7-7 待望の目覚め、しかし……
司の心臓が動き出したことがわかった後、リリは舞に窘められていた。
「リリ、司さんを良くする案があったのなら、何で私たちに教えてくれなかったのですか? リリにだって考えがあるんでしょうけど、それでも相談すらしてくれないのは、悲しいです。私たちは姉妹みたいなものでしょう?」
「う、ごめんなさい。舞さんを悲しませるつもりはなかったです……でも、効果が出るまではナイショにしておきなさいって大樹様が言ってたから。もしかして、反対されるかもしれないって……」
舞も本気で怒っているわけではなく、半分は愚痴を言っているようなものである。元はと言えば、リリをほったらかしにしていたのは舞たちのほうなのだから。
「確かに事前に聞いてたら、どういう効果があるかもわからないものを飲ませるのは反対したかも……でも、リリは効果があるってわかってたのよね?」
「はい、大樹様がきっとそうなるだろうって言ってましたから。予め、司さんから血をもらっておいたから、今回は助けられるって。思ったより、たくさんの葉っぱが必要だったので作るのには凄く時間がかかっちゃったみたいで、出来たのは最近ですけど」
最近、というと舞たちが本当に切羽詰まっていた頃である。
だから、リリは個人的な活動を誰に咎められることもなく完遂することができたのだ。
「それで、司さんは、あのまま良くなるのですか? 目が、覚めるのですか?」
「もうちょっと時間はかかるみたいですけど、司さんの目は覚めるはずです」
「そう……ですか。よかった」
「舞さん、泣かないでください。大樹様が大丈夫って言ってるんですから、司さんは大丈夫です。信じて、起きるのを待ちましょう?」
走って走って走って、それでも走り続けて疲弊して、だけど歩みは止められなかった。
これまで気丈に振る舞い続けていた舞が、女の子に戻った瞬間であった。
その後は、毎日定期的に大樹の葉が投与されるのが見届けられた。
司の肉体が日に日に正常に戻っていく様子が医学的兆候として確認されてからは、今か今かと周りのほうがソワソワし始めたくらいである。
しかし、それを面白くないと思っている人物が1人だけいた。
「うーん、ちょっと予想外。計画だと、司を目覚めさせるのは、私のおかげってことになるはずだったのになぁ」
部屋の中に自分1人しかいないことを確認してから、女は1人で独白する。
「私もすっごく頑張ったのに、リリちゃんの行動がインパクトありすぎて霞んじゃうのが辛いところ……とは言っても、一番なのは司が無事に目覚めることだよね。例え身体が、どんな状態だったとしても」
随分と含みのある言い方だが、ある程度は予想をしていたニュアンスが含まれている。
「まぁ、まだ挽回するチャンスはありそうだから、虎視眈々と機会を伺って行こうかな。もしかしたら、土壇場で形勢逆転することもできるかもしれないしね」
ふふふ、と黒い笑みを浮かべるカノコはまだまだ何か企んでいそうな雰囲気だった。
リリが大樹から伝えられていたすべての処置が終わった時、司の部屋には関わった全員が集合して、誰もが固唾をのんでその状況を見守っていた。
既に、司の肉体は正常レベルを取り戻していて、いつ意識が戻ってもおかしくない状況になっていた。あと必要なのは最後の切っ掛けである。
「みんな、ご苦労様。司の身体は、もう大丈夫だろう」
「? あなたは、いきなり何を言っているのですか?」
いきなりベッドに向かって歩きながら、不審な発言を始めるカノコ。
「何って? 計画は次の段階に移行したってことさ」
「だから、あなたは、何を……」
その突然の行動に、兎神たちは訝しんだが、よくわからないことを言うのはいつものことなので初動が遅れたことが仇になった。
「リリちゃんもご苦労様、ちょっとだけ計画が狂ったけど、最後の最後にチャンスが残されていた。ふふふ、最後に笑うのは、この私だ!」
司の傍まで到達すると、カノコは白衣のポケットに手を突っ込み何かを掴んでから、その手を振り上げて、降ろす。
それは、司の身体に触れると赤い閃光を伴って、脈動した。
「!? 蒼花! すぐに、あいつを司様から引き離せ!」
即座に羽交い絞めされて隔離されるカノコだったが、事は成就した言わんばかりに笑顔を浮かべる表情が不気味すぎる。
「お前! 司様に一体何をした!?」
いつもの口調をどこかに置き去りにして、激昂する兎神。
普段は温和で感情の起伏の乏しい彼が初めて見せる激情は、宗司ですら恐怖を感じるほどで、一般人の澪たちは竦み上がって動けなくなってしまった。
「何って、もちろん司を起こすための手助けだよ? それ以外に何があるっていうのさ」
その中でただ1人、兎神に対して普通に会話をするカノコ。ただし、その身体は蒼花と橙花に拘束されていて宙ぶらりん状態だったのだが。
「それに、私なんかに構っている場合かい? ほら、目を覚ましたよ」
赤い鳴動が収束すると、司の瞼が徐々に開かれていくのが見て取れた。
この場にいる全員が待ち望んでいた様子に、一同は息を呑んだ。




