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7-2 決断の時

 兎神は迷っていた。


 この1年で、あらゆることを試して、肉体のコンディションは整いつつあるのにも関わらず、司の容体が良くならない。

 カノコが言うには、心に問題があるらしいが、真偽のほどはわからない。


「私たちは、司様の負担になっていたのでしょうか」


 兎神としては、誠心誠意をもって司に仕えていたつもりだった。

 そして、もしかしたら、このまま目が覚めることはないのか? という恐怖も感じていた。


「きっかけ……か」


 兎神はカノコたちに相談することにしたが、正直どうすればいいのかわからなかった。



 一方、カノコはというと、


「これはチャンスだね」


 自室で、第三者が見たら引くような黒い笑みを浮かべていた。


「司がいないことで、ここの統率が取れなくなりつつある。兎神たちの意識や思考も司に重点が置かれるようになったから、私はほとんどフリーになれてる」


 カノコの手の中には、紅く光輝く石があった。


「これを、みんなにバレない様に作るのは苦労したなぁ。でも、予定通りだ」


 以前、マリスの身体から見えていたような、脈打つような紅い石が。


「後は、話に少しずつ嘘を混ぜながら、あの計画に誘導するだけかな」


 どうやら、何か良からぬことを企んでいるような雰囲気だった。



 司への処置に関して、今後の方向性を決めるために集まって会議を行う。

 メンバーは宗司、兎神、橙花、蒼花、カノコの5人。


「遅れてすいませんでした。少し、引き継ぎに時間がかかってしまいました」


「いえ、問題はありませんよ。舞様は少し根を詰めすぎです。多めに休まれたほうがよろしいくらいかと」


「ありがとう。でも、今が頑張る時だから。休むのは、後でもできるわ」


 そこへ、遅れてきた舞が合流した。


「それでは、定期会議を行います。議題は……」


 各自が担当になっている情報をまとめるために、司の容体についての実情、実行中の処置の効果確認などが報告されていく。


「1年が経過して、司様が回復される兆しが見られません。何か別の解決方法が必要なのかもしれません」


「兎神、いいかい?」


 手探りで行ってきた治療が万策尽き、兎神が新たな方策を考えることを提案しようとしたとき、満を持してカノコが名乗りを上げる。


「これ、使ってみないかい?」


 そう言って懐から取り出したのは、あの紅い石。


「あなた……それをどこで手に入れたのですか?」


「まぁ、そんなことは些細なことだよ。今、大切なことは司をどうやって回復させるのか、だろう? それ以外の事なんか、後で考えればいい事さ」


 兎神が鋭い視線を投げるが、それを受けるカノコは涼しい顔だ。


「それって、あの石ですよね? それと司さんが何の関係があるのです?」


「これはね、君たちが魔核と呼ぶものだ。これが持つ役割はいくつかあるけど、その1つに人間でいえば心臓にあたる働きがあるんだ」


「私たちは外見こそ人間のように見えるかもしれないけど、人型であるだけの別の生物だ。もちろん心臓なんていう器官はない。その代わり、魔核が魔素を身体に循環させる役割を持つんだ。現に、私のここにも同じ物が入ってる。現物を、見てみるかい?」


 カノコは自分の胸を指さして、にやりと笑う。


「司の身体は高エネルギーで保たれた状態だけど、そのエネルギーが循環しないから、本来の生命活動を妨げているんじゃないかい? だから、魔核で補助してあげれば息を吹き返すんじゃないかと考えているんだ」


「確かに一理あります。しかし、それには重大な欠点があります。宗司様からどんなものかをお聞きしていますが呪詛のようなものの塊なのでしょう? そんなものを司様に投与することはできません」


「落ち着きなよ。これは、アレとは違うものさ。嫌な気配は感じないだろう? 心配だったらリリちゃんに調べてもらえばいい。善悪を、判断する能力・・・・・・があるんだろう?」


 判断に迷った兎神は、リリの感覚を頼ることにして、


「何かご用ですか?」


 事情を知らないリリは、急に呼ばれたことを不思議に思いながらトコトコと現れた。


「リリ様、これを見て何か感じますか?」


「? 不思議な感じがしますね。何て言うか、とってもモヤモヤします?」


 リリが出したのは悪い感じはしないが良いとも断定できない、そんな答えだった。


「それと何となくですが、少しだけ兎神さんと同じ気配を感じる気がしないでも? たぶんですけど悪いモノではありませんね」


「!?」


 リリが出した結論は何を意味するのか。


「そうですか。ありがとうございました。これはお返しします。処置については、少し考えさせてください」


 兎神は石をカノコに返すと、部屋を後にした。

 その背中をカノコがじっと見ていたのは気のせいではないだろう。

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