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3-5 灰色の男は謎世界を知る hallo 謎 world

 4月某日、現地の天気は晴れ、初めて訪れた思い出の異国が謎世界になろうとは、果たして誰が想像できたのだろうか。いや、当事者の俺を含め、誰もがこんなことは想像し得なかっただろう。


 拝啓、みなさま、穏やかな午後のひと時をいかがお過ごしでしょうか。こんにちは、干支神司です。


 俺は今一人で、絶賛マラソン大会中なのです。なぜ?とおっしゃいますと、俺のすぐ後ろを走って追いかけてくる巨大生物?がおりまして、それが俺を頭から丸かじりしたそうに虎視眈々と狙っているからです。いや、あんなおぞましい外見のモノが生物と言えるのかは謎なのだが…。ただ唯一の救いは脚がそんなに速くないことか?このまま走って逃げていればそのうち諦めるだろう。あんなのいちいち倒してられん。


「前もって手記を読んで心構えしていたつもりだったけど、本当になんて世界だ…」


 そうは思ってみても、後悔は先に立たず、今はひたすらに三十六計逃げるに如かず。こんな可愛くない生物とは早くお別れして、リリの待っている屋敷に戻って思う存分モフモフ成分を補給したいものだ。ここ最近、ずっとリリと一緒にいたからな…離れ離れになって初めて実感するもの悲しさよ。今の俺には癒しが足りていないのだ。


 しかし、こんな生き物の存在といい、本当に歪な世界だな。



 大絶賛、一人マラソン中から5時間くらい前、干支神家にて。


 一通りの荷物をリュックサック型のバッグに詰め込んで背中に背負い上げる。長期滞在を想定しているからか荷物はかなりの重さになってしまった。総重量30キロくらいか?非常用の水が一番の原因なのだが。保存食の類は某固形栄養食などなどを採用しているからかなり軽量化できているから助かる。今日は服装もいつもとは違って多目的サバイバル仕様だ。これは兎神がどこからか調達してきてくれた服でやたらと頑丈な素材でできていて、刃物で切られたとしてもちょっとやそっとじゃ破れもしないどころか綻びもしない。一見は布みたいに見えるのだが、実は水も吸い難く内部の保温に優れている。表面に至っては特殊なコーティングが施されているらしく泥などの汚れも付着しにくい。そして一番の利点はその軽さ、これだけ多機能で便利な服を俺は今まで見たことなかった。ブーツも安全靴仕様でつま先と靴底にはガードでチタンが入っている。これは以前、剛さんとの訓練で1か月程山籠もりしたときにも使った一式装備だ。外見は真っ黒でどこぞの特殊隊員みたいなのだが。


「おっと、危ない危ない、せっかく兎神が作ってくれたコレを忘れないようにしないとな」


 そう言って1冊の手帳を服のポケットに入れる。屋敷に現存する先人たちの手記は一通り目を通したし、記憶したつもりだった。でも、兎神は念のためにと、その中でも重要な個所をピックアップして手帳に書き写して持たせてくれたものだ。この手帳もちょっと特殊で水を弾く紙?が使われており、水没したとしても滲んで読めなくなるということはない。特殊な紙を使っているため、書き込むためにはもちろん専用のペンが必要なのが玉に瑕なのだが。いつもながら兎神の気遣いには感謝。


 自分の部屋を出て、地下に向かう。途中、日課中のリリに会いに行き、タイジュ様とプラちゃんに伝わっているのかよくわからないが挨拶をしておく。プラちゃんの1匹が餞別のつもりなのか自分の謎果実を1つだけ枝で器用に取って渡してくれた。ありがたくその場で頂いていく、初めて食べたけど瑞々しくて不思議な味だ。挨拶の後は、リリと一緒に『鳥居』のあるフロアに向かう。扉の前にはすでに兎神、橙花、蒼花が見送りで待機していた。


 扉の前に着くと、緊張した雰囲気を覚ったのか、リリが不安そうに見上げてきた。今日からはしばらくリリに会えなくなるからな、抱き上げてやさしくモフモフする。


「司さん、これを一緒に持って行ってください。お守りです」


 リリが自分の首にかかっている緑色のきんちゃく袋を渡してきた。かつてタイジュ様とやらの種を入れて持ち歩いていたあの袋だ。リリの気遣いをありがたく受け取って、自分の首にかけて服の中にしっかりと仕舞う。絶対に落とさないようにしないとな。


「それじゃ行ってくるよ。リリのことをよろしく頼む」


「今の司様ならば大丈夫でしょうが、お気をつけて。彼の地は地球とは全く違います。それを努々忘れないように」


「「お気をつけて、いってらっしゃいませ」」


「司さん、気を付けて行ってきてくださーい。ご無事で帰ってきてくださーい」


 扉を開いて中に入り、後ろを振り返ると、兎神たち3人はお辞儀を、リリは心配そうに前脚をブンブンと振って見送ってくれた。こんなに心配してくれる人たちを悲しませることは絶対にしたくはない、しっかりと目的を達成して無事に帰ってくることが今回の俺の最も大事な仕事だ。


 部屋の中央、しめ縄を超えて朱い鳥居を潜ると、周りの空気が変わったのがわかる。ああ、これが、これこそが先人たちが口々に語っていた世界の境界というやつか。



 かつての先人たちはここになにを求めてたどり着いたのだろうか、それは未知の世界を知ることだったのか、未知の美味なる食べ物を食すことだったのか、未知の生態系に住まう生物を探し求めることだったのか、未知の薬を求め不治の病を克服することだったのか、あるいは未知の場所を己の墓標とするためだったのだろうか。


 それぞれに求める目的は違えども、未知なる可能性を求めて彷徨った偉大な先人たちの生き様に最大限の敬意を払おう。


 そして、俺も、ついにその先人たちの仲間入りを果たしたのだ。


 こうして俺は新たな一歩を踏み出した、これから俺はこの世界に一体何を求めることになるのだろうか。その問いに答えるものは、まだない。


 さぁ、行こうか。

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