2-9 武神の少女は学校帰りの喫茶店スイーツという道草を食む④
なんか微妙な空気になってしまったので、マスターに紅茶をおかわりして小休止。
「で、その舞の許嫁さんってどんな人なの?その外見とか、性格とか、特徴とかさ。何も情報ないわけじゃないんでしょ?両親からは何も聞いてないの?」
「正直な話ですが、あまり情報がないんですよね。お名前は司さんとおっしゃるそうです。歳は18才になったばかりみたいですね。お父様のお知り合い方のお孫さんのようで、そのお知り合いの方は源様というお名前らしいですが、その源様にはそのお孫さんの司さんしか肉親がいないそうです。その司さんですが、小さい頃にご両親を事故で亡くされたそうで、そして、最近唯一の肉親だったその源様が亡くなり、司さんは天涯孤独になったそうです。亡くなる少し前に、源様は自分の死期を悟った際、これからおひとりになる孫の司さんを憂いて許嫁を決めてから逝こうとなさったそうで、知り合いだった私のお父様に話を持ち掛けられて、ちょうどいい年頃の娘がいたので私に白羽の矢が立ったという経緯のようです」
そう、この話を両親から聞いて、あの家に長年人が住んでいた形跡がないことに納得がいきました。あの家はその司さんがご両親と住んでいた家なのでしょう。そして両親が事故で亡くなり、祖父に引き取られたのであの家には長年誰も住んでいなかった。でも、司さんの祖父の依頼で、いつか司さんが戻ってくる可能性のために掃除などの管理を外部にお願いしていて、それを2年前までお母様がしていましたが、それ以後にちょうどいいから私が引き継いだということでした。
源様はご自分の死期を悟とり、先のない自分のためではなく、自分の死後、天涯孤独の身で生きなければならない唯一の孫のご心配をなされた。そして、ここからは私の想像ですが、源様はきっと自分にお時間がないことを知り、これからのことを考え、自分に残された時間で何ができるのかを焦っていたことでしょう。そして、藁をもつかむ気持ちで私のお父様に許嫁のお話をされた。ご自分の眼で実の孫の成長を見守ることができなかったこと、さぞ無念だったことでしょう。まだ若輩の私には到底慮ることもできない感情ですが、ご自分の最後の一瞬まで文字通り死力を尽くした生き方というものには憧れます。というか、こんな話を聞いたら勝手に決められたことを恨むに恨めないというものです。
まぁ、この後日、この司さん本人から、あちらの家の内情や経緯をお聞きして、そんな深刻な内容だったわけではなく、本当に本当に軽い気持ちで許嫁にしちゃう?的な話で決まっていたことを聞いた時にはひどく脱力したものです。
閑話休題。
「へぇ、その話だけ聞くと、言っちゃ悪いけど、その司さん?って人はずいぶん不運な人だと感じるね。そんな人生送っているとどんなひとか不安になっちゃうけど、その辺はどうなの?性格的なこととか、そのへん」
「今は、その源様のお屋敷に家令の方と住んでらっしゃるようです。代々続く家業のようなものをしていらっしゃるようで、現在はその司さんがご当主ですね。性格ですか……実際、私はお会いしたことがないので何とも言えませんが、お父様に聞いた話ではお父様と兄は会ったことがあるらしいです。司さんには武神流を少し手ほどきしたことがあるようで、その際は礼儀正しく、習得意欲も高く、非常に素直で呑み込みも早く、身体的なものも才能的なものも将来が楽しみだと。そして、お前には勿体ないくらいだとかほざいておりましたね。我が家の脳筋ゴリラ共が言っていることですからどこまで正しいのかわかったものじゃありませんが、あいつら直観力だけはありますからね。十中八九で悪い人ではないでしょう」
そういえば、お父様はまだわかりますが、なぜあの兄が会ったことがあるのでしょうか?私の家に来たことでもあるのでしょうか?あれ、でもそうするとお母様が会ったことがない理由になりませんね。むむむ、なんかそこはかとなく嫌な予感がしますが、まぁ考えても答えが出るわけではありませんから、今は気にしないことにしましょう。
「お屋敷、家令、当主………全然普通じゃない言葉が出てきた。もしかしてすごいお金持ち?」
「許嫁の方、お名前は司さんとおっしゃるのですね、苗字はなんとおっしゃるんですか~?」
「確か、えとがみですね。干支神司さんとおっしゃるそうです。珍しい苗字だと思います」
「えとがみ……干支神?とすると~、干支神司?祖父の方は干支神源?どこかで聞いたことがあるような~。どこでしたっけ~?優ちゃん、優ちゃん、干支神さんってなんでしたっけ?」
「澪、物忘れ多すぎ。干支神の宗家は、この日本で1家しかない。古くから歴史のある家だけど表には出てこない代々裏家業の家。本当かどうかは知らないけど、干支神家は昔から『世界の境界』を管理していると言われている。だから情報は国家機密。国の要人にもつながりがあるから、ヘタなことを言うと警察に捕まる。でも本当に怖いのは警察じゃなくて、干支神家を代々守っている影の一族がいるということ。これは本当に危ない、敵対した場合、最悪物理的に消される可能性がある。私が知っているのはここまで。舞は当主と会うなら気を付けたほうがいい。友達としての忠告」
なんかとても物騒な家に聞こえるのですが………そんな家の当主と会わなきゃいけないなんて、私になにか恨みでもあるのですか?お父様、お母様。




