2-16 武神の少女による girl meets boy and fantasy⑥
「まずはお互いの認識の確認からしよう。俺は自分の祖父である干支神源が死去した際に遺言状のようなものをもらった。それを読んだことで、この家がまだあったことを知った。そして、祖父の知り合いの娘を許嫁にしたことが書いてあったから、その人に一度会って話をするためにここに来た。手紙には君がどういった人と成りなのかは書いてなかったし、それこそ前情報みたいなものは一切なかったから、直接一回会って話してみたほうが、人に調べさせるより早いと思ってな」
「私も概ね似たような感じですね。今週の半ば頃でしょうか、父と母から呼ばれまして、そこで司さんが許嫁になったことを教えられました。私のほうは司さんの簡単なプロフィールくらいはその時に教えてもらいました。といっても、それこそお名前と歳、あとは家族構成くらいですので、あってないようなものですが。あと、その、ご両親が事故でお亡くなりになって、今はお一人だということも聞きました」
「いや、そんなに気を使わなくていい。両親が死んだのはずいぶん前だし、祖父が亡くなったのは急だったが、もう気持ちの整理はついている。これまでのことをどれくらい考えても時間は戻らないからな、これからのことに時間を使ったほうが有意義だ」
ご両親やご祖父の話を振った際に、司さんは首を横に振って努めて明るく話そうとしているようでした。まだ癒えぬ痛みはありますが、それに耐え、必死に前に進もうとしているのでしょうか。唯一といっていい家族を失って悲しくないわけがありませんから。私の両親や祖父母はまだ健在ですので、司さんのように家族を亡くされた方の気持ちがわかるなんて言うことはできません。気持ちのない、そんな言葉を言えば、それはただ相手の気持ちがわかったフリをして、共感している自分自身に満足しているだけでしょうから。それはきっと偽善です。今はそんなことを言うよりも、この人が本当に困ったときやつらいときにすぐに手を差し伸べられる心の準備をしておくこと、それが重要だと私は思います。
「…司さんは強い人なのですね。私がもし司さんと同じ状況だったら、あなたと同じことが言える自信がありませんよ。もしあなたが自分だけでは解決できないようなことで困ったときには教えてください。こんな私ですが、少しでも力になれるかもしれませんから」
こんなに自分の気持ちに素直になれたことは今まであったでしょうか?私にこんなやり取りができるなんて、まるで心が洗われるようです。今までどれだけダークサイド舞になりかかっていたのかがわかります。これは反省しなければいけません。でも、なんというか司さんは異性というイメージがあまりしませんね。そう、言うならば、少し危なっかしいけれど、頼れるお兄ちゃんというイメージでしょうか。そうですね、それが一番心にしっくりきます。
「…ありがとう。その時には頼りにさせてもらうよ。さて、少し本題に入るか」
そうですね、この話はここで一旦終わりにしましょう。私もこの手の話に慣れていませんし、司さんも照れくさそうです。お互いにこういうシリアスな展開は苦手そうですから。早いところおしまいにしたほうがよさそうです。
「先ほどの続きなのですが、私の両親からは一度司さんに会うこと、会った上で両者が合意すれば許嫁として成立することを言われています。今は仮許嫁みたいな感じで、今後は本人達の意思を尊重するということですね」
それとこれは声に出して言えませんので、紙に書いて伝えます。
『これは声に出さないで読むだけにしてください。返事もいりません。ここでの会話や行動で私の家に不利益な内容は、私の両親に報告されているそうです。不利益にあたるのがどの程度の範囲までかはわかりませんので、一応言動には注意しておいてください』
紙の内容を読んだ司さんは驚いたように一瞬目を見開きましたが、すぐに1回頷きました。助かりました、どうやらすぐにこちらの意図を理解してくれたようです。
お母様にはこちらから意図的にご破算にするような動きをすることは禁止されていますが、こちらの状況や本音を話してしまうことを禁止されているわけではありませんからね。今までの会話の中で判明している司さんの性格を考えると、素直にぶっちゃけてしまった上で、今後どうするか相談したほうがいいでしょう。昨日までアレコレと黒い計画を立てていましたが、正直相当のストレス源でした。素直に相談することで今はとても心がスッキリとしました、昨日までの自分にはご苦労さまと言いたいところです。
「そうだったのか。こちらの手紙には『知り合いの娘を許嫁に決めておいた』とだけだったからな。あのタヌキ爺め、一番肝心なことを端折りやがって、絶対あの世でドッキリ成功したとか思ってほくそ笑んでやがるな」
「そうなんですか?司さんのお爺様、源様はご自分の死期を悟とり、先のない自分のためではなく、自分の死後、天涯孤独の身で生きなければならない唯一の孫のご心配をなされたのでは?そして、ここからは私の想像ですが、源様はきっと自分にお時間がないことを知り、これからのことを考え、自分に残された時間で何ができるのかを焦っていたと思います。ご自分の眼で実の孫の成長を見守ることができなかったこと、さぞご無念だったことと思います。ご自分の最後まで自分のできることを探し、しかも自分のためにではなく、家族のためにそんな行動ができる方には尊敬します」
私の意見を聞いた司さんは少しの間、真面目な顔をしたかと思ったら、苦笑して、ため息をつきながら驚くべきことを言いました。
「いや、きっと、うちの爺様はそんな深いこと考えてなかったと思うぞ。きっとものすごい軽い気持ちで、面白そうだから許嫁にしといちゃう?みたいな話で決めたんだと思う。あの爺の性格はよく知っているからな」
なんというか、司さんも身内でずいぶんと苦労しているようです。その気持ち、とても他人事のような気がしません。なぜでしょうか?
そんなことを思っていると、ピンポーンと家のチャイムが鳴りました。おや、どなたか来客でしょうか?




