3-2 彼の地は遠く、静かに佇み、いつか訪れる時を待つ②
リリと一緒にプラントエリアの奥に進んでいく。地下にしては広大な空間をしばらく進んだ先に、根っこが6本ねじれて絡みついたような不思議な形をした木が3本見えてきた。通称プラちゃん、自立歩行をする高さ3メートルほどの肉食の木である、もはや何も言うまい、バイ○ハザードにならないことを祈るばかりである。その3匹のプラちゃんに囲まれるようにして、中央に1本の木の芽のようなものが生えている。
「大樹様、おはようございます。日光と土と水の具合はどうですか?そうですか、よかったです。プラちゃんたちもおはよ~。今日もみんな元気いっぱいだね~」
リリが当然のように芽と木に挨拶をする。芽のほうは俺が見る限り、何の反応もない。ただ、リリには芽の意思みたいなものがわかるらしい。不思議だ。
木のほうは俺が見る限り、おかしい反応をしている。枝を上下に動かしながら、6本ある根を波打たせてキシュキシュと音を鳴らしている。リリが言うには、これは挨拶をしているジェスチャーらしい。人間でいうところの知り合いに手を振るのと同じことかね。しかし、君たちよく会話が成り立つね・・・・。
しばらくリリがプラちゃんたちと何やらやり取りしているのを、俺は後ろで静かに見守った。リリは、時折ぴょいんぴょいんと飛び跳ねていて、とても楽しそうだ。というか、俺は一般人なので、植物と会話できるような高度な技能は備わっていないのである。それに、たとえそれがあったとしても、あれに混ざる勇気は俺にはないのである…まる。
リリがタイジュ様とやらの種をどこからか咥えてきてから、この1か月の間に予定の合間を縫って日本の各地を巡ってきた。ほとんどはリリの観光目的で行ったのだが、東京○ワーに上ったり、大きな神社にお参りに行ったり、船で渦潮見に行ったり、富○山に登ったり、他にもいろいろなことをした。場所によっては犬が入れないところもあったが、管理者に必死に頼み込んで、拝み倒して少しの間いれてもらったりもした。ルール上ダメなところは普通に歩いていては周りの人にも迷惑がかかるので、その時はリリ専用の移動バッグに入り、頭だけ外に出した状態の時もあった。窮屈を強いてリリに申し訳ない気持ちもあったけど、本人ならぬ本犬はあっけらかんとしていて、そんなことよりも未知の体験に興味津々で、右に左にあれは何?あれは何?状態で大忙しだった。これらの思い出話はそのうち別の機会にでも話そうと思う。話す機会があればだが。
そんなことをしばらく続けていたら、いつの間にかタイジュ様の種とやらに芽が生えた。リリから聞いた話だと、どうやら日本の龍脈?とやらから少しずつ力を得て、やっと発芽できたらしい。謎だ。詳しく教えてほしかったのだが、本犬も伝言ゲームみたいな感じで自分が言っている言葉の意味はよくわかっていなかった。ちなみに芽の生えた種は、つい最近このプラントエリアに植えてみた。種を植えた瞬間、今までエリア内を自由に動き回っていたプラちゃんたちが、さながら王を守る騎士の如く、常に周りに侍ることになったのがさらなる謎事件だ。そして、種をここに植えて以来、リリは俺に時間さえあれば毎日のようにここに散歩にくるのが日課になった。ここに来れば当然の如くプラちゃんたちとも会うのだが、リリは始めからプラちゃんたちと仲が良かった。初めは巨大な肉食植物にリリが捕食されるホラーな心配をしたものだが、そんなことは思いっきり杞憂で終わったというわけだ。今ではお互いにすっかり友達同士になり、俺には全然わからない謎コミュニケーションを日々の日課としているまでに至っている。
「司さーん、今日も大樹様はお元気でした。日光も水も十分で、土の具合も心地いいそうです。橙花さんにも感謝を伝えてほしいとおっしゃっています。プラちゃんたちも体調に問題はないそうですが、そろそろご飯でお肉が食べたいなって言ってました。橙花さんに伝えてもらっていいですか?」
今までの記憶を思い返して何分くらいたっただろうか。リリが日課の謎コミュニケーションに満足したのか、俺の足元に戻ってきた。
「そうか、わざわざ聞いてきてくれてありがとうな。あいつらの言ってることは、リリにしかわからないから助かるよ。橙花に伝えておくな。あ、そうだ、午後から喫茶店で待ち合わせして舞に会うんだけど、リリはどうしたい?一緒に行くか?それとも屋敷で留守番しているか?」
「舞さんですか?お店で待ち合わせなのに私が行っても大丈夫なんですか?」
「舞から聞いたんだけど、なんでも待ち合わせ場所の『壁に耳あり、障子に目あり』って喫茶店はマスターが剛さんらしいんだ。剛さんは俺の知り合いでもあるから、多分大丈夫だと思うんだよね。リリが行くなら先に連絡して何か準備してもらおうかなと、リンゴを使ったやつとか。」
「リンゴっ!?行くっ、一緒に行きますっ!お店はどこですか?今からですか?」
リンゴという単語を聞いた瞬間に、リリがついて行くことが決定した。というか、君はさっき朝ごはんでリンゴを食べたよね?リリは耳をぴょこぴょこ、しっぽを左右に高速で振りながら、もと来た道を全力で走り去ってしまい、あっという間に姿が見えなくなってしまった。
ちょ、はやっ。




