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7-5 壊れた時計の針が動き出すとき

 未だに謎の昏睡を続けている司を見舞いに来た人物がいた。

 彼が眠り続けて約1年、時間が出来れば様子を見に来ては気落ちしている姿が度々目撃されていた。


「じいちゃん、司は大丈夫だよ。みんながこれだけ見てくれてるんだから、今はダメかもしれないけど、いつかきっと良くなるよ」


「ララ……わかってはおる、わかってはおるんじゃ。だけど、ずっと後悔が消えないのじゃ。あの時、わしが軽率な行動をしなければ、もしかしたら司はこうはならなかった。そう考えると司に、孫を預かった司の両親に、妻に申し訳ないのじゃよ」


 司と再会した時は、あれほどまでに豪快に笑っていた祖父の干支神えとがみげんの元気さが今は見る影もない。その様子を見て、ララが心配そうに源の足元にすり寄った。

 あの一件以来、一緒に干支神家に移り住んでから、ララは出来る限り源の側にいて心の支えになっている。


「ララ、すまんな、こんな情けない育ての親で。屋敷にいる間は大事も起きることはないじゃろうから、ヴォルフ殿たちのところに行ってていいんじゃぞ?」


「俺は、じいちゃんに恩返しできて嬉しい。それに毎日ちゃんと父ちゃんと母ちゃんには会ってるよ。2人もできる限り司の力になってやってくれって言ってくれてる。俺にはリリみたいに司を治す手伝いは出来ないけど、じいちゃん1人の面倒くらいは見れる。だから、大丈夫」


 ララの健気な言葉を聞いて、目に涙を浮かべる源。

 小さな子供だと思っていたララが、いつの間にか一人前の男に成長していた。

 それに比べて、自分はなんと情けないものか。


「すまん……すまんのう。もうちょっと、もうちょっとだけ時間をくれ。絶対に立ち直って見せるから。司が目覚めた時に、こんな情けない姿を見せるわけにはいかんからのう」


「ああ、少し休憩が必要なだけさ。じいちゃんなら1人でも大丈夫かもしれないけど、俺の仕事はじいちゃんの面倒を見ることだからな! 元気になるまでずっと側にいるから安心してよ。あのお布団ってやつで一緒に寝るのも慣れたもんさ!」


 司の様子を確認して部屋を出ていく源の横を並んで歩いていくララはとても頼もしかった。

 もちろん、元主人がこんな状況になっているのを兎神たちは知っている。

 彼らの性格上、通常ならば放置することは有り得ないのだが、差し迫った状況にならない限りはララに任せることにしているようだ。




 彼の地のどこかにある暗い場所。

 そこには、謎の男マリスがマザーと呼んでいる繭のようなものと会話をしていた。


「あの女が消息を絶ってから、1年程になります。もはや、我々を裏切ったと見てよいでしょう。今思えば、当初から不審な行動をして、何を考えているかわからない女でした。居場所は、恐らくあの男のところでしょうね」


 マリスの意見を聞いて、それを否定するように光るマザー。


「マザーは違うとお思いですか? しかし、何の報告もなく、というのはおかしいのではありませんか? 我々の為を思って行動をしているならば、何らかの方法で経過を伝えてくるはずです」


 さらにそれを否定するように強く光る。


「私と、あの女ではあり方が違うと?」


「では、マザーはあの女をどういう目的で作られたのですか? こちらの意図を無視して、あれほどまでに勝手気ままに動くユニットは、いくらマザーのご意思とはいえ看過できません」


 行っていること自体は社会通念上問題があるかもしれないが、マリスはとても忠実だ。

 マザーの目的を達成することが、彼の存在意義でもあるのだから。


 しかし、それ故に、自由奔放に動くカノコのことが許せなかった。

 どこで何をしてるのかわからず、連絡も寄越さない。さらには何を考えているのかもわからない。これでは信用しろというほうが難しい。


「今は、言う事が出来ない……ですか、わかりました。マザーがおっしゃることですから、今は納得しましょう。しかし、次に会った時に、何を報告するかであの女の意思を確かめさせてもらいます。よろしいですね?」


 マリスはマリスなりに目的達成のために自ら考えて動いている。

 しかし、忠誠心が高すぎるというものも考えものである。


「それで計画のほうですが、例の木は完全に機能停止をさせることに成功しました。それに伴ってなのか、あの森にいた獣たちはどこかへ去ったようです。気脈の整理も一段落しました。空のポイントですが、そちらも徐々に力を失ってきているようですので時間の問題でしょう。世界の崩壊は確実に迫ってきています」


 マリスを労うように大きく脈動したマザーは、それ以降は眠る様に動きを止めた。


「それでは、次の目的のために蓄えていたC~D級を野に放ちます。同時に、製造ラインをフル稼働させて順次在庫の補充を測る予定です」


 司たちが動けないでいる間に、彼らの目的達成は刻一刻と近づいてきていた。

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