6-42 司たちの元へ急げ
宗司は世界を渡ると、すぐに司たちを探すために出発した。
万が一のために応急処置ができる物資を多めに持ち、生活必需品は最低限の装備だ。
「それでは、母鳥殿、よろしくお願いします」
「うむ、任せよ。娘よ、案内を頼むぞ」
「ぴっぴぃっぴ!」
時は一分一秒を争う状況のため、宗司は母鳥に飛んでくれるように依頼した。彼女に頼めば、圧倒的な時間を短縮できるのだから。
案内役はクーシュだ。不思議なことに彼女は司の場所がわかるようなので。
ちなみに、今回クーシュの姉妹は干支神家でお留守番である。
準備を終えた母鳥は重力を無視して上昇すると、クーシュの指定する方向へ飛び立った。
「武神の小僧よ、なぜ集気法なんぞを司に教えた? あれは術者に適性が無ければ扱えないシロモノじゃ。まぁ、わらわが見る限りは司には多少適性があるようじゃが」
母鳥は今回の問題の原因が知りたいのかもしれない。
尤も、禁忌として教えたので、使用した司に全面的に責任がある。
しかし、教えなければ使うこともない。故に、宗司にも責任があるのだ。
初代武神の闘気法。
その本質は、母鳥が言う様に気を集める術式である。
気とはエネルギーのこと。
周囲にある自然、つまりは竜脈や気脈と呼ばれるエネルギーラインを通じて、惑星そのものからエネルギーを抽出して、自分に取り込む術。
人の身には余りある膨大なエネルギーは肉体のあらゆる機能を強化する。
武神初代は、これにより素手で石垣や城門を砕き、刀や槍を肉体で受け止め、敵兵の頭上を飛び越えて城にいた敵将を打ち取った。
子孫であり、武神直伝の巌や宗司も似たようなことが可能だ。
しかし、同時にデメリットも存在する。
体内を駆け巡る膨大なエネルギーで肉体は人間を超越した動きをするが、脳がそれを処理できるわけがない。
人間が普段から何気なくしている動作には、信じられないほどの情報処理を必要とする。
それが突如として十倍、百倍、千倍となった時、脳にかかる負荷も相応することになる。
そして、結果として処理できない膨大な情報を強制的に叩き込まれた脳は、崩壊する。
人間の脳が、突然スーパーコンピューターには成れないのだから。
「私は司という義弟ができて、嬉しかったのかもしれません」
舞という、宗司が文字通り命を懸けて守った最愛の妹が、初めて愛した男。
宗司が幼い頃から直接手解きをして育ててきた、初めての弟子。
宗司の身体を治すきっかけを与えてくれた、恩人の孫。
宗司は武神の男として、自分の代わりに、司に立って貰いたかった。
宗司は竜との約束で遠くない未来に朽ちる。
志半ばで自分がいなくなった時、舞を守れるのは伴侶である司しかいない。
だから、司を自分の後継者として育てれば、宗司は安心して逝くことができる。
「功を焦って、色々なものを見失っていたのかもしれません。あの時の司の眼を見れば、そして優しくて危うい性格を考えれば、禁忌を使う可能性があったのに」
司の抱える心の闇、宗司は前々からそれに気づいていた。
今でこそ、リリや舞といったプラスの面々に囲まれているので鳴りを潜めていたが、本来の司の心は歪だ。
宗司が指導していた頃、幼くして両親を目の前で亡くした弊害なのかもしれないが自分の命を軽んじすぎる傾向があった。
そして、生きることを諦めた人間に武神流を振るうことは許されない
だから、宗司は努めて司の兄のように振る舞った。
司には期待をしていたから。
宗司の指導を、想いを通じて、司が生きる活力を取り戻してくれることを信じて。
生きたい、その強い気持ちが司には必要だったから。
「それを見て見ぬふりをしてまで、司に武神を求めてしまった。事実を知れば悲しむだろう舞やリリちゃんたちの気持ちを蔑ろにして、自分の想いを優先してしまった」
宗司がしたことを舞やリリが知れば、彼女たちは烈火の如く怒るだろう。
司が無事ならば良い、でも万が一、それが原因で司が亡くなりでもしたら……宗司は彼女たちから絶縁状を叩きつけられてもおかしくない。
自分の余命と、自分の想いと、司の心と、司を取り巻く環境。
宗司はその全てを天秤にかけて、結局は自分の気持ちを優先してしまった。
「私は、そういう弱い人間なのです」
「そうか……人間とは難儀なものじゃな」
母鳥には、宗司の気持ちが少しだけわかった。
彼女は自然と生き自然と死ぬだけのフェルスに在って、自分の存在意義を求めた唯一の個体だったから。
宗司が成し遂げようとしていたことと、自分は少しだけ似ていると。
そして、それ以降、母鳥は宗司に話しかけることはなかった。




