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7-12 ともにあるということ

 司がよたよたと覚束ない足取りで向かったのは干支神家地下のプラントエリアだった。


 1年間の寝たきり生活で筋力が落ちていて、自分の身体とは思えないほどの運動レベルだったが徐々に運動量を増やして地道に戻していくしか方法はない。


 壁を伝って頼りなく歩く司を心配して、先導するリリが振り返った。


「司さん、私が背中に乗せて歩きましょうか?」


「いや、自分で歩かないと良くならないから大丈夫だよ。リリ、ありがとうな」


 いつもの何倍もの時間をかけてプラントエリアにたどり着くと、自動扉を開けたと同時にいくつもの気配が近づいてくるのがわかった。


「司、もう歩けるようになったのか?」


「無理はしてないですよね? リリ、司さんが無理をして転びそうになったら、ちゃんと支えてあげるのですよ?」


 真っ先にリリの両親ヴォルフとルーヴが駆け寄ってきて司たちに声をかけると、リリはわかっているというように頷いた。


「ヴォルフたちのおかげさ。やっとまともに歩けるようになったから、今日は大樹にお礼をしようと思って来たんだ」


「司が元気になって大樹様も喜んでいると思う。さ、案内しよう」


 リリにたくさんの指示を出し、司の身体を復活させるために働いてくれていた大樹。

 司は動けるようになったら真っ先に感謝を伝えたかったのだ。


 ヴォルフたちの先導で大樹が育っている場所を訪れると、モンスタープラントたちがわさわさと身体を揺らして出迎えをして、さっと左右に分かれる。まるでモーゼである。


「リリから聞いたよ。色々と世話になったみたいで、ありがとうな。あの時は、少しどうにかしていたから道を誤ったけど、もう大丈夫。これからは大切な人のためにまた頑張るよ」


 気にするな、司に返事をするように枝を揺らして答える大樹。

 さらに、これを持って行けと言わんばかりに司の前に自分の葉っぱを3枚落とした。


「何かわからないけど、もらっておくよ」


 大樹の葉っぱは大切にリリの巾着袋に収納すると、次にヴォルフたちが案内したのはウルの民が住処にしているコンテナハウス。


 ルーヴが最初に入って中の状態を確認し、顔だけ出して司たちを中に促す。


「大丈夫です。今は寝ているので静かに、どうぞ」


 コンテナの入口や窓には暗幕が張られていて中は薄暗くなっていた。

 コンテナの中には、ウルの民で今年出産をした2組の番の内の1頭が横たわっていて、その手前に子狼が2匹寝ていた。

 ずっと巣に籠りっぱなしになると運動不足になるため、もう1頭は農業に出ていて交代で子育てをしているとルーヴが説明する。


「これが、私たちの新しい希望です。司さん、この子たちを祝福してあげてくれますか?」


 司は、ぷーぷーと安らかな寝息を立てている子狼たちを恐る恐る撫でる。


「温かい……」


 司が保護した当時のリリよりも遥かに幼く、子供独特の体温の高い小さな身体はゆっくりと息づきながら、ここにいると確かに主張していた。


「私たち一族が、また新しい命を授かることができるのは司さんのおかげです。ヴォルフに替わって感謝を。私たちの代、リリの代、この子たちの代、その先も、ウルの民はこの場所を永劫守ることを誓います」


「私がついにお姉さんになったんですよ。この子たちに大樹様や司さんの凄さを教えるのは私の役目なんです! きっと仲間想いの良い子に育てて見せます!」


 ルーヴの過大な感謝にも思うところがあるのだが、それ以上にリリが子狼に何を吹き込むつもりなのかが気になって仕方がない司だった。



 その後は、ヴォルフの案内で畑にした部分を見回り、巣から巡回に来たミツバチたちに挨拶をして、魔境エリアでマッドチャリオットたちの子供も遠巻きに確認した。

 ちなみに、子竜はマッドチャリオットの雄のほうの頭の上でのんびりと寝ていた。


「司、すっかり元気そうじゃな」


 最後に遭遇したのはフェルス。

 お腹の袋には2匹の子供が入って寝ていたが、クーシュの姿だけが見当たらないので探していたら、


「ぴ?」


 母鳥の背中から遠慮がちに顔をのぞかせた。


「クーシュはどうしたんだ? いつもなら真っ先に飛びついてくるのに」


「最近は司の体調を気遣って、わらわの背中で過ごすことが増えたようじゃな。この子もついに思慮というものを学習したようでうれしい限りじゃ」


 司は苦笑して大丈夫と言わんばかりに両手を広げると、すぐに母鳥から降りて司にヒシっとしがみ付いた。


 クーシュをいつも通りに抱き上げようとした司だったが、抱え上げたところで身体が万全でないため大きくふらついてしまうが、ヴォルフたちが支えてくれて事なきを得る。


 司は、改めて認識する。

 自分はこれだけ多くの助けがあったから、今ここで立っていられるのだと。


 たくさんの想いに感謝して、自分がいるべきなのはあの偽りの幸せの夢の中ではなく、今この場所なんだと、仲間の体温が教えてくれていた。

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