7-3 人間の苦悩と自然の叡智
あの話し合いの後、兎神は舞と宗司だけを部屋に呼んでいた。
「昼間の件ですが、お二人はどう思いますか?」
「私は司さんが回復する見込みがあるなら、やるべきだと思います。この1年、色々なことを試したけど全然成果が出てなくて、正直辛いです。何か特別なアプローチが必要な時期なのかもしれません」
「リリちゃんも言ってたけど、嫌な気配はしないな。あれを取り込むことで何か変化があるならやるべきだろう。ただ、いきなり試すのではなく人体実験は必要だろう。それは私が引き受けても良い」
舞と宗司の意見は概ね高評価だった。
「やはり、お二人ともそう感じますか? 見込みがあるならやるべきだと」
「「?」」
兎神も自分の感覚を不思議に思っている様子だった。
「私は、不思議なのです。リリ様を含めて、誰一人として否定的な意見がないのが。もちろん、それは私にも当てはまります。宗司様が懸念されている通り、これは未知の人体実験です。普通なら忌避されるべきもの。なのに、なぜか非常に好意的に思えてしまうのです」
まるで見えない何かに誘導されているかのように。
「お二人には話しておきますが、あの魔核はカノコが言う通りの作用を及ぼします。それは、実際に使用している私が保証しましょう。ただ、それは人間とは異なり、もともとそのように作られている私たちだからこそなのです。それを司様に適応したとして、上手くいく保証はどこにもない」
「カノコだけじゃなく、兎神さんたちも……人間じゃない?」
舞の質問を肯定するように兎神がゆっくりと頷く。
「戸籍上は日本人ですが、私、橙花、蒼花はそもそも人間ではありません。どちらかと言えば、カノコに近い存在です。私たちの寿命がどれくらいかはわかりませんが、既にこの場所に200年ほど留まっています。源様の何代も前から干支神家に仕えているのです」
「一体、何のために?」
「私たちが干支神家に仕える理由……それは司様にお会いすることでした。私たちが求めていた要素を全て持つのは、過去にも未来にも、司様お一人でしょう。私たちには、司様が司様だから必要なのです」
全てを語ったわけではないが、兎神たちにとって司が特別だということはわかる。
「司様は何としてもお救いする必要があります。しかし、その魂が変質してしまってはならないのです。今回の件、カノコの行動は不明な点が多い。人知れず魔核を作成したところもそうです。何よりも、誰一人として疑問に思わないのが異常すぎるのです」
「お二人には協力してほしいことがあります。それは……」
何が正しいのか、兎神は慎重に見極めなければならなかった。
リリは大樹に呼び出されてプラントエリアに向かっていた。
「大樹様が私に直接ご用なんて珍しいです。急いで行かなければ」
リリがプラントエリアの中央、大樹が立身している場所に近づくと、モンスタープラントことプラちゃんたちがそれに気づいて喜びを現す。
「こんにちは、プラちゃん。ごめんね、今日は大樹様にご用があるの。後で、ね?」
そして、大樹様係になっていたウルの民、今日はヴォルフに声をかけられた。
「ご苦労、リリ。今日はどうしたんだ? この時間にリリがここに来るのは珍しいな」
「お父さんもお勤めご苦労様。今日はね、大樹様が私にご用があるって連絡くれたから急いで来たの。大樹様、おまたせしました」
リリが大樹に声をかけると、これまた嬉しそうにワサワサと枝が揺れる。
ここの植物は一体どうなっているのか。
「え? 最近、司さんの様子はどうかですか? 相変わらず、眠ったままです……ええ、もうすぐ1年くらいですね。とっても寂しいです」
リリと大樹が近況報告をしているようだった。内容はさっぱりわからないが。
「え? 3日後にまた来ればいいのですか? 渡すものがあるから、首から提げる袋を持参ですね。わかりました」
よくわからないが、2人で約束が成立したようだった。
「大樹様のお話は終わったか? ルーヴたちがリリの手が空いたら来てほしいと言っていたぞ」
「そう? わかった。プラちゃんたちの相手をしたら向かってみるね」
「新しく生まれた子たちが泣くそうだ。リリに会いたいらしいぞ。まだ目も開いてないのに凄い人気だ。さすが、私の娘だ」
「えへへ」
ヴォルフに褒められてまんざらでもないリリ。尻尾がすごい勢いだった。
3日後。
兎神、舞、宗司たちは紅い石の扱いをどうするべきかで何回も話し合っているようだった。
今回の件は、司の身体に大きく影響するのでかなり慎重になっているようだ。
カノコは何かを企んでいる様だったが、仕事以外のほとんどの時間を1人で過ごしていたので真意はよくわからなかった。
約束通り、リリは大樹から何かを受け取った。
それは大切にきんちゃく袋に入れられて、リリの首に掛けられている。
それぞれの思惑を胸に、状況は時間と共に進んでいく。




