2-14 武神の少女による girl meets boy and fantasy④
リビングに続く戸の隙間から、ちょこんと顔を出してこちらを伺っていた子犬?が、トコトコとこちらに歩いてきました。身体はまだかなり小さいですね、それにガリガリと言わないまでにもかなり痩せています。体長20センチメートルくらいだと生まれてどれくらいなんでしょうか?犬種も今まで私が見たこともない特徴がちらほらと、どちらかというと犬というよりは狼に近いフォルムの気もします。それに薄い紫色のかかった白っぽいの毛並みの犬種なんてありましたっけ?まぁ、私は犬に詳しいわけでもなんでもないので、ただ知らないだけというオチもあるのですが。
「あの、司さん?この子犬は何なんでしょうか?司さんが飼っているのですか?」
「ん?子犬?あ、リリ、今お客さんと話をしているからリビングにいないと、だめだろう」
司さんは後ろを振り返ると足元にやってきている子犬?に話しかけました。リリと呼ばれた子犬は司さんの足の後ろに隠れるように移動すると、顔だけを出して私のことを見上げてきました。どうやら、こちらのことを警戒しているようです。私とは初対面なのですから当たり前のことですね。むしろ、初対面であちらから近づいてきているだけ、この子は人懐っこい気性なほうなのでしょう。
司さんはリリと呼んだ子犬を抱き上げると、腕に抱いた状態で子犬の頭をやさしく撫でています。落ち着かせるような、すごく慣れた手つきですね。リリと呼ばれた子犬も当たり前のように自然体で受け入れていますし、眼を細めて心なしかウットリとしているように見えます。
「話の途中ですまない。とりあえず上がってくれ。ペットボトルの市販品で悪いが、お茶くらいだそう。そうしたら、少し状況を確認させてくれ」
子犬を抱きかかえたまま、司さんはリビングのほうへ歩いて行きました。それを見届けてから、私は玄関の扉を閉めて、靴をそろえて脱ぎ、リビングへ追いかけるように向かいます。リビングについてから即理解しました、なるほど、多少散らかっていると言っていた意味が分かりました。リビングの隅には犬用のトイレセット、寝床と思われるクッションと毛布のかたまり、未使用なのかたたまれた状態で積まれたタオルの山、子犬の遊び道具と思われるボールや咥え紐、掃除用品のコロコロやウェットシートの箱、近くに置いてある買い物袋からはペットフードのパッケージがちらりと見えています。ほとんどが子犬用の私物ですが、つい最近買ってきたばかりと言わんばかりの状態でした。おや、おかしいですね、子犬のほかに親犬がいるようには見えません。
「片付けてもらっている身で、逆に散らかしていてすまん。とりあえず、リリの生活用品を買ってきたんだが、2日前に買ったばかりでまだ整理もできてないんだ」
先にリビングへ向かった司さんが、冷蔵庫の中からお茶のペットボトルを取り出し、グラスを2つ持った状態でキッチンから戻ってきました。足元には子犬のリリがちょこちょこと司さんの後をついてきています。生活用品を買ったのは2日前ですか、では一緒に住みだしたのはつい最近ということですか?その割には、まるで親子のように見えるくらいに司さんによくなついているように見えます。
「いえ、これくらいは散らかっているという範疇にはとても入りませんよ。私の友達の一人の部屋は言葉では言い表せないレベルで物が散乱していますから。百倍はマシというものです」
「あはは、あんたも苦労してるんだな。おっと、知っての通り椅子なんてないから、そのへんに適当に座ってくれ。まずはお互いの情報交換からにしよう。これからのことを考えるのはそのあとだな」
私の答えを聞いた司さんは苦笑していましたが、とても申し訳なさそうな顔をしていました。お互いリビングにある長方形の長机の周りに座り、司さんがペットボトルからお茶をグラスに注いで渡してくれました。子犬のリリは司さんのすぐ横で丸くなって伏せているようです。しかし、本当に仲がいいですね。しかも、まだ子犬なのにとても賢そうです。初対面の私に怯えていませんし、威嚇などもしてきたりもしません。ただ司さんの横におとなしく座っているのです。私の家の近所の犬なんて登校するときに私が家の前を通過したりするだけで吠えてくるのに、まったくと言っていいほど大違いです。なんということでしょう。
「今これしかないものでな、ありあわせで悪いがどうぞ。さて、何から話したものか。いろいろ確認事項がありすぎて困るが。その前に、まずは改めて自己紹介からしよう。干支神司だ。歳は18になったばかりだな。うちの爺様、源というのだが、つい先日亡くなってな。遺言みたいな手紙を受け取って内容を読んだところ、ここのことが書いてあって来てみたわけだ。君は俺の両親のこの家を管理してくれていたのだろう?そのことにはとても感謝している。改めて、ありがとう」
司さんが座ったまま深々と頭を下げてお礼をしてくれました。
「お茶ありがとうございます。いえ、そこまで感謝されるほどのことはしておりませんよ。私は2年前くらいから母に言われて掃除するようになっただけですし、その前はずっと母が一人でしておりましたから。改めまして、武神舞と申します。歳は16になりました。私の家は代々、武神流という古い道場を営んでおります。家自体はおそらく兄が継ぐのですが、私自身も武神流の流れを汲むものとして日々鍛錬をしております。なんというか、身体を動かすのが好きですので」
「武神流?………もしかしてだけど、宗司さんの?そういえば自慢の妹さんがいるとか聞いたことあるような気がするな。俺の記憶が間違っていなければだけど」
なぜここであの筋肉ゴリラの名前が出てくるのでしょうか?そういえば、家を出るときにもあの筋肉ゴリラが何か言っていましたね。なんでしたっけ…。




