6-53 時の揺り籠⑧
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テラスで優雅に午後のひと時を過ごす中年夫婦。
2人の足元にはたくさんの柴犬たちが寝そべったり、じゃれ合ったり、走り回ったりして自由に過ごしていた。
「お館様、奥様、お茶をお持ちしました」
「ありがとう、橙花。あら、今日はクッキーなのね、おいしそうだわ」
オレンジ色のメイド服を着た女性がティーセットを並べて、紅茶をカップに注いで行くと、足元で柴犬たちもソワソワし始める。
「少しお待ちなさい。次は、あなたたちの分も用意しますから」
メイド女性がそう言うと、柴犬たちは一斉に並んでお座りの体勢に入る。
自分たちもオヤツがもらえるとわかると、現金なものである。
「あなた、今日は要が宗玄君を連れて遊びに来るそうですからね。ちゃんと挨拶してくださいね?」
「げ、あいつも来るのかよ……」
露骨に嫌な顔をし始めた男性の横で、オヤツを前に待ての体勢をとる柴犬たち。
待ちきれないのか、尻尾がパタパタと動きっぱなしだ。
「良し、食べていいですよ」
メイド女性が合図すると一心不乱に食べ始める。
ご飯は定時に食べているのに凄い食欲。オヤツは別腹のようである。
「おかあさーん! おとうさーん!」
「こんにちは、おじさん、おばさん」
底抜けに明るい声と表情の女の子と、物静かな男の子が一緒に現れた。
「要、おかえりなさい。宗玄君、こんにちは。良いところに来たわね、今は丁度お茶の時間だから、こちらにお座りなさい」
「すぐにお嬢様の分も用意しますので、まずはこちらをどうぞ」
「わーい! クッキーだ! いただきます!」
「要……まったく一体誰に似たのか」
着いて早々にクッキーを頬張る女の子に何か物申したい男性だったが、満面の笑みで空腹のリスのように食べている様子を見て、しょうがないなぁという顔になった。
「要、今日は泊まっていくのでしょう? 夜は要の好きなハンバーグにするわ。一緒に作りましょう?」
「はんはーぐ、らいすき! いっそにつくふ!」
「こらこら、食べながらしゃべるんじゃない。仮にも女の子なんだから……」
「まぁ、要らしいと言えば要らしいですけどね……」
嬉しそうに母親と会話をする女の子だったが、男性陣は苦笑しまくりであった。
しかし、笑顔や雰囲気、動きなどは天真爛漫を体現しているような女の子なので怒るに怒れない、そんな葛藤が見え隠れしていた。
そして、おやつを食べ終わった柴犬たちは、女の子と遊びたくてうずうずしているようで、足元をウロウロしたり、顔を足に擦り付けたりとアピールに忙しい。
和やかな午後のひと時は、全員が笑顔だった。
さらに時は流れて、
ベッドの上には、時を重ねた女性が横たわっていた。
満足そうに微笑む顔に、所々に見られる皺の数が長生きをした証左。
ベッドの周りには同じくらいの歳の男性と、世代の違う男女が囲み、全員が一様に女性を見つめていた。それ以外に、柴犬の親子が何組も見える。
「ふふふ、どうやら、もうすぐお迎えがくるみたい」
「舞……」
それを聞いて、悲しそうに歪む男性に微笑み返す女性。
「司君、そんな顔をしないで。私は幸せでしたよ? 司君に会えて、結婚できて、子供たちにも恵まれて、孫たちにも会えましたから。それに、この子たちは、代が変わってもずっとずっと側に居てくれました」
女性が話している間、誰一人しゃべろうとはしないで、一言一句を静聴していた。
皆は気づいているのだろう。
「自分がやるべきことを全てやって、子供や孫たちに慕ってもらえて、愛する人たちに自分の最期を看取ってもらえる。これを幸せと言わずに何といいますか。ああ、本当に幸せな人生でした……」
恐らく、これが最期の会話になることを。
「出来ることならば、次に生まれ変わった時にも、司君と一緒になりたいな」
女性の目線は男性に向けられているが、そこに映っているのは男性の過去の姿なのかもしれない。
「ああ、でも、その前にあっちの世界でヴォルフたちと遊んであげないとか、ふふふ。随分と待たせちゃってるはずだしね。たくさんたくさんいるから、きっと大仕事よ?」
ここまで来るのに、何度も何度も出会いと別れを繰り返した。
「ああ、最後に手を、握っていてもらえますか? 司君」
男性が女性の手を握る。
「この温かい手に、何度助けられたことか。本当に、ありがとう」
男性の手を握る力が徐々に抜けていって、女性の目から光が消えていく。
「司君、先に行ってますね。あっちでヴォルフたちと待っていますから。でも、あまり長く待たせないでくださいね? 私は司君がいないとダメですから」
「ああ、ヴォルフたちによろしくな。わしも直にそっちへ行く、そんなに待たせないさ。舞、ありがとうな」
「はい、待ってます。ああ、ヴォルフ、ルーヴ、ララ、リリ……みんな、今行くから、ね」
その言葉を聞いて、満足そうに微笑んだ女性から、完全に命の灯が消えた。
最愛の女性の最後を看取った男性の目からは涙が溢れ、しばらく手を握ったまま動けないでいた。




