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6-49 時の揺り籠④

 館の主人の目論見はほぼ達成したと言ってもいいだろう。


「まーちゃ、わんわんだよ?」


「わーわー?」


 子供はじゃれついてくる子犬たちを赤ちゃんに見せていた。

 まるで赤ちゃんに、これが犬だよって教えるかのように。

 子犬たちは遊んでもらっていると勘違いしているのか尻尾を左右にふりふりして嬉しそうだ。


「司は凄く人見知りするほうなんだが、あの子とは相性がいいのかもしれないね?」


「悔しいですが、つーちゃんもあの子も楽しそうですし、本能的に合うのかもしれませんね」


「この度は、私たちの無理を聞いて頂いてありがとうございます。お二人には急な話だったはず、面目次第もない」


「源様の先見は流石です。娘ともども末永くお付き合いくださると嬉しく思います」


 親たちは親たちで子供たちの動向を見守っていたが、いつの間にか年相応の拙い交流を垣間見てほのぼのした雰囲気に包まれていた。


「あの子が、妹のお相手なのですか?」


「あくまで候補、だな。本人同士の相性というものもあるし、そういう関係になれない場合もある。まぁ、あの様子を見れば相性は問題なさそうだろう。あとはお互いに望めば」


 本人たちの与り知らぬところで勝手に人生が決まってしまうのは、当人の可能性を狭めてしまうかもしれない。しかし、逆に出会いが可能性を秘めているかもしれない。


「宗司君、安心しなさい。贔屓目かもしれんが、儂の見立てでは孫は逸材だ。きっと、君とも仲良くなれる。そうだな、特に何事もなくお互い成長して15を迎えたらそれぞれの意向を聞いてみよう。その時、片方でも望まないならば、この話はなかったことにしよう」


「私たちはそれで構いませんよ。凛さんを見れば、舞ちゃんは気立ての良い美人さんになりそうですし。それに武神家は名家ですからね。縁を結べるのは僥倖です」


「私たちのほうこそですよ。舞は気難しくて私か宗司以外が抱くとぐずるんです。巌さんの時なんて烈火の如く泣きますから。あの子が初対面であんなにも懐いていることが信じられません」


 赤ちゃんの兄は心境複雑そうだったが、とりあえずは今後を見守るしかなさそうだった。


「お母さーん、まーちゃがお腹すいたってー」


「あら? もうそんな時間ですか? 司ちゃんはよく気づきましたね。ありがとう」


 赤ちゃんの母親が少し離れて授乳しようとしたが、いつもと違い子供のほうをちらちらと見るので、その場ですることにした。

 同時に子犬たちもお腹が空いたとアピールを始めたので、母犬が気づいて寄ってきた。子供の側でごろりと横になると、すぐに子犬たちはご飯目掛けて襲い掛かっていた。


 既に子供を中心としたコロニーのようなものが形成しつつあるようだ。



 そんな時間も瞬く間に過ぎ、別れが訪れる。


「あああああーーーー! あああーーーー!」


 しかし、子供から引きはがそうとしたら怒涛の泣きを見せる赤ちゃん。

 これには流石の母親もびっくりで、一向に泣き止む気配がないことに驚きが隠せない。


「ごめんなさいね、こんなこと初めて。よっぽど司ちゃんから離れたくないのね」


「まーちゃ、まーちゃ、さみしくないよ、ゆびきりで約束」


 泣き止まない赤ちゃんに子供が手を差し出すと、藁にしがみ付くようにガシッと両手を伸ばしてしがみ付いた。


「また、遊ぼうね? ゆーびきーりげんまーん……」


 不思議なことに、子供が指切りの歌を歌っている間に、赤ちゃんはいつの間にか泣き止んで笑顔になっていた。


「ゆーびきった! まーちゃ、またね? ばいばい」


「あー!」


 子供が手を振ると、赤ちゃんも嬉しそうに手を伸ばす。

 2人にしかわからないような、言葉のいらないやり取りがあったに違いない。


「これは……こちらからもできる限り司君に会いに伺うようにします。娘の事を是非よろしくお願いします。この縁に感謝を」


 赤ちゃんの父親は、子供の親にそう言って帰っていった。

 去り際には館の主人と何やら話していたようだが、それは本人達のみぞ知ること。


「つーちゃんは、舞ちゃんのことどうだった? 好き?」


「まーちゃ、すき!」


 笑顔で元気よく答える子供に向かって、食事と食休みを終えた子犬たちが突撃していく。

 きっと、これからまた遊びたいのだろう、親犬たちも授乳に子守に大忙しである。


「あやややや」


「もうララとリリったら、つーちゃんにオヤツ休憩をさせてあげて?」


 母親が子犬たちに注意をするが、そんなことは理解できるはずもないので遊びながらのオヤツタイムとなっていた。

 興奮する子犬たちを見て、親犬たちは何となく申し訳なさそうな様子だった。


「我が孫は、成長が楽しみだ。兎神よ、そうじゃろ? あれのことを頼んだぞ?」


「ええ、もちろんです。一族の使命にかけてお支えします。お約束しましょう」


 一部ではやや含みのある不自然な会話をしていたが、それに気づいたのはメイドたちだけだった。

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