7-17 異変に備える
一旦、干支神家の屋敷へと戻った司たちは今回得られた情報を元に対策を立てる。
「砂漠化? そんなバカな……世界を支えるエネルギーラインすら消失させたというのですか? そこまでするなんて何を考えて……」
話を聞くなり1人でブツブツと考え込む兎神はとても珍しいのだが今は構っていられない。彼ならばそのうち正気に戻るだろう。
「司様、それでは装備関係と持ち込む物資を見直してリストアップしますので、後程確認をお願いします。水源が存在するかわかりませんが、ろ過装置はお持ち頂くほうが良いと思います。開封しなければ長期間常温保存できる水は多めに手配します」
「そうだな。重量超過が問題だけど、移動はクーシュ母とヴォルフたちが買って出てくれたから大丈夫そうだ。それよりも現地調達ができないことを想定した場合の食料関係が厳しいな……」
「たんぱく質とビタミンが現地調達できないとなると……サプリメントに頼るしかありませんね。しかし、短期間なら兎も角として、調査が長期化すると司様たちの体調が心配になります」
草原や森が消失したことで以前は収穫できていた果実や肉に頼ることが出来なくなったことはかなりの痛手だ。
今回の調査では祠の付近を捜索しただけなので、場所によっては自然の残っている地域もあるかもしれないが、それを最初から見込むのは楽観視しすぎている。
「では今日中にリストアップした物資は2日以内に揃えますので、集まった時点で舞様と宗司様を交えて確認しましょう。その後、不足があれば追加調達いたします」
「任せた」
橙花と蒼花はテキパキと段取りし、あっという間に方向性が決まっていく。ちゃんと現場の人間の複数の意見を聞くことも忘れないのが良い仕事である。
早々にヴォルフたちに協力の了承は得られたが、リリは現地で感じた内容を報告するためにプラントエリアに向かっていた。
「そうだったのか。しばらく見ない間にあっちは大変なことになっていたのだな」
「ウルの森、今はどうなっているのか心配ね……私たちの故郷なだけに無事であってほしいわ。あの森はヴォルフやお母様たちとの思い出がありますから」
改めてリリから詳細を聞いたヴォルフたちはあまりの惨状に困惑していた。
「だが、あっちがそんな状況だと、先代の大樹様は……」
「大樹様は特に気にしていないように感じるので大丈夫そうですけど……え? 大樹様、そうなんですか? ウルの森は無くなっちゃったかもしれないんですね……悲しいです」
リリが伝えられたのはここにいるのが大樹の本体で、あっちは抜け殻のようなものだから安心していいということ。
そして、現地の様子は少しだけ感じ取ることはできるが、以前よりもかなり力が弱まっているので森として機能しているか怪しいということだった。
「リリ、それは実際に行って確かめてくればいい。そして、悲しむ必要はない。大樹様がいる場所こそが、我らのいるべき場所なのだから」
ヴォルフの言い分もわかる。
新しい大樹が根付く干支神の土地は、司がいるここはリリにとっては掛替えのない場所。
でも、リリは生まれ育ったウルの森も同じくらい大切に感じていた。
(司さんはウルの森に行くって言ってた。私は故郷の森の最後を、この目に焼き付けてこよう。育ててくれた感謝を忘れないように)
司と触れ合うことで、リリは日々成長している。
どんな姿になっていたとしても、少なくても自分だけはウルの森の最後の姿を覚えておこうと考えていたのだった。
最近、めっきり影が薄くなったカノコは考えていた。
「世界が枯れ始めたということは、あの段階に入ったということか。そうなると、第一位の次の行動は……アレのはず。万が一、司たちが深入りするとかなり危険が伴うね。保険を掛けておく必要がありそうかな?」
自問自答しながら、カノコは何かを作り始めた。
彼女の部屋では赤い光が明滅していて、一体何を作っているというのか。
「それにしても、今の私をマザーが見たら何て思うかな~? バカ娘って笑って許してくれるといいけどな~。まぁ、第一位は全力で殺しにくるだろうけどさ」
司たちにとって悪い結果にならないことを祈るばかりである。
移動に関してはフェルス族とヴォルフたちに協力を取り付けた司。
「ふむ、これくらいであれば何もないのと変わらん。背中から転がり落ちない限り、運ぶのは問題ないぞ。固定する方法を考えるが良い」
「そうですか? それは助かります。では、水はもう100リットルくらい増やして、食料関係も2セットくらい増やしましょうかね」
それは自分たちが考えていた以上に物資を持ち込めそうであった。
「ぴぃぴぃ」
母鳥が橙花と調整をしている間、司は子守を担当していた。
帰ってきてからというもの、久しぶりにクーシュにへばり付かれてコアラ状態。
「クーシュ、そろそろ許してくれないか? 今度は留守番じゃないからさ」
中々機嫌を直してくれなくて今に至っているのだが、この問題はいつになったら解消されるのだろうか。
次回の遠征の出発時期は刻一刻と近づいていた。




