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7-19 ウルの森へ

 再び、『彼の世界』へと歩を進めた司たちは、


「ふむ、しばらく見なかった間に随分と酷い有様になったものじゃ。まぁ、生命の樹があっちにあるのだから、いずれこうなるのは必然としても……あまりにも変化が早過ぎる」


「体調は大丈夫そうか? 無理する必要はないんだぞ? もしもがあったらクーシュの姉たちに申し訳ないからな」


「心配無用、今のわらわはこの程度では消えんよ。司のおかげでかなりの力を蓄えたからな」


 クーシュの母鳥で空を移動し、広範囲を調査することにしていたのだが、あまりにも変わり果てた姿に唖然としていた。


「まさか、ここまで砂漠化が進行しているとは……」


「この分だと、生物たちには厳しい環境だろうな。食料、水ともに圧倒的に足りない。貴重な資源を求めて争いが起こっても不思議じゃない。地球のようにな」


 以前、司たちが空から見た景色は緑の広がる自然豊かな土地が続いていた。遠くには青い海が広がり、地球のそれと比べても何ら遜色のないものだった。


 それが、今はどこまでも広がる砂の大地が見えるだけで緑を探すのも難しい。

 海も、海岸線がどこまで後退しているのかわからないくらいで、急激な塩分濃度の変化は水生生物にも大打撃を与えていることが容易に想像できる。


「とりあえず、リリが気にしていた大樹のところに行ってみよう。ウルの森がどうなったかも知りたいからな。かなり風景が変わってるけど、場所、わかるか?」


「気脈は生きているから、見た目が変わっても問題はない。生命の樹の気配も感じ取れるから間違うことはないじゃろう」


「司よ、私たちは端で下を調査している。何かあれば連絡するから、クーシュたちの子守は頼んだぞ。特にリリちゃんは辛いだろうから側にいてやってくれ」


 宗司と舞は母鳥の端から地上の様子を調べるようだ。

 尚、ちょっと前からクーシュを胴体にくっ付けた状態の司は激しい運動はできない。基本的に留守番担当なのである。

 そして、不安でプルプルと震え出したリリを優しく宥めるのは司にしかできない。



 クーシュの母鳥に運んでもらい始めて数時間が経過した。


「ようやく見えてきたけど、大樹の見た目は前と変わって無さそうか? ここからじゃまだウルの森がどうなったかわからないけど」


 祠からリリ達の足でも全力で3日、司たちが歩けば2週間以上の距離をクーシュの母鳥は僅か数時間で移動したことになる。

 この空を移動する手段が無ければ、この気候の砂漠を途方もない時間かけて彷徨うことになるのだが、それは余りにも恐ろし過ぎて想像もしたくない。


「緑の匂いが、凄く少なくなってます……」


 リリが悲しそうな顔で呟く声は、聞いていて胸が締め付けられるようだった。


 ウルの民の嗅覚は鋭い。

 リリがそう感じ取れるということは、森の状態はとても悪いということに他ならない。


 本当に、このままウルの森にリリを連れて行っていいものか。

 現実に直面した時にリリが悲しむことが容易に想像できる司は、未だに迷っていた。




 その頃、干支神家の待機組は、


「カノコ、あなたは司様たちの情報をどうみますか?」


「司たちが言ってた砂漠化したってヤツのことかい? まぁ、第一位の仕業だろうね」


 兎神に問われたカノコは、作業の手を止めて一瞬考えこんでから回答を返した。


「あなたたちは……一体何を考えているんですか?」


「あなたたちって言われても、私はもうこっちの仲間のつもりだけど? あんまり内情を漏らすのはフェアじゃないんだけど……まぁいいや、マザーが望むことは1つ」


 カノコは勿体ぶって打ち明けた。


「あっちの世界の崩壊、ただそれだけさ。薄々、君たちも感じてたんだろう?」


「……世界を滅ぼして、どうするつもりなのですか?」


 ただ世界を壊そうとする、正直な話、正気の沙汰とは思えない。


「滅ぼしてどうするんじゃなくて、滅ぼすことが目的なのさ。そこに利害はないよ。マザーは世界そのものを恨んでるんだ。憎んで、恨んで、呪ってる。だから、滅ぼそうとしてる。それ以外の感情は一切ない。理由は、君たちなら知ってるだろ?」


 向き直ったカノコは兎神を試す様に目を見て伝える。


「やはり、あなたたちがマザーと呼んでいるものは……かつての蛇なのですね」


 カノコは兎神には答えなかったが、無言で微笑んでいることが彼女の答えなのだろう。


「だとすると、もう残された時間は少ない。そして、今あちらで蛇の勢力とぶつかるのは、とても危険ということ……司様、絶対に無理はしないでください」


 祈る様に呟く兎神に答える者は、誰もいなかった。

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