2-8 武神の少女は学校帰りの喫茶店スイーツという道草を食む③
5/4 舞の兄、宗司の名前にルビ。
流石はマスター、相変わらずのいい仕事っぷりでした。私の食べたモンブランは甘すぎず、それでいてスイーツらしい満足感のある一品でした。栗本来の甘味といいましょうか、非常に濃厚でいてさわやかな甘さにクリームが合わさって、ふわふわのスポンジととてもマッチしています。砕いた栗とクルミの実がごろっとはいってるのもいいアクセントですし、食べるのが楽しい一品でしたね。
そして、新作スイーツのほうですが、これはまたちょっと変わった志向ですね。クレープを段々に重ねていき、それぞれのクレープの間にサツマイモ餡と柚子ジャムが交互に塗られているものですね。見た目は完全にミルクレープみたいです。中身は違いますが。
いざ試食。うーん、悪くはないですね。サツマイモ餡の甘味と柚子ジャムの酸味が新鮮です。サツマイモの柔らかい甘みと柚子の柑橘系のさわやかな酸味がとてもいい感じです。これでも十分、普通においしいのですけれど、普通なんですよね。なんでしょうか、もう一味なにかがほしいと感じてしまいます。なんか漠然とした感想になってしまいますけれど、マスターには『これでも十分おいしいが、なにか物足りない感じがする』と伝えましょうか。
私が食べ終わって、エイミーたちを見ると、ほかのみんなはすでに食べ終わっていました。4人それぞれ食後の紅茶タイムを楽しむと致しましょう。しかし、優はいまだに空っぽになったお皿を凝視していました。そんなに見つめていてもおかわりは出てきませんよ。試食も含めると3つも食べているのですから、これ以上は食べ過ぎです。あなたは誰かがストップをかけないと際限なく食べますからね。
「さて、どこまで話しましたっけ?」
途中でケーキが来てしまったので、会話が途切れてしまいました。ケーキを食べるのが楽しみすぎてどこまで話したか忘れてしまいました。えーと。
「舞ちゃんのおじさまとおばさまに昨日の夜に呼び出されて~、許嫁を決めておいたって報告されてから~、正式に許嫁になるのはお互いに一度会って決めたら~って話になって~、でも舞ちゃんの性格と習性を鑑みてみると~、その許嫁さんを取り逃がしたらいつまでたっても結婚できない残念女子になるかも~ってところ~?」
「そうそう、確かそんな感じだったかな。舞が相手の人を見もせずに初めから許嫁を拒否するなんて珍しいよ。あんたんところの両親が決めた人だもの、いい人なのかもしれないから、一度会ってお互いに知り合ってから決めたらいいんじゃない?って話してたところかな」
「私は男に興味はない。でも、料理人かスイーツ職人か喫茶店のマスターには興味がある。舞、もしその人が料理できる人だったら紹介して?」
澪はまたさらっとディスってきましたね、言われたのは2回目なのに、また心にグサッと来ました。エイミーにしては今回すごくまともなアドバイスですね、私も結構意固地になっていた感が否めませんし、冷静になって考えると両親に対する反抗心があったのかもしれません。これは今後反省すべき内容です、すべての情報を客観的に総合して判断できないと武道も上達しませんからね。あ、うちの脳筋ゴリラ1号(父)と脳筋ゴリラ2号(兄)みたいに野生の直感世界に生きている人間には関係ありませんが、私は一般人ですからね。そして優、あなたはぜんぜんブレませんね…その性格が少しだけうらやましいです。
でも3人とも私の話をちゃんと聞いてくれて、自分なりに考えて、そして遠慮のない意見をくれたり、私のおかしいところは注意してくれたりするのです。私にとって、この3人と出会えたことは神様に感謝しても感謝しきれませんね。これは人付き合いが苦手で、友達と呼べるのがこの3人くらいしかいない私にはとてもありがたいことです。みんながみんな、自分を客観的に見つめることができれば一番いいのですけれど、なかなか難しいですからね。こういう私のためにアドバイスしてくれる機会は貴重です。
「でもでもさ、あんたに許嫁ができるなんて話をさ、あんたの家でよくできたね。舞のことを溺愛してる宗司さんがそんな話聞いたら、きっと相手を見に行って気に入らなければボコボコにするんじゃない?それはそれで楽しそうだけどさ、あははは」
あははは、じゃないですよ!?あの兄のことですから、まず間違いなく実行しそうです。今のご時世でそんなことをしたら、あっという間に犯罪者の仲間入りじゃないですか!?私の家族から犯罪者が出たなんて恥ずかしすぎて表を歩けなくなります。
「ええ、なんといいますか、兄には秘密なのです。ですから、3人とも兄に会っても、このことを言わないようにお願いしますね。万が一にも兄の耳に入ったら、きっと相手方にご迷惑をおかけしますし、もしまかり間違って兄が警察のご厄介になった場合は、兄は正直にすべてを話すでしょうし、その時にその人は原因を作った真の犯人になるでしょう。もしかしたら兄への情報提供者として警察の方から事情聴取を受けるかもしれません。これは冗談ではありませんよ?実際に起こりうる不確定な未来なのです」
「へ、へぇ、それは……私、なんてコメントしたらいいかわからないよ。とりあえず、宗司さんには内緒ということで了解。私、うっかり話しちゃわないかすごい不安…」
兄の話をしたら、なんか微妙な空気になってしまいました。なぜでしょうか。




