水同様に急性の有害物質は含まれていないようだ。引き続き、経過を観察する。波打ち際の砂浜をランダムに掘ってみたが、かなりの確率でこの貝の生息を確認できた。この貝はヤシの実みたいな大きさだから、ヤシ貝と仮称しよう。このヤシ貝(仮称)は複数の存在が確認できるし、今のところ毒も確認できていないことから危険度は下級のレベル0(一般)とする。遅効性の有害物質が検出されないようであれば、大きさ、捕獲のしやすさから食用に非常に向いているものと思われる。今日はここから東の方向へ進んでみたいと思う。今日中に水が確保できなければ一旦帰還することになる』
『○月○日晴れ、探索7日目。東に進んでいたら河にたどり着いた。河口部分では汽水域独特のくさびが確認できたことから河の上流は淡水であることが推測される。水が確保できそうでうれしい。今日はこのまま上流に向かおうと思う。河口から河沿いに徒歩で4時間ほど歩くと不思議な風景が広がっていた。なんと言えばいいのか、河の中に木が生えている。しかもものすごく横長に何本も。マングローブの水面の上の部分がくの字に生えている感じだろうか。言葉で表現できないのがもどかしい。しかも、向こう岸まで連なっているように見える、まるで橋が架かっているようだ。自然とは不思議なものだ。根はしっかりと水中に張っているようで、水面から上の部分を歩くことができるようだ。不安定な要素も感じられない。細い枝の円周下部を少しだけ切り裂くと、数秒と待たずにぽたぽたと無色透明な液体が落ちてきた。さっそく飲んでみたが、無味無臭の無色透明の液体だった。つまり、水だ。河の生水を直接飲むことも考えたが、やっかいな寄生虫がいた場合、生水は危険だからな。木が河の水から水分だけをろ過してくれていそうだから、こちらのほうが飲むなら断然安全そうだ。この木を水上樹と仮称しよう。そして、この水上樹(仮称)が群生しているこの場所を『オアシス』と名付けることとする。この場所は、今後の水の補給地点として活用できそうだ』
『○月○日晴れ、探索8日目。水の枯渇を心配することがないのは素晴らしい。昨日から何度となく水上樹(仮称)から水を摂取しているが、私の体調に不調は見られない。水上樹(仮称)の胴回り10センチ程度の枝の下部30%ほどを切り裂くことで、なべいっぱいの水を得るのに5分とかからない。どうやら水上樹(仮称)には、かなりの速度で河から水を吸い上げる性質があるようだ。これでは地上に生育するのは無理だろう。今回の『オアシス』の発見は、水の補給地点として十分以上の価値を見出すことができた。今後、私のこの記録を見て、後続に続くものたちがこれを活用してくれることを切に願う』
『○月○日晴れ、探索9日目。水の確保ができたので、『オアシス』を拠点として、次は食料を探すこととする。見つからなかった場合は、この世のものとは思えないくらい不味い土トカゲ(仮称)を食べないといけなくなる。それだけは全力で回避したい。それにできれば燃料になるものも確保したい。手持ちの炭も有限だ。今日は河の対岸へ向かう。河を境にして西が草1本生えてない荒野、東は草原。環境の落差がひどい。しばらく進むと、所々に森まではいかないくらいの林のようなものも確認できる。生木は薪には向かないから、乾燥した枯れ木が見つかるとよいのだが。ちなみに水上樹(仮称)はまったく燃えなかった』
『○月○日晴れ、探索14日目。ここの草原は生態系がおかしい。いるのは草食動物だけで、なぜか肉食動物がいないのだ。いや、まだ発見できていないだけかもしれないのだが。それにしても肉食動物という外敵がいないのに、やけに爪や角、皮膚、鱗が『外敵を想定して』発達しているのはなぜなのか。自然界では不必要な進化はしないはずなのだが、不思議だ。これまでに見かけたのは鳥、羊、亀のようなもの、いずれもキャラバンのように複数体で群れを形成していた。鳥は、やけに脚の筋肉が発達していて2足歩行で地を走る。その足には鋭い爪が備わっている。身体の部分に羽毛はなく爬虫類のようなつるっとした皮膚をしているが、頭部だけは鳥そのものの外見をしていて、鳥類のはずなのに草食、そして非常に臆病だ。羊は、姿形としてはゴリラに近いが、頭部は羊の外見をしている。腕が異常に太く発達していて、その腕を使って木にも登れる。亀は、これは亀と言っていいのか謎だが、従来の重鈍な形ではない。形状的にはサイが最も近く、その背中に甲羅がある。手足には硬そうな鱗がびっしりとあり、頭部には一本の角。こいつだけは非常に温厚で近づいても逃げなかった。いずれの動物も、こちらから危害を加えない限りは襲ってくることはなかった。しばらくこの草原に住んで生活を観察しようと思う』




