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6-46 時の揺り籠①

 満面の笑みを浮かべる小さな男の子。

 にこにこと無邪気な笑顔が示しているのは、溢れんばかりの幸福感か。


「つーちゃん、はい、どうぞ。今日のご飯は、つーちゃんが大好きなオムライスですよ」


 今か今かと待ち構えていた男の子のもとに運ばれてきたのは、バターを隠し味にケチャップで味付けしたチキンライスをふんわりタマゴで覆ったアレ。


 子供が大好きな、黄色いアレ。


「わーい! お母さん、ありがとう! オムライス大好き!」


「司、嬉しいのはわかるけど、ちゃんと座って食べなさい。お行儀が悪いよ?」


 オムライスを見て、スプーンを片手に跳びあがった男の子を、隣に座っていた30歳くらいの男が窘める。言葉は厳しいが、顔は苦笑いしていて貫録がちょっと足りない。


「はーい、ごめんなさい」


「ふふふ、つーちゃんは本当にオムライスが好きね。作り甲斐があるわ。はい、あなたもどうぞ」


「ありがとう、では食べようか。いただきます」


 頂きますを合唱して、一家の晩御飯が始まった。

 今日のメニューはふわふわオムライス、生野菜のサラダ、オニオンスープ。

 一般家庭のごくごく普通の食卓風景だった。


「もぐもぐもぐ、おいちい!」


「あらあら、そんなに急いで食べたら……ほら、つーちゃんったら、ほっぺにご飯がいっぱいついてますよ? ……はい、綺麗になりました」


「あはは、司はオムライスを食べるときはリスさんみたいだなぁ」


 小さい男の子が、スプーンで口いっぱいにチキンライスを頬張って元気よくモグモグしている姿はとても愛らしい。


「あなた、口にモノを入れたまましゃべらないで。つーちゃんが、悪い大人の真似をしたらどうするんですか?」


「むぐむぐ、すまん……」


「ふふふ、我が家には子供が2人もいるみたいですね。片方は随分大きいですけど」


「むぎゅ?」


 先ほどまで子供に行儀の話をしていたのに、逆に妻に自分の行いを嗜められて立つ瀬のない夫。それを見て、しょうがないなぁと笑う妻。首を傾げる男の子。


「ごちそうさま! おいしかった!」


「はい、よくできました。つーちゃん、えらいえらい」


「おー、今日もたくさん食べれたなぁ、司はきっと大きくなるぞ~。じゃ、お風呂入ろうか」


 どこにでもある光景だけど、どこか温かい印象を受ける普通の家庭。


「司は大きくなったら何になりたいんだ?」


「う? うーん、うーん。消防士さん!」


「ほほう、司は人々を助ける仕事に就きたいんだな。流石は俺の息子だ、えらいぞ。それじゃ、何で消防士さんになりたいんだ?」


「格好いいから!」


 子供の答えに、父親は苦笑だ。

 親子でお風呂に入って、父親が子供の未来を相談している光景。


「お母さん! お風呂でた!」


「ちゃんと身体は洗ってきましたか?」


「自分で洗った!」


「はい、よくできました。つーちゃんは良い子ですね。では、髪を乾かしますからドライヤーしましょうね」


 お風呂から出てきた子供を膝の上に座らせて、髪を乾かす母親。

 子供はドライヤーの温風がくすぐったそうに頭を左右にクネクネさせていた。


「あら? つーちゃん、もうオネムですか?」


「うん……」


「布団引き終わったぞーって、司は……もう半分寝てるな。俺が運ぶよ」


 母親がお風呂から出てくる頃には、子供の頭は舟をこいだようにフワフワとしていた。


「よいしょっと、司も随分と重くなったな。ちゃんと成長してるってことか。おやすみ」


「たくさん食べて、いっぱい遊んで、元気に育ってくれると嬉しいですね。はい、つーちゃん、おやすみなさい」


「お父さん、お母さん、おや、すみ……」


 親子3人、布団で川の字。

 布団に着くなり、2人の真ん中でスヤスヤと眠り始めた子供を見つめる目は、とても温かく愛情に満ち溢れている。


「よかったのか? 俺となんか結婚して」


「それ、何回も聞きますけど、私は幸せですよ? それとも、私との生活に何か不満でも?」


「不安なんだよ、君は幸せだって言ってくれるけど、本当に満足させられているのかって。君は実家を出てまでついてきてくれたのに、俺は……」


「ストップ、それ以上言うと怒りますよ? 私はこうしたほうが、自分が幸せになれると思ったからしたんですよ? それをあなたが否定してどうしますか」


 努めて子供を起こさないように静かに会話をしていた2人だが、夫の不用意な発言に語気を強める妻。


「私は幸せです。あなたとつーちゃんがいてくれるだけで。きっとお父様だって、つーちゃんを見せてあげればきっとコロッと態度が変わりますって」


「明日のことを考えると憂鬱だよ。君のお父さんとは最後まで喧嘩別れだったから、顔を合わせた瞬間に殴られても文句は言えない」


「大丈夫です、そんなことをする親だったら、つーちゃんを二度と合わせませんから。孫に悪影響を与える祖父なんて、私たちに必要ありません」


「君って意外と容赦ないよね……」


 今、2人にとって一番なのは目の前でスヤスヤと眠る子供のこと。

 この子の為なら、きっと自分たちは何でもできる。


 どこにでもあるような、幸せな3人の家族の光景だった。

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