7-4 とある3人の息抜き
カラーンカラーンと軽快な鈴の音と共に、喫茶店のドアが開かれる。
「お、いらっしゃい。今日は3人なのか? 珍しいな」
顔見知りが入店してきたのを確認してすぐに声をかけたのは、この店のマスターである大俵剛。
「マスター、こんにちは」
「ちわー」
「剛、ケーキを食べに来た。今日のおすすめは何?」
もはや言わずと知れた顔ぶれの3人が澪、詠美、優である。
目的はマスターの作るケーキなのだが、最低でも月1回、多い時は週1回ほど通う超常連である。
お店の左奥のテーブル席、いつもの場所を陣取ると3人は注文を済ませてまったりモードへ突入する。
「舞ちゃん大丈夫ですかね? 最近、随分と悩んでいるみたいなんですけど」
「私たちにも言えない内容なんだろうね……相談してくれないのはちょっと寂しい気もするけど、司さん絡みじゃ仕方ないかな。この1年間、舞がどれだけ頑張ってきたか知ってるから」
「カノコあたりなら聞けば教えてくれそう。あの女、たまによくわからないこと考えてる顔してるのが怪しいけど」
オフの時間に日頃の悩みをここぞとばかりに吐露する3人。
「なんだ、舞ちゃんは司のとこなのか? 相変わらず仲が良いな。そう言えば、最近は司の姿を見ないな。それに、あのリリちゃんって言ったか、あの子も元気なのか?」
「司さんは変わりはないですね。リリちゃんは、いつもお家で元気いっぱいです。最近は別の子に赤ちゃんが生まれたみたいで、急にお姉さんになりましたね」
「へぇ、元気にやってるなら問題ないな。今度、何か食べに来いって言っといてくれや」
司たちの事を知っている剛が様子を聞いてきたが、差しさわりのない返事しかできない。
本当のことを話せば、要らぬ騒動を起こす可能性があるからだ。
剛は注文のケーキセットをテーブルに配膳して奥へと戻っていく。
「そう言えば、エイミーは宗司さんとの仲はどうなってるんですか? 最近は宗司さんも司さんのお家にちょくちょく来てるので、前よりは接点増えてますよね? 何か進展しました?」
「うーん、最近の宗司さんってらしくないっていうか、いつも切羽詰まってるように見えるんだよね。話しかけても笑顔が硬いし、ずっと何か考えてる顔してるし。まぁ、それは舞も同じなんだけど」
「司の経緯を知っていると見て間違いない。舞の鬼気迫る様子は、ある意味で異常。自分の妹があんな状態なのに、それを見て知らん顔している兄はいない。……もしいたら殴る」
大好きなケーキを突きながらガールズトークに花が咲くのだが、内容は専ら舞たちの事。
この1年間、彼女たちも手伝えることは全部やってきた。
最初は親友の恋人という立ち位置だった司だが、今は彼女たちの友達でもあるのだ。
「3人ともまた来てくれよ。舞ちゃんと司たちにもよろしくな」
たっぷり2時間居座っても、文句の1つどころか笑顔で送り出してくれるマスターの人情にほっこりしながら、3人は武神家へと向かう。
「凛さん、こんにちは。例の件、報告しに来ました」
「澪ちゃん、詠美ちゃん、優ちゃん、こんにちは。中に上がっててくれる? 今やってる稽古を切り上げたらすぐに行きますから」
「はーい、お邪魔してます」
門から入って道場へ向かう途中で舞の母である凛に遭遇、許可をもらった3人は玄関から武神家へ入って客間へ。
舞たちとは小学生の時からの幼馴染で門下生とも顔見知りの為、勝手に家に入ったとしても咎められることはない。
「お待たせ。巌さんは手が離せないみたいだから、今日は私1人で伺いますね」
しばらくして凛が現れたのだが、先ほどの道着姿から着物に着替え、髪まで完璧にセットされていた。武神家として、人前に出るのに身だしなみは妥協しない。
この辺は、割と適当な舞と違うところである。
今日は1か月に1回の定期報告の日である。
舞が干支神家に住み込みになったことで情報が得られにくくなったので、客観的な補完を3人に依頼しているのだった。
尤も、重要案件については例のホットラインで報告がなされるのだが。
「そうですか、未だに芳しくはありませんか。はぁ、いつになったら孫の顔を見られるのかしら……折角一緒に住んでいるのだからバーンといってバーンと作ってバーンと産んでくれればいいのに」
「あの、凛さん? 私たち一応高校生なので、それはちょっと……」
あまりにもド直球すぎてコメントに困る。
「何を言ってますか、私は18で宗司を産みましたよ? あの子だってもう17ですから、そろそろのはずです。それに名前だって考え始めてますから、いつ孫が産まれても問題ありません」
宗司は凛が18の時の子供だった驚愕の事実。ということは、舞は26の時の子供になる。
「決して、誰の子でも良いと言っているわけじゃないですよ? 他ならぬ司さんとの子供だったら、いつできても良いと舞ちゃんには常々言い聞かせてますから」
「そ、そうですね、それでですね……」
このまま続くとエライことになりそうだと感じた澪は話題変更を試みるのだった。




